あいうえお物語

10
ノート

Run for your Life.

《小説》

『リキは言った。

「境界線がさ。」

「境界線って?」

サキは聞き返した。

「子供の頃に、」

リキはいつもそうであるように、サキの問いかけには答えずに、何かをその意識の焦点で捉えたかのように続けた。

「(子供の頃に、)父さんが買ってきてくれた、ヨーロッパの木版画の画集のあるページに描かれていた絵を見てさ。それが何年ものあいだ、頭を離れなかったんだよ。」

「どんな絵だったの?

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5

かけひき

《小説》

ユキは言った。

「この前、あなたが言っていたことについて考えてみたの。」

「どんなことだっけ?」

「あなたは、女の人と知り合って、少し言葉を交わすと『ああ、いつかこの子とするなぁ』とか『かなり仲良くなるけどきっとすることはないなぁ』ってのがわかって、これまでそれは外れたことがない、っていう話。」

「あぁ、その話か。うん、実際にそうだからね。」

「でも、確かにその相手とつきあう

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5

僕の上で

《小説》

ミキは言った。

「わたしのどこが好き?」

「鎖骨から頸のあたりの白い肌。」

「だと思ったわ。」

「それにO型だしね。」

「あなたはB型。」

そう言って見下ろしたミキの額にウェーブのかかった前髪がかかった。

窓からは朝の光の粒が飛び込んできていて、身体の輪郭にそって後光が差し込んでいた。

窓は30cmほど開いていて、そこから吹き込んでくる初夏の風がレースのカーテンを、まだ

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3

Un homme et une femme       〜オトコとオンナ〜

《小説》

マキは言った。

「もし犬を飼うとしたらどんな名前にする?」

「うーん、『ネコ』かな?」

「なにそれ?」

「そして子猫も一匹飼って『イヌ』にする。」

「冗談としても面白く無いわよ。」

「そして、僕に子供が生まれたら、その子が言葉を覚える過程で、『犬がネコで猫がイヌで。。。あれ?』って混乱するんだろうなぁ。」

「。。。アタシが小さい頃から気づいている秘密があるんだけど。」

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4

オトナの学校

《小説》

ハキは言った。

「今まで言われた中で、一番グッと来た口説き文句ってどんなの?」

僕は2秒ほど考えた。

「ある日、東銀座で打ち合わせがあって、終わったら午後4時くらいだったんだ。少し早いので、近所に住んでる女友達に連絡を取って夕方から2人でお寿司を食べに行ったんだよ。」

「随分と早いわね。」

「うん。思い立って連絡したら、彼女もたまたまスケジュールが空いていたということでラッキ

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3

モトヒコのその後

《小説》

ニキは言った。

「もう、セナの事故から20年が経つんだな。セナの死のように、多くの人が何年も前のある特定の日、自分がどこで何をしていたのかを忘れない、という、そういう印象を遺すというのはすごいことだよな。」

ニキと僕は大学1年の時に出会った。ニキの苗字は二木(ふたつぎ)という。当時僕らは彼に「ゴルフ」というアダ名をつけた。最初にゴルフと呼んだのは僕でそれが広がったのだった。しかし、

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3

悪いことに。。。

《小説》

トキは言った。

「お前さぁ、あのガイジンみたいな、綺麗な子と別れたんだって?」

「ああ。別れたっていうか、ある日突然、煙みたいに跡形もなく消えちゃったんだよ。一説によると、イギリスに行ったとかなんとか。。」

「今だから言うけどさ、なんであんな子がお前と付き合ってたんだか不思議でならなかったんだよな。」

そういうと、トキは意味ありげにニヤリとした。トキの本当の名前はトキオという。

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3

時と場合。

《小説》

サキは言った。

「もし、私が実は男だって言ったらどうする?」

え?

今、僕はベッドの上でサキと抱き合っている。彼女(か、彼女だよね)と抱き合うのはこれで2度め。この前はベロンベロンに酔っ払っていたし、真っ暗で、事が終わると夜のうちにホテルを出たから、正直言うと僕は、サキのあんなところだとかこんなところをマジマジと確認したわけじゃない。

でも、なんだってまたそんなことを、今このタ

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2

SABI TETSU ONANDO

《小説》

キキは言った。

"Why don't you smile a little bit more happily when you see me?"

言った、と書いたけど、正確には「多分、そんなことを言った」というところだ。僕はボーっとしていたし、キキはリスがドングリをカリカリと齧る(実際のところリスがドングリを食べるのかどうか僕は知らないけれど)ように、スタタタタ、とスタッカートが効

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2

288枚目のアルバム

《小説》

アキは言った。

「アタシと一緒にいる時は、ジミヘンとフランク・ザッパと、キング・クリムゾンは聴いちゃダメ。」

アキが、嫌いなくせにどうしてそういう音楽を知っていたのか?いや、最初はあの子はこういう音楽のことは全然知らなかった。僕が初めて彼女の部屋に行った時、彼女の部屋には品の良い音楽のCDが15枚くらいあっただけだった。品の良い音楽、というのも極めて主観的な僕の言い分だろうから、君

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