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障害者就労支援 in カナダ西海岸

今回は、今年3月に見学をした、カナダBC州のバンクーバー国際空港にある、ペーパープレインカフェから見えること、思うことをシェアしたいと思います。このペーパープレインカフェの見学ツアーを企画された、「自閉症療育支援の~と」たんぽっぽのBlogも参考にしてくださいね。
(※参加した見学ツアーの様子もアップされています。こちらをどうぞ)

(注意)私自身メンタルヘルスに関わる人間です。障害と言っても、すべての障害についてのエキスパートではありません(メンタルヘルスに関しても、まだまだ多くの学びはあります)。今回は私個人が感じて思うことをまとめています。気になる点や疑問があれば、コメントください。


インクルージョンカフェ「Paper Planes Café」 in バンクーバー国際空港


ペーパープレインカフェ@YVR

ペーパープレイン・カフェは、非営利団体のPacific Autism Family Network(自閉症とその家族を支える団体)と、バンクーバー国際空港(以下YVR )が共同で運営している、障害を持つ人々の一般就職を目的にした就労支援のカフェです。YVRはPacific Autism Family Networkのヴィジョンと一致しているということで、無償で場所を提供してくれているそうです。

カナダの空港の内に、このような社会的企業のカフェができるのは初めてということで話題になりました。CTV Newsによると、YVRのCEO・タマラ・ブルーマンは、空港は地域のつながりの場であり、コミュニティの人々と雇用を通じて結びつくことが重要だと話し、特に、機会とサポートが必要な人々が豊かになるために、空港が役割を果たすべきだと考えていると語っています(CTV News)。

このように多くの人が集まる空港内に、就労支援をするカフェができるというのは、就労するために頑張って働く側にとっても、また空港でこのカフェに立ち寄った方にとっても豊かな体験になります。またこのような取り組みが、多様性の社会を作っていくことを活性化するのだと思います。

このカフェの特徴は、ジョブトレーニングをしっかりとし、一般就労に確実に繋げていこうというところ。特に自閉症をはじめとする、神経多様性を持つ方たちを中心に支援するジョブトレーニングは、BC州ではさほど多くないようで、そういう意味でもユニークな取り組みなようです。では、そもそもBC州の障害者就労はどのようになっているのでしょうか?

BC州の障害者就労支援

BC州の障害者就労支援は、州政府が運営しているWork BC: People with Disability を見ると、個人に合わせて就労のサポートをしてくれるようです。ここは日本で言うとハローワーク的なところだと思います。その中の障害を持つ方の支援を見ると、例えば、スキルを得るための教育計画(助成金などもあります)、ジョブトレーニング、再就職などの一般就労に向けた準備のサポート、そして起業に関してもアドバイスやサポートがあるようです。ここに行けば、BC州内で受けることができるジョブトレーニングの情報も得ることができると思います。ペーパープレインカフェは、このような支援のカテゴリーで言えば、一般就労を目的にした有給のジョブトレーニングと一般就労への移行と定着サポートという位置付けだと思います。

それでは日本の障害者就労支援にはどのようなものがあるのでしょうか。
日本には、就労継続支援A型施設、就労継続支援B型施設、就労移行支援と就労定着支援の4つの支援施設が現在あります。

就労移行支援は、一般就労※を目指す、障害や難病のある人が利用できるサービスです。働くために必要な知識を身につけたり、スキルトレーニングなどの支援を受けることができます。

就労継続支援A型・就労継続支援B型は、障害や難病のある人で、一般就労は難しいが一定の支援を受けながら継続して働きたい、働く経験をしてみたい、という人が利用できる福祉的就労※です。例えば、実際のお店や企業、事業所などで働いたり、製品を作るなどの就労の機会を得ることができます。
就労継続支援A型は事業所との雇用契約に基づいて就労するため最低賃金以上の給与が支払われます。就労継続支援B型は雇用契約に基づく就労が困難な人を対象としており、生産活動を通して「工賃」が支払われます。

就労定着支援は、就労移行支援などを経て一般就労へ移行した人が長く働き続けられるように、主に生活面での課題を一定期間サポートする障害福祉サービスです。2018年から開始した比較的新しいサービスですが、実際には就労移行支援事業所が就労定着支援事業もおこない、より長期的にサポートするケースが多いです。

※障害のある人の働き方は、大きく分けて「一般就労」と「福祉的就労」があります。一般就労とは、企業や公的機関などに就職し、雇用契約を結んで仕事をすることです。福祉的就労とは、一般就労で仕事をすることに困難がある人が、障害福祉サービスの中で就労の機会を得て働くことです。

LITALICO 仕事ナビ


ここのカフェは、日本の障害者就労支援で例えると、時給が支給されるという意味では就労継続支援A型施設。そこに就労移行支援と定着支援が統合されたようなところだなと思いました。このような仕組みのカフェ見学して思ったことは、本気で一般就労をサポートしているという事。

私自身、現在約1年ほど、日本の就労継続支援A型施設(以下就労A)に関わらせていただいています。ここのカフェを見学して、就労に向けての本気度の違いを感じます。日本の社会では※DE&I(ダイバーシティ多様性・エクイティ公平性&インクルージョン包括性)を推める延長線上に、女性の雇用だけではなく、外国人や障害者の雇用もあるとは思うのですが、仕組みや制度と見ると、本気で包括したいのだろうか?本気でDE&I進めたいと思ってる?と疑問を感じる事が多々あります。

そもそも、上記にも書かれていますが、就労継続支援A型施設は、福祉的就労と明記されています。この福祉的就労という位置付けの存在が、日本とカナダの就労の違いに反映しているのではないかと思いました。

では、このカフェと日本の就労Aと何が違うのか?その点を考えるべく、まずはペーパープレインカフェについて詳しくご紹介します。

DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)
多様性・公平性・包括性を取り入れて公平な機会のもと、多様な人材が互いに尊重しあい、力を発揮できる環境を実現するという概念です。

Pasona Biz

ペーパープレインカフェ

一般就労を目指すことができる有給のジョブトレーニング

ここのカフェは、冒頭でも書きましたが、ジョブトレーニングから一般就職へのサポート、そして一般就労後の定着支援までのサポートを一括で行なっています。ここで画期的なのは、ここは日本のように移行支援であるジョブトレーニング中に、研修生という立場でもお給料が支払われる仕組み。ここだけを見ると、就労Aと移行支援が合わさったような仕組みです。ただ日本の就労Aは、福祉的就労なので、利用者さんとは雇用契約を結んでいるから、当然お給料が支給され、利用者さんは雇用された方という位置付け。しかしこのカフェは、就労ではなくジョブトレーニングの場所。利用する方は、研修生という位置付けです。

働く条件

・学びたいと強く思う方 
・一般就労をしいたいと思う方、また継続できる方
・早い仕事のペースになったとしてもついて行ける方
・現在働いていない方、もしくは仕事をすることに難しさを感じている方
・16歳以上であることと、カナダで合法で仕事ができる方

ネットから申し込みの時に、医師の診断書や障害を証明する書類は必要ありません(日本のように障害者だと証明する必要はない)。ただ自分の特性を書く部分があるようです。ここのカフェでは、神経多様性の方を中心に運営はされているようですが(自閉症ネットワーク団体が関連しているので)、神経の多様性だけではなく、そのほか障害を持つ方を採用してゆくつもりだとのことです。ただ現在は、手話のできる人がいないために、聴覚障害の方の採用はできないと話していました。また採用には優先順位があるとのことで、申し込んだ早さではなく、ホームレスになりそうだとか、生活面で経済的にリスクの高い方が、まずは優先されるそうです。

実際にここでのトレーニングが決まる前には、日本と同じように、合うかどうかカフェに来てから決めることができます。ここでのトレーニングが決まれば、オリエンテーションがあり、そこからトレーニングプログラムへと入ります。

仕事とサポート体制

ここのカフェ研修生は、3時間のシフト制で働きます。カフェは朝の8時から夜の8時まで運営していて、4つのシフトがあります。1シフトにつき1人の研修生が働いています。基本的に日々のカフェ業務は3人体制で、カフェのマネージャー、バリスタと研修生で回しています。

研修生の、就労までのサポートには、今回ワークショップをしてくださった、プログラム統括マネージャー、仕事のマッチングなど就職活動をサポートしてくれる就職マネージャー、そして日々の業務サポートはジョブコーチがいて、最後にカフェを取り仕切るカフェマネージャーがいます。この4人が1人の研修生のサポートをしていて、現在は15人の研修生が働いているそうです。

サポートの形態は、基本的に1対1の直接的なサポート、動画やヴィジュアルで書かれたマニュアルなどでの間接的なサポート、そして研修生同士でサポートし合うという3つのサポート形態があります。

習得できるスキル

ペーパープレインカフェでは下記の5つのスキルを学ぶことができます。
①食品安全管理(資格も取れる)
②作業場危険有害性物質情報制度(WHMIS)
③カスタマーサービス
④バリスタスキル
⑤食事を用意する作業(サンドイッチやサラダなどを作り、パッケージに入れるなど)
これらのスキルは、わかりやすいステップになっているマニュアルがあり、スキル・パスポートといって、自分がどこまで学んだかも把握しながら学んでゆくことができます。またその他のスキル講座も定期的に提供され、近々、プロのラテの作り方講座もあるようです。

ラテの作り方マニュアル

有給のジョブトレーニング

日本の就労Aでは、基本的に時給でお給料が支払われます。雇用関係が結ばれるので当然かもしれません。ペーパープレインカフェは研修生でもお給料が支給されます。しかも!ここの時給は24カナダドル(日本円で2600円ほど/3月10日為替)となっていて、BC州の最低賃金よりも高いです。ここが今までのBC州での就労支援とは大きく違う部分なようです。

このように有給なので、先ほどの労働条件にも書きましたが、経済的に困っている方がまずは優先されます。障害を持つ方で、経済的に困窮されている方が最も優先的に採用され就労までのサポートを得ることができる、ここはエクイティという公平性の概念が入っています。

EmpolymentWorks:一般就労に向けてのプログラム

またカフェは、このEmpolymentWorksのプログラムと連携もとっているようで、ここは移行支援的な部分なのかと思います。

このプログラム自体は、自閉症やその他の障害を持つ成人向けのプログラムで、雇用に関する準備トレーニングとサポートを提供(フェーズ1)。仕事のサンプリングと実地経験を組み合わせているプログラム(フェーズ2)。
フェーズ1
マニュアル化されたプログラム が12週間あります(最大8人まで、週2回、それぞれ2.5時間のセッションに参加)
このフェーズ1には、二つのパートがあり、一つがキャリア探求、雇用の準備、およびソフトスキルの開発に焦点を当てます。そして2つ目が、ジョブサンプリングといって、様々な職場環境での参加者と雇用主の実地学習がります。
フェーズ2
労働市場への参加です。このプログラムの最終フェーズでは、就職活動と雇用への移行をサポート。 このフェーズはプログラムの場所によって異なりますが、参加者向けの雇用機関へのリンクや、雇用主向けの従業員トレーニングや人事支援などの取り組みが含まれることもあります。

自立をサポート

ここのカフェの仕組みで思うことは、まず一般就労までの道筋が、とても分かりやく組み立てられているなと思いました。このカフェでは、4ヶ月から半年の間にトレーニングを終えて一般就職になります。

そしてこのカフェでは、一つの団体だけではなく、一般企業も含めた複数組織で協力し合っているのが特徴だと思います。このカフェの場合はYVR,Pacific Autism Family NetworkそしてEmployment Worksのプログラム導入(このプログラムはThe Sinneave Family Foundationの取り組みをカンナダ全土の自閉症支援団体へフランチャイズ化しています)。

この仕組みを見ると、シンプルに、一般就労の道筋のサポートが一貫していること、そして横の繋がり(協力体制)でサポートの仕組みが作られているというところです。そこから、障害を持つ方の一般就労への道を本気でサポートしているのを感じましたここを見ると、日本の障害者就労支援の仕組みと課題がよく見えてきます。

日本の障害者就労支援の現状と課題

日本の障害者就労支援を見ると、障害を持つ方を本気でサポートするような仕組みには、残念ながらあまり見えません。この業界に携わる方たちは、本気で取り組んでいる方が多いとは思うのですが、残念ながら制度や仕組みが追いついていない印象があります。結果的に本気で取り組んでいないように見えてしまいますし、そのような状況だから、単にお金儲けを目的にするような福祉ビジネスも出てくるのかもしれません。

さて、これは私の感覚値にはなってしまいますが、本気さが見えない要因に次の3つがあるのではないでしょうか。
福祉的就労という概念、
縦割り構造というそもそもの構造
③専門性の軽視と認識の低さ
この3点が、日本の障害を持つ方達のソーシャルインクルージョンを妨げているなと思います。

①福祉的就労という考え方

私はこの1年、日本でもDE&Iなど、ソーシャルインクルージョンを推進する声があるのにもかかわらず、なぜ日本では就労Aと移行支援が一緒に行える仕組みにないのか疑問に感じていました。

移行支援では様々なジョブトレーニングも受けられるし、就職へのサポートもあります。しかし移行支援を利用している間は(原則的に2年間で、最大1年の延長可能)、就労Aを利用することができません。なぜ別々にサポート支援と施設を分けているのか、また二つサポートを同時併用できないのかがわからなかったのです。しかし、この福祉的就労という概念を入れると、納得の仕組みです。

そもそも日本は就労継続支援A型もB型も福祉的就労。もちろん、この概念が全て悪いとは思いません。一般就労が継続できなかったり、困難を感じた場合でも、福祉サービスの中で就労できる機会があるのは、多くの方にとっては居場所にもなっていますし、決して悪いことではありません。ただその福祉的就労施設が永久就職先になる人もいるでしょう。結果的に、社会的な排除はされていないものの、社会に包括されるような形態にはなっていません。また包括を促すような仕組みにもなっていない印象があります。

就労Aはこのような位置付けなので、就労Aからの一般就労へ行く比率は22.7%と低く、それに対して就労移行支援を受けた方は52.9%となってます(平成30年:厚生労働省)。当然だと思います。福祉的就労なので、そこには一般企業に向けた正式なジョブトレーニングはありません。障害を考慮したサポートはありますが、その方が成長できるような、一般就職を目指すことを見据えたサポートではあまりないような気がします。でもそれも当然で、就労Aに来ている方の多くが継続して就労Aで働くことを望んでいる方も多いのです。これは悪いことではありませんが、企業側や社会の受け入れ態勢があれば、やっていけるのではないか?と思う方もいらっしゃるので、勿体無いなと思ってしまいます。

障がい者の方をサポートする上で、企業側の受け入れ体制もすごく大きいと思います。企業に理解があれば、もう少しインクルージョンは進むのでは?と思うことはありますが、ここがほとんど進んでいないと感じます。どちらにせよこの社会には、その個人の強みを発見し、そこを育てる視点はあまりないな、と言う印象を持ってしまいます。生産性を軸に考えていると、いろんな方の可能性は見えないのかもしれません。結果的に、就労できる機会を与えている、そのような場所づくりに留まってしまっていると思います。

もちろん、就労Aという場があることは、悪いとは思えません。しかし社会の受け入れ態勢、また障がいをどう見るのか、捉え方や考え方、サポート次第で、多くの方がもっといろんな機会を得て、様々な場所で働けるのでは?と思います。

②縦割り構造

日本の就労支援は、大きな団体が運営している場合、複合型といい、障害者就労施設のいくつか違う形態のものを、複合的にやっているところもあります(たとえば、就労Bと移行支援を複合的にしているなど)。

しかしそれでも移行支援の利用時は、お金を得ることは原則的にできないので、ここを利用しているときは、どこかで働くことはできません。したがって、給与をもらいながらのジョブトレーニングをしっかり受けるることができる仕組みはありませんし、最短で数ヶ月、最長半年程度で一般就労へ向かえるようなプログラムを組んでいるところもあまり見ません。移行支援は人それぞれで、どれくらいの期間で一般就労に就けるのかは変わってきます。

この移行支援でジョブトレーニングを受けたからといって、一般就職の道が開かれるかというと、上記にも書いた通り、平成30年のデータによると、移行支援からは52.9%、そして、そのほかの就労施設を全て合わせた一般就労への移行率は27.6%となっています。(厚生労働省

またジョブスキルだけではなく、人間関係などコミュニケーションスキル、セルフケアや精神的なサポートなどは、どれくらい充実しているのかというと、ここも施設によって様々なのかなと思います。このように包括的なサポートを提供できる施設があるとすれば、大手が運営している所になります。ですので、地方など小さな就労支援施設は様々難しい課題があるのではないでしょうか。

ちょっと余談ですが、かなり驚いたことがあります。2025年には、就労選択支援という新しい役割を持つ施設が作られるということ。なるほどジョブメドレーによると、『就労選択支援とは、障がいを持つ人の希望や能力に合う仕事探しを支援し、関係機関との橋渡しを担うサービス』だそうです。

なぜまた新たな施設を作る必要があるのだろうか?と疑問です。ハローワークに障害者部門を作り、そこから就労系と連携するだけなのではないか?とか、そもそも利用者さんには生活相談員もいるのだから・・と思いました。支援という名の施設、箱が多いその仕組みは、縦割りから抜け出すどころか、その縦わりを増やしている気がします。

③専門性の軽視と認識の欠如

最後に、就労Aを通して見えてきたことに、この就労支援の仕組みや制度を作った側の、専門性の軽視と認識の欠如があるのではないかと思います。

まず、この業界では、精神保健の専門家が関与しているものの、資格や経験に、かなり大きなばらつきがあることはサービスやケアの質をある程度たもつことを妨げているのではないかと思います。特に、支援員を統括する、サービス管理者となると、この資格が取れる要件があまりにも広範囲で驚きました。詳しくはこちらをどうぞ。

例えば、上記のリンクであるLITALICOによると、児童指導員任用資格を持っている方で3年以上の相談支援業務経験があれば、このサービス管理者の資格を受けることができます。それでこの児童指導員任用資格はどんなものか?と見ると・・ここでさらに驚いたのは、そもそもこの児童指導員任用資格を得る要件そのものが、かなり広範囲だということ。例えば、大学院卒の人もいれば、高卒の人もいる。もちろんそこでの実践業務経験はあるのですが、この資格を取る方達の持つ教育的背景に大きな違いがあるので、児童指導員任用資格を持っているといっても、どこまでその業務の役割の質が一定なのかが定かではありません。

そしてサービス管理者の資格を取れる方達の背景は、この児童指導員任用資格保持者もいれば、様々な資格保持者がいます。これまた広範囲です。ここまでくると、サービス管理者って、何をする人なのか、この幅広さを見るだけで、ちょっと見失う感覚があります。これはちょっと余談にはなりますが、公認心理師資格の問題や課題にも通じるのかもしれません。

公認心理師の国家資格試験が始まって、最初の5年の移行期間で起きた問題なのですが、ここでも「相談業務」という解釈がかなり広範囲すぎて、心理療法ができない方達でも、最初の移行期間の5年でテストを受けて受かれば、公認心理師と名乗れようになってしまいました。なので公認心理師には、例えば教員の方もいれば、臨床心理士の方もいます。一体公認心理師に国は何を求めているのでしょうか?
そして、これと全く同じことが、日本では各資格で起きているのだと理解しました。

ここに、制度や仕組みを作る側に「ケア分野」「相談業務」に対する、専門性の軽視と認識の低さが存在していると思えてなりません。それは結果的に支援の劣化につながります。本気で国民のメンタルヘルスをサポートしたいのでしょうか?

就労Aでも、支援員の役割と実際の業務とのミスマッチも起き、ここでも相談業務に始まる様々なケアの専門性が軽視されている傾向があり、さらには医療連携も不十分。結果的に、専門性を持つ人材を適切に配置することが、なかなかできません。障害者の就労支援が包括的であるためには、専門性への理解がなければ、適切な人材を配置できるような仕組みづくりはできませんし、それがあるからこそサポートシステムが機能するのではないでしょうか。

インクルージョンとは?

現在の日本社会における障害者の方たちのインクルージョンは、この就労支援の仕組みを見ると、福祉的就労は社会の一部だけという統合型(下記の図の一番右の形)で、一般就労した方は一部インクルージョン(上の図)という感じではないでしょうか。それ以前は、左の除外(Exclusion)か、真ん中の隔離という形だったと思います。 

Inclusion, Exclusion, Segregation and Integration: How are they different? Creator Unknown.


もちろん50年前に比べれば、日本の社会も変化していると思います。ただ、福祉的就労という概念縦割り構造と、ケアの分野における専門性の軽視と認識の低さが、そのつもりがなかったとしても、一般就労に向けた支援体制を構築できない構造になっているのだと思います。その結果、社会で働いてはいるけれど、福祉的就労という名のIntegration・統合型とにとどまっています。

何度も書きますが、福祉的就労が悪いとは思いません。ここがあることで、居場所ができているケースも多々あります。ここで大事なのは、この統合型の円の中と外のつながりをどんどん作っていくことは、まずやるべきことなのかもしれません。日本の地域社会において、障害者の方達が見えるところにいることはとても大事です。そういう視点でもペーパープレインカフェが空港にできたことには、大きな意味があるのだと思います。

エンパワメント:障害者就労支援 at ペーパープレインカフェ

去年の秋にはスタートしたばかりのペイパー・プレイン・カフェ。
すでに3月中旬時点で、3名の方がここのカフェを卒業し、一般就職をしました(4ヶ月で卒業した方達)。同じ時期にスタートした他のメンバーはこの4月にプログラムを終了する見通しが立っています。プログラムを終了し、定員に空きが出ると、新しい利用者さんを雇用してゆきます。ちなみに就職先はカフェだけではなく、受付などの仕事についた方もいます。

夢を応援する

ペーパープレインカフェについての紹介と研修者の紹介

統括マネージャーさんは、いつか障がい者の方たちが希望する仕事を得ることができるようなサポートを目指し、まずはこのカフェで、社会に出るための基礎を学んでほしいと話してくれました。また現実社会では、嫌なことも起きる可能性はあるとし、それらを乗り越えて行ける自尊心や自己信頼を育てる支援をしたいと話していたのも印象的でした。

その彼女の姿勢は、障害を持つ方達一人一人をエンパワーし、真の自立をサポートするというものだと感じます。また、カフェで働くことが最終ゴールではなくてもよくて、ここのカフェは経済的自立への最初のステップとしての一つの通過点という捉え方。将来の夢がIT関係の仕事だとしても、まずはここからカスタマーサービスやバリスタのスキルを学び、そこから一般就職で働きながら経済的自立ができるという積み重ねの経験が、自分の夢に向かう勇気と自信になるのではないかと話していました。

誰しも理解される中で、時には大変さも体験しながらも、そこでサポートを得ながら仕事の実績を積み上げることができれば、新たな挑戦のリスクをとっていゆく勇気と自信、また自己信頼が育ってゆきます。また夢に向かう過程でも、様々な学びと気づきもあると思います。それは自分の夢を実現するための力。障害という障壁を超えてゆける力を得てほしいと語っていた統括マネージャーさんの言葉が心に残ります。

このカフェの仕組みと支援する方のお話を聞きながら、障害者の就労支援において、ただ単に就労する人を増やしたり、インクルーシブな社会を作るための支援ではなく、障害を持つ方一人一人をエンパワーすることを柱に置いた支援の仕組みが、とても大事なのだと思いました。

ここにはしっかりと人権に対する認識があるのだと感じます。果たして日本の障害者就労支援は、ここに支援の柱を置いているのでしょうか?

企業や社会への啓蒙活動とパートナーシップ

エンパワメントとは何か?基本的人権をもっと社会に根付かせるためにも、このような団体が行う活動や、企業や政府との連携は必要不可欠なのだと思います。

障害者の方達の一般就労への支援は、社会全体でこの仕組みを支える必要があり、カナダのNPO含めた社会・福祉支援団体は、多くの企業や政府機関と連携をとり、協力関係も結んでいます。今回のペーパープレインカフェも最初にもお話しした通り、YVRの空港、Pacific Autism Family NetworkそしてEmployment Worksのプログラム導入がされています。

またこのペイパープレインカフェを運営しているPacific Autism Family Networkでは、企業側にも障害についてのワークショップを通して啓蒙活動をしています。そして障害者の就職活動のサポートにおいても、企業側のHR(人事)と連携をしながら障害者のニーズへの配慮も柔軟的に行なっています。例えば面接が行われる際、障害者の方が企業に出向くのではなく、彼らが慣れた心地よい環境のカフェに、企業側が来てくれるとのことでした。ダイバーシティを理解するというのはこういう事なのだと思います。障がい者の方たちのエンパワメント、そして社会や企業側の理解が、最終的に一般就労に向けて必要不可欠なものだと思います。このように協力することで障害者の方のインクルージョンも進むのではないでしょうか?

ちなみに、このPacific Autism Family Networkでは、実に様々なプログラムを、自閉症とその家族へ提供しています。そして、この団体自体をサポートしているパートナーは、企業や財団、医療・福祉団体、そして政府です(一覧はこちらです)。

カナダのこのような社会福祉系の団体は、個人や企業、政府・公共機関からの基金で成り立っているプログラムがとても多いです。また様々な団体や起業家とコラボしていているプログラムもあり、その中に様々な就労支援プログラムがあります(後ほどいくつかの例を挙げます)。

今後のカナダBC州の障害者就労支援

カフェの統括マネージャーさんは、BC州にもこのようなカフェやレストランをこれからもっと作って行けたらと話していました。今回、このカフェのモデルになったのは、カナダの東海岸・トロントにある非営利団体のCommon Ground Co-operative (CGC)だそうです。ここは2000年からスタートした団体で、自閉症、ダウンシンドローム、そのほか発達障害の方達のジョブコーチや社会起業をサポートしています。

BC州には、実はここの就労支援の他にも様々な団体が若者支援、女性支援をしています。その中で精神障害や依存症の回復や治療の延長線上に、就労支援があり、いくつかのNPO団体が支援プログラムを提供しています(下記の※を参照)

もちろんカナダの仕組みが完璧かというとそうではなく、まだまだ課題はあります。例えば、Statistic Canadaによると、2022年の16歳から64歳の障害を持つ人々の雇用率(65.1%)は、障害を持たない人々の雇用率(80.1%)よりも15ポイント低いとあります。このように実際の障害者の雇用率を見ても健常者に比べてまだまだ低く、収入格差もあります。

カナダBC州の障害者就労支援も、今回のように、働きながら一般就労への道が開かれるサポートはまだ多くはありません。このようなカフェのような取り組みが、もっともっと増えるといいなと思いました。

※その他のカナダBC州の就労支援例

East Van Roasters:ここのカフェは、依存症の女性の方達の包括的な就労支援プログラムでもあり、PHS Community Services Societyによって設立されて、現在はAtira Women’s Art Societyが運営をしています。メンターシップ・プログラムと実地研修を通じて再就職する女性を支援しているカフェだそうです。もともとこのプログラムは、連邦政府のプロジェクトでした。このように連邦政府から始まり、プロジェクトが終了した後は、それがNPO団体、また民間の福祉団体に任され、そこからソーシャルアントレプレナーと連携して新しい形での支援形態になるケースもあるようです。

Social Crust Café & Catering Coast Mental Health Compassion Courage Recoveryという団体では、精神障害を持つ方を支援している団体です。ここには19歳から30歳までの精神障害を持つ若者向けの料理教育プログラム(CulinaryTraininng Program)があり、このSocial Crust Café & Cateringというカフェを運営しています。ここでは若者がシェフになるために、料理に関するスキルを習得でき一般就労の道をサポートしてくれます。またこの団体には他にも様々な形の就労支援があります。


今後の日本の障害者就労支援

もし、日本が本気で就労支援をサポートしたいのであれば、就労A/Bと移行支援から定着支援が一緒になっているような仕組み。就職に向けてのジョブトレーニングから一般就職を定着させるまでのルートを一括でできる施設があると、下記のようにインクルージョン(包括)へよりスムーズに移行できるのかなと思います。そしていろんな方達のメンタルヘルス(薬によるものだけにではなく)や、そもそもその人の全体性を「育てる」という視点でのサポートも大事だと思います。

Inclusion, Exclusion, Segregation and Integration: How are they different? Creator Unknown

また障害者の就労支援を通して見えてきたのは、日本社会の様々な課題です。ざっとあげると、地域格差、教育格差、多様性を社会に包括する仕組みの歪み(人権の概念が浸透していない)、メンタルヘルスの正しい認識と専門性の欠如などなど(これも人権への理解に関連します)。そのことを踏まえてた上で、日本の障害者就労支援に必要なのは、そもそもの根本的な人権についての教育なのではないかと思うに至りました。それも子どもの時から必要です。カナダで言うところの、Social Studyになるなと思います。この教科は面白くて、歴史も社会の仕組み、政治から人権などについて包括的に学ぶものです。大学だとやはりリベラルアーツ的なものです。

例えば、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)について理解を深める時に、DE&Iが形だけで終わることのないように、人権についてを柱に、エンパワメントについて学ぶことが必要だと思います。その概念の理解がないと、障害を持つ方へのサポートが表面的なサポートで終わってしまいます。実際に、まだまだそうなっている現状が日本にはあります。それらは、乱立した資格(資格ビジネスになっていないか?!)、適切なサポート体制の構築、支援チーム形成においても、福祉領域の構造や仕組みに課題が現れているように思われます。

人権について
人権という概念は、そもそも西洋から来たもの。それを理解するためにも、人権の歴史(欧米の歴史)、また世界の近代史、そしてその流れの中で起こる日本の近代史を様々な角度でしっかり学ぶことはかなり大切だと思っています。そこから日本社会における構造をもう一度様々な角度で見直してみることは必要だと思います。

今回見学に行ったカフェの総括マネージャーのように、日本にも本気で支援したいと思っている方は多くいますし、頑張っている方も沢山存在します。そのような方達の能力がもっともっと発揮できるように、社会の循環や流れを変える必要があります。それには、日本の前近代から近代にかけての流れの中でできた構造を理解し、どの部分をどのように変えてゆけば良いのか、構造そのものの見直しからの、抜本的な組織・構造変革が必要だと思います。

最後に
一人一人がエンパワーされ、多様性を公平に包括する社会とは、どのような社会でしょうか?そしてあなたは、どのような未来を日本社会に描いてゆきたいですか?


構造の見直しをする際に、参考になるおすすめ

障害の歴史

社会福祉の歴史


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