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【嘘日記】創作怪談「真夜中のたこ焼き屋」

先日、この自粛ムードに耐えられなくなって夜中に近所の公園に行ってブランコで遊んできたんですよ。

昼間はやっぱりマスクしたちびっ子たちが元気に走り回っているので行けないんですけど。

まあとにかく夜だったら大丈夫だろうと思って行ってみたんですよ。

もう24時回って真夜中って感じでした。
当然人は誰もいませんでした。

ブランコで久しぶりに遊びました。
もうおっさんですけど、こういうのって乗ってみると楽しいもんですよね。

ひとしきり遊んだ後ぼーっとしてたら公園に人が入ってきたんですね。

まあ夜中とはいえまだ電車は動いてる時間だし、東京はいろんな人がいるしなって思ってそこまで気にしなかったんですよ。

でも、なんか様子がおかしくて、というかよくみると長机と たこ焼き器 を持ってたんですよ。

長机にたこ焼き器おいて、ねじり鉢巻を巻き始めたんですよ。
で、リュックから横断幕?みたいなやつを取りだして養生テープで長机に横断幕を張り始めたんです。

そこにはデカデカと「たこ焼き」って書いてあったんですよね。

たこ焼き器の横には大きな銀のボウルもありました。

「うわマジかよこの時間に?」っておもったんです。

その人は手際良くたこ焼き器をセッティングしてからはしばらくボーッとしてました。

私はなんとなくその人に近づいてみたんですよ。

もう目の前まできたのにその人は私の事を無視してずっとボーッとしてたんです。

「たこ焼き、売ってるんですか?」

私は声をかけました。
その人は驚いた様子でこちらを見て、それでもまだボーッとしていました。

よくみるとたこ焼き器は電源に接続されてないし、ボウルの中も空っぽだったんですよね。

全然意味がわからなかったです。

私は試しにボウルに100円玉を投げ入れてみました。そしたらそれまでボーッとしていた顔が急に笑顔になってこう言ったんです。

「【たこ焼きあるある】鰹節がうねうね動くの、いくつになってもじっと見てしまいがち」

100円相当のあるあるを答えてくれました。

次は500円玉を入れてみました。

「【こんなたこ焼きは嫌だ】外はカリカリ、中はドロドロで緑色のくさぁ〜い粘液が詰まってる」

今度は500円分の大喜利を答えてくれました。
正直、意味がわかりませんでした。

私は気まずくなってしまってブランコに戻りました。

私はそのあともしばらくブランコで遊んでいましたが、その間もそのたこ焼き屋はボーッとどこかを眺めていました。

私はその視線の先を見てみました。
どうやら、公園に隣接したアパートの一室、一つだけ明かりがついている部屋の窓をずっと見ているようでした。

「なに?ストーカー?」私の不信感は急に増しました。

そして視線を前に戻すと目の前に、息を感じる事ができるくらい近くに、そのたこ焼き屋がいました。
私が驚きのあまり動けずにいると、彼はこう言いました。

「【こんなたこ焼き屋は嫌だ】毎晩、自分が苦しい時間を過ごした部屋の前で、静かにたこ焼きを売ってる」

そういうと、彼はスーッと消えていなくなりました。
長机もボウルも横断幕も消えていました。

私が投げ入れた100円玉と500円玉も消えていました。

私は「いや600円も一緒に消えるんかーい」って思いました。

おわり。

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