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ふたりの言語

スペイン人と結婚していると話すと、「お家では何語で話しているんですか」と質問を受けることがある。

出会いの地はアイルランドで、当時はお互い英語を話していたため、ベースの言語は英語である。しかし、英語は2人の母国語ではないため、「あれ何て言うんだっけ」という場面では母国語の単語をいったん伝え、Google翻訳などで英語、または相手の母国語に変換する。

このあいだあった例は”persiana”
スペイン語でブラインドやシャッターという意味らしい。英語がバイリンガルレベルではない私たちはこんな風にときどき、スペイン語や日本語を挟みながら、補い合って会話している。

わたしがスペインに住んでいたときは、野菜や果物の名前、日常生活でよく使う表現はスペイン語を使っていた。その方がお互い出てくるスピードが早いからだ。日本で暮らす今は逆で、「ただいま」「ごはん」「お風呂」など、日本語の方が自然と先に出てくる。「いただきます」など、スペイン語にぴったり該当する表現がないときもそうだ。

利便性を優先し常に言語をごちゃ混ぜにして話してきた私たちは、正直なところ家庭の言語を質問されると恥ずかしい。どの言語も冒涜している気分になるからだ。

ましてや「トリリンガルなんですね」などと褒められると、現実とのあまりのギャップに赤面する。3言語を母国語並みに操ることができれば話は別だが、どの言語も中途半端な状態で、知らない単語は互いの母国語で補いあってつぎはぎだらけ。「ちょっとespera」などはちゃめちゃな独自言語を話す我々は、トリリンガルという聡明な種族からはほど遠い。

それと同時に、別の言語圏で暮らしを重ねてきた2人の歴史を感じる。スペインに引っ越して間もない頃は友人や家族と母国語で流暢に話し、わたしと話すときだけカタコト英語になっている夫を見て「この人はスペイン人と付き合った方が楽しい人生を送れるのでは」と真剣に思い詰め、実際に提案したこともある。

ともあれ、不自由でも、非効率的でも、母国語を話さない人間をパートナーに選んで10年が経過した。何語とも呼べないブロークンな言語を話しながら、人生はわけのわからないことだらけだと不思議な気持ちに襲われることがある。

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