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OEDO[2-1] ニュータイプの戦略

問題となるのは、日本のような大国が非武装にすると何が起こるのか。その参考となる先例がないことです。すでに軍隊を放棄しているバチカンやリヒテンシュタイン、コスタリカやツバルのような都市国家や小国は参考になりません。とりあえず平和は続いてはいるようですが。

反面、武力を強化した時に何が起こるのかは歴史が証明しています。緊張が高まり、戦争になるのです。勢力均衡による平和など幻想に過ぎません。1496年のイタリア戦争以降、つまり近世以降の戦争を見渡すだけでも、同程度の武力が悲劇を招いた例は枚挙に暇がありません。

軍拡すれば戦争の危険性が上がり、武力を捨てれば下がる。傾向としてそこまでは予想できそうですが、絶対ではありません。ただ、前世紀と比べれば戦争は起こりにくくなっていますし、先進国同士の戦争となればさらに頻度は下がっています。

どうやら民主化と自由化が進み、経済的先進国となった国から、侵略とは無縁になっていく法則があるようです。実は日本のような国こそ、非武装化すべき条件が揃っているのかもしれません。しかも「地球防衛隊」構想には、その危険性をさらに引き下げる実効性もあります。

それは外側からではなく、内側から他国を侵略できる戦略となるからです。国境を軽々と飛び越えて、他国の中に親日派、日本人のシンパを増やします。地雷撤去やSDGsに貢献すれば国際世論を、災害地での人命救助に貢献すれば直接その国の人々を、味方につけることができます。

これまでも、自衛隊に救助活動を任せようというアイディアがなかった訳ではありません。数年に一度は目にすることのある言説です。その意味では完全にオリジナルなアイディアではないのですが、「地球防衛隊」法案ほど包括的で、戦略的な議論に出会ったことはありません。

これまでのように、自衛隊が国内の災害活動に出動するのとも、国際緊急援助隊として海外に派遣されるのとも、規模も違ければ目的も違います。自衛官25万人の一部が活動にあたるのではありません。総員が平時の軍事訓練をレスキュー訓練に変え、地雷撤去や災害救助にあたるのです。

これは一種の情報戦──というよりハードパーワーをソフトパワーに昇華するような効果を担っています。トフラー流に言えば、力が制していた第二の波時代から、情報・ソフトが制する第三の波への転換です。敵国が最も嫌がりながら、かといって反撃に遺憾砲も打てないニュータイプの戦略になります。

これだけ民主化が浸透してきた世界で、独裁者が恐れるのは外圧ではなく内圧です。自らに刃向かう民衆の力をこそ、最も恐れています。中国やロシアを見れば顕著なように、巻き起こる反対運動やデモを力で押さえつけるのがやっと。ゼロコロナ時の習近平のようにたまに屈することさえあります。

彼らも馬鹿じゃありません。自らの圧政や失策には自覚的です。力で押さえるにも限界がありますから、国民の不満を他国に向けているのです。ガス抜き、つまりポピュリズム政策。自らの不安定な地盤を固めるためには、日本を悪者に仕立て上げなくてはならないのです。

民度が低く、好戦的で、歴史を反省しない憎き日本人──ああ、奇しくもウヨクの皆様が醸し出しているイメージそのものですね。せっかく愛国者の皆様が熱心に教科書を修正し、軍備を拡大し、敵国を罵れば罵るほど、近平や正恩の思う壺。いや、自らススんで彼らに加担しているのと同じです。

「地球防衛隊」はそんな愚策はとりません。懐柔するようなフリをして内側から敵を討つ、いわば「トロイの木馬」的な戦略です。日本病とでも呼ぶべきウィルスを撒き散らしてやるのです。これこそ現代における銃・病原菌・鉄──新たなコロニー落としとなるのです。

さぞ、独裁者たちは臍を噛むことになるでしょう。ガンダムでたとえれば、シャア様が「しかし、奴らがあの木馬の存在を知ったら慌てるだろうな」と呟く状況に追い込むのです。木馬討伐隊を組むには遅すぎるほどに戦線を拡大させれば──ア・バオア・クー陥落、ザビ家殲滅も目前になります。


※最後までお読み頂きありがとうございます。この「地球防衛隊」全体の構想は最初の投稿「OEDO[0-0]地球防衛隊法案──概論」にまとめています。それ以降の章は、この章も含めて、その詳細を小分けして説明する内容になっております。

第一部[1-1]〜[1-9]では「戦争観のアップデート」について。第二部[2-1]〜[2-9]では「地球防衛隊の活動と効用」について。第三部[3-1]〜[3-9]では「予想される反論への返答」について。第四部[4-1]〜[4-9]では「地球防衛隊に至る思想的背景」についてを綴って行く予定です。

敢えて辛辣に、挑発的に書いている箇所もありますが、真剣に日本の未来を危惧し、明るいものに変えて行きたいとの願いで執筆に励んでいます。「スキ♡」「フォロー」や拡散のほど、お願いいたします。


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