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『ジャバーウォッキー』 テリー・ギリアムのレアなソロ監督デビュー作が再降臨

モンティ・パイソンに、あるいはテリー・ギリアムに人生を救われたという人は多いかもしれない。かく言う私も意外とそのクチで、彼らがBBCで製作した番組「Monty Python's Flying Circus」を初めてNHKのBSか何かで目にしたときは、大の大人たちが素っ頓狂なことに全力で取り組む姿に衝撃を受けたものだ。

テリー・ギリアムはパイソンズのメンバーの中でも一人だけアメリカからやってきた流れ者。他の面々はオックスフォードやケンブリッジ出身なのに、彼だけはそういう学歴がついて回るようなことはない。ある意味、そういったしがらみから大いに解き放たれた人と言える。そんな彼がいつしか演者よりも映画監督の道を邁進し始めるのも納得といえば納得である。

最初の作品は『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(75)。ただし、このときは同じくメンバーのテリー・ジョーンズとの共同監督作だった。口を開くて不平不満を発するパイソンズの面々を演技指導するのは本当に疲れる作業なので、この仕事はもっぱらテリー・ジョーンズが担当。テリー・ギリアムは芸術面やカメラのアングルや動きなどを受け持っていたそうだ。

そのため、後々には『未来世紀ブラジル』や『12モンキーズ』を始め数々の傑作ファンタジーを世に送り出すことになる我らが創造と狂気の権化、テリー・ギリアムの初ソロ監督デビュー作といえば、次なる『ジャバーウォッキー』が正真正銘のそれにあたるわけである。

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この『ジャバーウォッキー』、日本では劇場公開後にVHSリリースされたきりで、DVD化はされないまま数十年が経過してきた。すなわちファンにとっても触れる機会が少ないレアな作品だった。それがこのたび、マーティン・スコセッシとジョージ・ルーカスらの出資による4Kレストア化を経て、極めて美しい形で再降臨することとなった。これはめでたい。ただし、ケツは出すわ、糞尿は垂れるわ、ややグロい描写はあるわ・・・ギリアム作品の中でも少し暴走気味なこれらのシーンの数々を4K映像で享受できるのは喜び以外の何物でもない。何よりもギリアムはこの映画制作で、俳優というものがきちんと監督の指示に耳を傾けてくれるのを初めて実感し、非常に感激したのだとか。この時の感動がなければ彼は2作目、3作目と監督作を重ねていくこともなかったかもしれない。

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ちなみに、肝心のモンスターに関しては、今見ても極めてギリアムらしい造形だと感動を覚えるほどだ。予算の限度から考えても”着ぐるみ”でいくしかなかったものの、できるだけ””着ぐるみ感”を出したくなかった彼は一計を案じた。頭部はクレーンで吊り上げる形をとり、そこから下の部分に関してはスーツアクターが後ろ向きで着ぐるみに入ることによって、人間の動きとはいささか異なる不気味な感じを出すことに努めたのだとか。そのため、背後に揺らめく羽根は、スーツアクターが後ろ向きで手を広げている格好となる。また後ろ向きで進んでいく際には膝がありえない角度で曲げ伸ばしを繰り返すわけで、たったそれだけでも怪鳥と呼ぶにふさわしい動きを獲得することができた。で、後ろ向きで歩くにあたってスッテーン!と激転びしていろんな細部が壊れてしまうハプニングもあったらしいが、そのシーンも本編にしっかりと刻まれている。

ともあれ、本作と共に(パイソンズではなく)映画監督としてのギリアム伝説は本格的に始まったと言っていい。これまで見れずじまいだった方もぜひこの機会に目撃してみてほしい。

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『ジャバーウォッキー4Kレストア版』
監督:テリー・ギリアム、出演:マイケル・ペイリン、マックス・ウォール、デボラ・フォレンダー、テリー・ジョーンズ(1977年/イギリス)

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