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「みっちゃんとゆうくんと雪だるま」-100%嘘の思い出話

こういう冬の寒い日になると思い出す話がある。
これは私がまだ小学3〜4年生だった頃の話。
もう具体的な日にちは覚えていないけど、とにかく週末に大雪が降った時の話だ。  

私が朝ごはんを食べ終えるとすぐに電話が鳴った。
みっちゃん(仮名)からだった。公園で遊ぼうという誘いだった。
私には断る理由がなかった。  

まず、みっちゃんの話をしたいと思う。
みっちゃんは同じクラスの男の子で、私とみっちゃんは仲が良かった。とにかく毎日のように遊んだ。あそぶ場所は専らみっちゃんの家だった。
わたしはみっちゃんの家に行くのが好きだった。
みっちゃんには10くらい歳の離れた兄がいた。
わたしの目当てはみっちゃんの兄の本棚だった。そこには沢山の少年マンガに混じって"ふたりエッチ" が並んでいたのだ。  

私たちがみっちゃんの家で遊ぶ時、私たちは仲良しグループ3〜4人で遊ぶことが多かった。当然、ゲームをして遊ぶ流れになるとコントローラーの奪い合いになる。
私はそのタイミングで「みんなゲームしててよ。俺はみっちゃんのお兄ちゃんの部屋で漫画読んでるから」と、1人その場を離れることが多かった。
みっちゃんの兄は夜にならないと家に帰って来ないことも知っていた。
私はそうやってみっちゃんの家でふたりエッチを週3くらいのペースで読んでいた。  

私は、みっちゃんの家で過ごすのが好きだった。  

ちなみに、この話はこれから紹介する話とは一切関係ない。忘れてもらっても大丈夫だ。  

話を戻す。
私はみっちゃんの家のふたりエッチは週末に読めない事を知っていた。みっちゃんの兄が家にいる事が多かったからだ。だから、私はみっちゃんと雪遊びをする事を快く受け入れた。  

近所の広い公園に行くと既にみっちゃんが雪をいじっていた。普段は土だらけの地面が真っ白な雪で覆われていた。
私がみっちゃんに挨拶をすると、みっちゃんが「大きな雪だるまを作ろう」と言い出した。
これだけ雪が積もっていれば、大きな大きな雪だるまが作れるだろう、と。
みっちゃんが頭を、私が胴体を作ることになった。小さな雪玉が少しずつ大きくなっていく。私たちはそれぞれ無心で雪玉を転がした。  

しばらくしてみっちゃんが「頭が出来た!」と叫んだ。見てみると、私達の太ももくらいの高さの大きな雪玉が出来ていた。
これだけ大きな頭だったら、自分たちの身長くらいの雪だるまができるかもしれない。
「これに見合うくらい大きな胴体を作らなければ」と、今度は2人で一緒に胴体となる雪玉を転がし始めた。
雪玉はみるみる大きくなった。2人で力を合わせてやっと動かせるくらいの大きな雪玉になった。そしてそれが私達の胸くらいの高さになった時に異変は起きた。  

表面が茶色い。  

大きくなった雪玉はその自重で必要以上に地面の雪をめくり上げ、その下の土まで巻き込んでしまったのだ。
私たちは焦った。これだけ頑張ったのにこのままでは土だらけの汚い雪だるまが出来てしまう。どうにかしないと。
汚くなった表面を消すためにさらに転がす。しかし一回その大きさになってしまうとどうやっても土を巻き込んでしまう。
しかし私たちは他に方法を思いつけなかった。なにかがうまいこと作用して綺麗にならないかと祈りながら、そのまま雪玉を大きくし続けた。  

結果、雪の塊なのか泥の塊なのかわからないものが出来上がった。あまりの汚らしさに、私たちのテンションは下がってしまった。とりあえず頭を上にのせてみたが、私たちの気持ちが晴れることはなかった。私達の雪だるま作りは失敗した。  

2人でうなだれていると、もう1人の友人、ゆうくん(仮名)が現れた。みっちゃんが呼んでいたのだ。ゆうくんはビニール袋を手に下げていた。  

「みんなで雪、食おうぜ!」  

ゆうくんはそう言ってビニール袋の中からかき氷のシロップを数本取り出した。みっちゃんと私は「その発想はなかった!」と、ゆうくんの提案に心を躍らせた。  

ここで、ゆうくんの人となりについても説明したいと思う。  

ゆうくんは嘘つきだった。  

「裏技を使ってミュウツーをレベル300まで上げたらミュウスリーに進化した!」
「スマブラで隠しコマンド入れたらキャラクターのグラフィックがリアルになって、攻撃を受けると血を吹き出すようになった!」
「お兄ちゃんがアメリカのギターの大会で優勝して100万円もらった。弟の俺もアメリカに招待されたから今度行ってくる!」  

みたいな感じだ。
私たちはなんとなくゆうくんの嘘に気付いていたが、深く追求することはなかった。
なぜなら、ゆうくんは気に入らない事があるとヒステリックに泣き叫んで暴れるタイプの子だったからだ。ちびまる子ちゃんで言うところの前田さんだ。
それに、ゆうくんの父親は他人の家の子供にもめちゃめちゃ怒鳴るタイプの父親だった。他人の父親に怒られる時ほど怖いものはない。
要は、面倒だったのだ。
けど、普通に接する分には楽しかったので、私たちはよく遊んでいた。  

話を戻す。  

ゆうくんは雪原にドボドボとかき氷のシロップを注いだ。イチゴ、メロン、ブルーハワイ。見た目は思ったよりも汚かった。
けど、私たちは目前にあるかき氷の食べ放題に胸を躍らせた。みんなで色のついた雪をすくって食べた。
雪のモサモサとした歯触りとシロップの甘み。少し埃っぽい匂い。正直あまり美味しくなかった。最初のうちはうめーうめーと食べていたが、しばらく食べすすめると雪の下から土が出てきた。
私たちは現実に引き戻された。少し土を食べてしまったかもしれないと。急にその場が盛り下がってしまった。  

せっかくの雪なのに失敗が続いてなんともやりきれない気持ちになった私達の目に、先ほど作った泥まみれのゆきだるまが映った。
これは私達の失敗の象徴であるような気がした。…壊してしまおう。そういう流れになった。  

まずは頭を殴った。あっけなく粉々になった。大きな塊がパンチで粉々になる様は爽快だった。私たちは夢中で雪だるまの頭にパンチをし続けた。  

しかし胴体はそう簡単にはいかなかった。自重で踏み固められ、溶け始めて凍ってしまった雪は私達のパンチやキックではそう簡単に壊れなかったのだ。
それでも私達は胴体への攻撃を続けた。そして、私が「えいやっ!」と、かかと落としを喰らわせた瞬間、雪玉は真っ二つに割れた。  

その断面を見た私達は大いに盛り上がった。雪の層と土の層が綺麗に交互に分かれていて、ミルクレープみたいになっていたからである。  

「すげえ!チョコアイスみたい!」
ゆうくんが言う。コンビニとかでもよく売ってるミルクアイスにパリパリのチョコが入ってるタイプのアレだ。確かにそんな風にも見える。
そう思いながら聞いていたら、テンションがMAXになったゆうくんがそのチョコアイスみたいになった雪玉にかぶりついた。  

「すげえ!チョコアイスの味がする!」  

そう言ってゆうくんはさらに雪玉をムシャムシャ食べ始めた。
チョコアイスみたいな見た目だけど、所詮は雪と泥の塊だ。私とみっちゃんはさすがにドン引きしてしまった。
今思うと、ゆうくんは盛り下がっていた私達の空気を盛り上げようと無理をしてくれていたのかもしれない。
けど、10歳かそこらの私たちには理解できなかった。普通にドン引きしてしまった。  

「え!ゆうくん、きったねー!おえー!」
「ゆうくん流石にそれは嘘だよ!きったねー!」  

当然そうなってしまったのである。
それを聞いたゆうくんの顔がみるみる泣き顔になった。みっちゃんと私は「しまった!」と顔を見合わせた。けどもう遅い。
ゆうくんのヒステリースイッチが完全にオンになってしまった。ゆうくんは金切り声を上げて泣きながら雪原でジタバタしはじめた。
ゆうくんがこうなってしまうと、私たちにはもうどうすることもできない。落ち着くまで待って、家に帰ってくれるまで見守るしかない。いつも通りしばらくしたら落ち着く。そう思っていた。  

しかし、その日は違った。ひとしきりジタバタしたゆうくんは何を思ったのか、雪玉をさらに食べ続けたのだ。泥と雪の塊をムシャムシャたべながら泣き叫ぶゆうくん。流石に私たちは怖くなってしまった。この光景をもし大人が見たら私たちが咎められるかもしれない。ゆうくんのお父さんがこの光景をみたら私たちを怒鳴り散らすに違いない、と。  

私たちは、泣き叫びながら雪玉を食べるゆうくんを公園に1人置いて、帰ってしまおうということにした。
泣き叫ぶ友人を置き去りにする事に対する罪悪感はあったが、大人たちに怒られる怖さが勝った。私たちはゆうくんを1人おいてそれぞれの自宅に帰った。  

次の日、ゆうくんは学校を休んだ。  

その後、ゆうくんは普通に学校には来ていたが、あまり話すことはなくなった。私たちは友人を1人失ったのであった。  

以上が冬の日になると思い出す、雪の日の出来事だ。  

…去年の年末に実家に帰った時、"久しぶりに小学生の頃の友人で集まらないか"という誘いがあった。どうやら十数人ほど集まるらしい。私は「久しぶりに会うのも悪くないな」と、その集まりに参加することにした。  

居酒屋に着くと懐かしい面々が出迎えてくれた。別れてから20年近く経っているが、意外とすぐに誰が誰なのか理解できた。その中にはみっちゃんの顔もあった。  

私とみっちゃんは向かいの席に座り、お酒を飲みながら懐かしい話に花を咲かせた。みんな見た目には大人にはなったけど、基本は変わらない。楽しい時間をすごした。  

みっちゃんと話をしていると、ふと前述した雪の日の出来事を思い出したので、話題に出してみた。「こんなことがあったね」「ゆうくんは元気にしているのかな」と。  

みっちゃんはその話を全く覚えていなかった。それどころか、ゆうくんのことすら覚えていなかった。
いや覚えていないという表現は間違いだ。みっちゃんはゆうくんのことを全く知らない、といった感じだった。  

当然だ。だって前述した話は100%嘘の思い出話だからだ。
雪の日に泥だらけの雪だるまを作ったことも、かき氷のシロップを雪原に巻いたことも全部嘘の話だ。当然、ゆうくんなんて友人はいない。そんな子はこの世に存在していない。ゆうくんも勝手に私が考えた嘘の思い出話の中に登場する架空の人物だ。みっちゃんがゆうくんを知らないのも至極当然だ。  

そう思った。
そう思いながら、私は今の状況に一つ大きな矛盾があることに気づいた。
この冬の日の思い出は100%嘘の作り話だ。ゆうくんなんて人物はこの世に存在しない。
それと同じように、みっちゃんなんて人物も存在しないのだ。
みっちゃんという友人も私が勝手に考えた架空の人物だ。
それじゃあ、目の前で酒を飲んでるこいつは誰だ?私がみっちゃんだと思って話をしてたこいつは一体…?  

そう思い気分が悪くなってきた私は、一度頭を冷やそうと私はトイレに行った。何かがおかしい。そう思った。  

私がトイレから戻ると私の向かいの席は空席になっていた。みっちゃんがいない。私が席を外している間に帰ってしまったのだろうか。
私は隣の席で飲んでいたかつての同級生にみっちゃんの行方を聞いてみた。  

「あれ?みっちゃん帰った?」  

そうしたら彼はこう答えた。  

「えっ…?あなた、誰ですか…?」  

〜完〜  

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