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#5:優しくて厳しい世界

『亜人ちゃんは語りたい』(デミちゃんはかたりたい)は、考えるところの多い漫画だ。


神話やおとぎ話に登場する “ヴァンパイア” や “デュラハン” や “雪女” が人間の高校に通う学園コメディーで、『亜人(デミ)』と呼ばれる彼女たちは、かつてのように社会から恐れられる存在ではなく、社会的な弱者として生活保障が整備され、現在では、その特別な性質を『個性のひとつ』として認められる形で社会に溶け込んでいる。

とはいえ、社会的少数者である亜人と実際に接したことのある一般人は決して多くはいないため、教師やほかの生徒たちは彼女たちとの交流を通して、自らの内側にある偏見や高校生活上の問題に向き合っていくことになる。

主人公である鉄男は、生物教師として学生時代から亜人に興味があったが、卒業論文では亜人を対象にした研究を希望するが許可がおりず、断念している過去がある。亜人の数が少ないため研究は半ば諦めていたが、教師となり偶然彼女らと出会い、彼女らの悩み相談に乗ることを繰り返して、単なる興味の対象としてではなく『共にどのように学校生活するか』を考えていく。



言わずもがな、亜人は現実社会の社会的少数者のメタファーだと思う。


そこで語られる差別を乗り越える『共生のモデル』はとても理知的で、高いレベルのモラルで守られていて道徳的に「うん、そうだねぇ」と頷かせられる。(一部、鉄男に恋心を寄せるデュラハンの女の子の描写に気持ち悪さを覚えなくもないが)

物語の登場人物はみな、悪気などなく、むしろ多くのトラブルは意見が違うだけで、ある種「もっともな」価値観で亜人とそれを取り巻く環境と衝突して、傷つけてしまって、悩む。なんて繊細な社会。



しかし現実は、悪意をもって接せられることはけして珍しいことではない。この物語ほど高い密度でコミュニケーションが行われることは稀だ。実社会はもっと「雑」で「理不尽」が絶えない。


アニメとしても若い世代に人気を得て「デミちゃん、かわいい」というラインでエンターテイメントを成立させるくらいには物語は違和感なく共感されているようだ。現実の学校空間がそのように「高い密度」で繰り広げられているのだろう。あんなに張り巡らせた優しさでもって人を傷つけてしまうんだから、「人を傷つけてしまうこと」にとても臆病になるだろうと勝手に心配してしまった。



『オオカミちゃんには騙されない』という恋愛リアリティーショーがAbemaTVでやっている。

本気で恋愛したいという男女グループのなかに、一人だけ「絶対に恋愛しないジョーカー」的なオオカミが隠れている、という番組なのだが、この構造と役回りは僕の世代だと『ロンドンハーツ』的な素人騙しものを想像してしまい、だれもがSNSを手に入れ発信できる今これをやれば間違いなく炎上案件だと思うのだが、オオカミ役の責任感や辛さが描かれることでそうはならないように回避されているようだ。

視聴者は、多くが10代から20代前半のようだ。
『テラスハウス』との違いは民放とAbema、ゾーニングの問題なのか。


若い世代の共感力の高さに驚かされるばかりだ。




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