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「オーガニック食品で健康に!」は本当なのか?ー今わかっていることー

はじめに

 「オーガニック食品で健康に!」というキャッチコピーは近年、日常のあらゆるところで目にする機会がある。健康食品(サプリメントや特定保健用食品など含む)のマーケットは矢野経済研究所「2018年版健康食品の市場実態と展望」によると1.2兆円の規模であると報告されている。2015年にはこれまでの特定保健用食品や栄養機能食品に加えて機能性表示食品の認証制度が始まるなど政策展開の動きも活発に行われている。しかし、機能性表示食品に関しては安全性の確保を前提とし、科学的根拠に基づいた機能性が、事業者の責任において表示されるものであり、売り手側が判断して都合のいいように表示することが可能となっているのが現状である。

抜け道だらけの健康表示規制 

規制する法律に薬事法があるが、実際には抜け道も多く、規制としての機能は十分に果たしているかは疑問である。2016年から2017年に、企業DeNAが運営していた健康情報サイト『WELQ』でフェイクニュースや盗用で最終的にはサイトの運営停止や経営者の謝罪会見に至ったのが記憶に新しい。そんな中、今回講義を聴きながら、「オーガニック食品は人間の健康にいいのか」という問いが生まれたのでそれを考察したい。

農林水産省の認定制度


 オーガニック食品とは日本では農林水産省での認定制度が存在している。農林水産省のホームページには“「有機JASマーク」がない農産物と農産物加工食品に、「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されています”と記載がある。実際の規定を確認すると生産では、①堆肥等による土作りを行い、播種・植付け前2年以上及び栽培中に(多年生作物の場合は収穫前3年以上)、原則として化学的肥料及び農薬は使用しないこと② 遺伝子組換え種苗は使用しないこととされている。すなわち、化学的肥料および農薬を使用しないことをいう。

栄養疫学からのファクトチェック


 では栄養疫学による調査は行われているのだろうか。医中誌での「オーガニック」での検索結果では化粧品やボディーオイルの効果検証を行った文献は確認できるものの、食品は本文が入手できるものは確認できなかった。海外での論文を探したところ、いくらかの文献を探し出すことができた。結論から言えばまだ明らかに予後や疾病予防に寄与するという論文は出ていないようだ。多くの研究では有機食品を選択する健康志向バイアスを取り除くことが課題であると指摘している。実際に有機栽培でできた作物に関しては残留農薬が少ないことが確認されている。政府機関によって様々な規制のため、現在使用されている農薬は非常に安全性の高いものを使用している状況にある。多くの研究が行われ、その裏付けとなっているが、研究にも限界が存在するのは事実である。除外基準である。妊婦さんや小児に関しては除外されることが多く、本来成長期や妊娠や出産期への影響を懸念する声があとを絶たないのはそのためである。では実際、小児を対象としたコホートでは何があるのか?話題になっているのは残留農薬になあるリン酸エステルに関する影響である。台湾のコホート研究では小児期のリン酸エステル曝露が多いとIQが下がること(出生前の曝露量は関係しない)が報告。他に、フランスのコホート研究では、子供の尿中リン酸ジエチル代謝産物の最高濃度は、WISC-IV作業記憶のスコアが低いことと関連していたが、言語理解スコアとは関連していなかった。また、デンマークの出生コホート研究では、出生前のフタル酸エステル類曝露の増加は、男の子では言語発達と複雑さの標準化された尺度で低いスコアと関連していた。ただ女児に関しては関係していなかった。以上のように非常に限られたエビデンスの中で報告が認められる。対象者はいずれも少なく、IQはスコアリングによる評価者の差が入りやすいことからもここにも限界が確認できる。2012年のAnnals of Internal Medicineに掲載された17のヒトでの研究と、食品中の栄養素および汚染物質レベルの223の研究のシステマティックレビューでは有機食品が従来の食品よりもはるかに栄養価が高いという強力な証拠はないと結論付けられている。

農薬を使用しないこともまた問題である


 一方で農薬を使わないことによる健康被害のリスクも目を向けなければならない。農薬を慎重かつ慎重に使用することで、より豊富な食料供給が可能となる。安定した一年を通して収穫量確保や果物や野菜の値段低下による野菜そのものへのアクセスの良さを提供する。貯蔵寿命を延長し、カビの成長を遅らせる可能性も指摘されているのである。

お金をかけずに私たちがまずできること


 そもそも、農薬への曝露を減らすという目的を達成するために他の方法は十分されているのだろうか。つまり食品の洗浄、皮むき、調理、または加工によって、追加の農薬削減を達成できるという指摘がある中で、そちらを優先することのほうが合理的でよい選択であると考えられる。
 以上のように講義中の疑問に関しては決定的な解は得られなかった。ただ、現時点で議論の余地があることが確認できた。今後さらなる研究が進むことを期待しながら、お手頃価格の野菜をたくさん購入し、しっかりと洗浄したで上でおいしくいただく生活を続けたい。子供が生まれた際には、選択的な意思決定を働かせることも検討してもよいだろう。


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