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映画『PERFECT DAYS』感想:「今」に幸せがある

映画『PERFECT DAYS』を観てきた。
以下、ネタバレありの感想になります。

良い意味で複雑な余韻が残っている。
この映画に描かれる幸せの形は、私が想像し憧れてきた一般的な幸せとは、ずいぶん違っていた。

主人公は、役所広司さん演じる平山さん。
平山さんは、スカイツリー近辺という立地とは裏腹の、見るからにや安く古いアパートに一人暮らし。
彼は、渋谷区の公共トイレを掃除する仕事をしている。
そんな、彼の日常と、その中にあるちょっとした変化を綴った映画。
刺激的なことは起きず、シンプルに日常が巡っていった。
シンプルだからこそ、時折表れる人や風景との出会いがとても新鮮で、ちょっとした奇跡みたいに思えた。

一方、酔っぱらって千鳥足のサラリーマンに立て札を倒されても気付かれなかったり、迷子の子どもを親に引き合わせてもお礼どころか目すら合わせてくれなかったり...
平山さんの体験するちょっと悲しく腹立たしい出来事は、一見本当にちょっとしたことだが、重なると大ダメージである。

そして、多くのエッセンシャルワーカーやサービス業で働く人は、こういう悲しく腹立たしい出来事を、日々沢山経験する。
エッセンシャルワーカーやサービス業に限った話じゃないかもしれないが、過酷だからこそ、仕事以外の時間で自分の「好き」を追いかけたり、心身を癒す時間が生きていくためにすごく大事になる。
私もある種のサービス業に就いていたが、職場の人の趣味や楽しみの多様さにびっくりしたことがある。

何だか、これから日々働き、暮らしていく上で大切になる姿勢を、改めて見せられたような気がした。

また、見終わった今、本当の幸せって何だろう?という普遍的な疑問が迫ってきて、のしかかってくる感じがしている。

平山さんは社会的には貧しく底辺に近い立場だが、自分なりの楽しみがあって幸せそうである。
一方、この映画に出てくるお金や家庭、地位がある人たちは、色んなことに思い悩んでいる印象の方が強い。
かといって、経済的な豊かさや、地位を全否定する映画でもない気がした。

豊かさ・幸せに決まった形はないし、幸せは人によって姿を変える。
ただ、少なくとも幸せは「今」に紛れ、溶け込むようにして存在する。
古本屋で売っている100円の文庫本、古いカメラで撮る木漏れ日の写真、カセットテープ、コインランドリー、銭湯、地下街の安い居酒屋...
経済の発展を求めるほどにどこか冷たく、荒れていく世界で、小さな幸せは大きな奇跡になる。
平山さんの小さな幸せが光る暮らしは、そんなメッセージをくれた気がした。


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