これまでのNFTとこれからのNFTの価値を問い直す

1,はじめに


「NFTの冬」と言われるようになってからしばらく経ちます。最近はどんどんNFT領域から人が抜けてるそうで、ブルーチップNFTですらポジティブなニュースが全然流れてきません。全体の取引量を見ても過去2年間でもっとも低い水準となっているという情報も目にしました。

2021年の後半頃から約半年間は「NFTバブル」と言われるほどに盛り上がりを見せたのに、なぜ今このような状況になっているのだろうとふと思ってから、最近ずっとNFT関連のリサーチを行なっていました。その中で自分なりの「NFTの価値とは」という答えが一旦出たので、記事としてまとめておこうと思います。

2,NFTの価値とは何か


最初に「NFTとは何か」というのを今一度整理してみましょう。

NFTとは、「ブロックチェーン上で唯一無二性を証明できる識別子付きのトークン」です。NFTは画像や音声などのメタデータに紐付けることで改ざん困難な形でブロックチェーンに情報を記録ことができます。

NFTがよく勘違いされやすいポイントとして、上記のような「技術としてのNFT」の価値と「NFTに紐付くメタデータ(画像など)」の価値を混合して語られやすいというのがあるなと思っています。
例えば、運営者がコミュニティに向けて「NFTは未来の技術だ。これに乗り遅れるな!」と発信することがあります。それを参加者同士で確認し合うことで、NFTに紐付いた作品の価値をまるでNFTという技術が担保してくれてるような錯覚を持ってしまいがちなんですが、これ本来は別々の価値ですよね。多くの人は自分がNFTの何にお金を払ったのか、自分でもよくわかってないのではないかと思います。

3,NFTはコミュニティのコモンセンスを規定するツール


では、「本来価値があるべきなのはNFTに紐付いてるメタデータの方であって、NFTそのものに価値がないのか」と言うと、それも違うかなと思います。

僕は、NFTはオンラインで顔も名前も年齢も職業も趣味も知らない第三者同士のコミュニティにおけるコモンセンスを形成するために機能し得るのではないかと思っています。
「コモンセンス」という言葉は、一般的にあまり聞き馴染みがないかと思いますが、元々アメリカ独立運動の必要性を解いて、世論に独立の意識を強めさせた政治パンフレットのタイトルです。それが転じて、現代では「コミュニティの共通の価値基準、倫理観、共有する知識」といった意味で使われる言葉なんだそうです。NFTは、どのような情報をブロックチェーンに刻むか、どのようなメタデータと紐付けるかによってコミュニケーションの方向性をある程度規定できます。

NFTに刻まれた情報をブロックチェーンが担保してくれることで、いつから誰を応援しているのか、どんな思想や価値観の元に集っているのか、コミュニティにとって何が良くて何が悪いのか、その方向性を規定してくれます。それは仮に運営者がいなくなってもブロックチェーン上に永遠に残り続ける「意志のトークン化」と言えるのではないかと思います。

NFT登場以前も、顔の見えない第三者がオンラインでコミュニティを形成することは可能でしたが、文化の成熟に時間がかかったり、人々がどのような行動を取るかの不確定要素があったりしました。ブロックチェーンやNFTはそのコミュニティ形成をしやすくしたのではないかと思います。

4,NFTに適正価格は存在するか


NFTは適切な価格評価がしにくい資産です。あるNFTが1ETHで売られていたとして、それが高いのか、安いのか誰にも判断ができません。
それは価格の主観的な評価指標、客観的な評価指標、これらが共に曖昧になりがちだからではないかと思います。

主観的な評価指標とは、自分の中で適正価格はいくらが妥当かの合理的に評価できるかということです。人は、多くの場合、実用性や機能性を見て自身の価値評価基準と照らし合わせて主観的な適正価格を判断するものです。しかし、NFTの多くが実用性を持たない、または実用性があったとしても乏しいため妥当性のある価格評価がしにくいですよね。そのため、「〇〇さんが価値があると言っていた」「最近人気があるらしい」といった世間や第三者の評価を信用することで「虚構」が醸成され価格が設定されてるのではないでしょうか。

客観的な評価指標とは多くの第三者(市場)により形成される価格です。もし自身に価値評価のための前提知識がなくとも、市場である程度売買が活発なモノであれば、他の商品価格を見ながら相対的に適正価格を判断することは可能です。しかし流動性が十分にあれば市場が評価する価格に妥当性を見出しやすいのですが、NFTは流動性の低い資産です。そのため客観的な評価で作られた価格がどこまで適正であるかは、なかなか判断が難しいところです。

これらは上昇相場の時はあまり影響はありません。多くの場合、投機期待から買われてるのでNFTの本質的価値以上の価格がつくことは投資家としてはポジティブな現象だからです。一方で、下落相場の際は主観的な評価指標が曖昧だと「どこまで価格が落ちたら"買い"なのか」という評価がしにくく、投資家にとっては投資対象としてあえてNFTを選択するメリットを見出しにくいのではないでしょうか。

このようにNFTは適正な価格評価が難しい資産クラスだと言えます。外から見たときに合理的な価格評価がしにくいことが、NFTの価値をわかりにくいものにしてるという側面があるのではないかと想像しています。

5,これまでのNFTとはなんだったのか


これまでのNFTを僕なりに解釈すると、「あるコミュニティの中では価値を共有できる資産」であり、外から見ると「価値がよくわからないもの」になりやすいものではないかと思います。

NFTはコミュニティのコモンセンスを作るツールになり得るのではないかと分析しましたが、その性質上、コミュニケーションはどうしても内向きになりやすいなと感じます。したがって、その価値観やイデオロギーを共有できない人にとっては、ただ技術的な特徴を説明をされてもNFTの価値を理解することは困難です。さらに、現在NFTの市場から人が抜けていることでネットワーク効果も減衰しており、その価値がコミュニティの中からも見えにくくなっている可能性があります。

また、こちらも前述した通り、これまでのNFTは実用性が乏しいことから主観的な価格評価もしにくく、流動性が低いため客観的な価格評価に妥当性があるのかもわかりません。そのため価格形成の点からもなぜそのNFTにその価格がついているのかを人が合理的に理解することは困難です。

適切な価値の評価指標が曖昧だと、「虚構」で価値が積み上げられることがあります。それが加熱した状態が「バブル」です。そのような商品は、市場からNFTの熱が引いてコミュニティ参加者が抜けた時に初期の投機熱と本質的価値とのギャップから価格が崩壊してしまう危険性があります。現在、NFTプロジェクトの多くがこのような問題を抱えています。従来型のNFTプロジェクトのやり方では持続可能性の点からは非常に難易度の高いビジネスではないかと思います。

6,これからのNFTの価値作り


ここからがこの記事の本題です。前項までで挙げたこれまでのNFTの問題点を踏まえて、今後NFTプロジェクトがどのように変化することで持続可能性なプロジェクトになり得るのかを考えてみました。僕の結論としてはweb3世界の外から見ても、わかりやすい価値を作ること、そして外向きのコミュニケーションを目指すことではないかと思います。

(1)NFTに紐付くモノの価値を高める


NFTはコミュニティにおけるコモンセンス(共通言語)を作る役割がある一方で、その価値観が共有できない第三者にとっては「よくわからないもの」になってしまってるという問題を挙げさせていただきました。これを打開する策としては技術としてのNFTの価値ではなく、NFTに紐付いてるモノの価値を客観的にわかりやすいものにすることで、多くの人が価値を評価しやすくなるのではないかと思います。

例えば、NFTにデジタル画像が紐付いてるのだとしたら、その絵を描くアーティスト、または絵やそこに描かれるキャラクターのファンを増やすことでデジタル画像の価値を高めることが考えられます。例として、最近、ブルーチップNFTでもキャラクターをIPとして扱い、アニメやゲームやアパレルなどの派生コンテンツに展開することで間口を広げてデジタル画像の価値を高める動きも活発化しています。本質的なポイントとしては、「もしそれがNFTであろうとなかろうとお金を出してでも絵(キャラクター)を所有したいと思うファンがいるのかどうかが」が大事になってくるのだろうと思います。

また、現実世界でもともと価値が認められている資産(RWA)に直接紐付けることも有効な手段です。例えば、不動産の所有権やイベント参加券などをNFTと紐付けることで、オフチェーンの価値と結びつけられるので誰に対しても、そのNFTの価値を理解してもらうことは容易になるでしょう。

(2)NFTを使って実需を生み出す


現実世界の資産と結び付くことでその価値がわかりやすくなったとしても、それをNFTにする意味がないと、web3の世界の外にいる顧客はNFTを選択する理由がありません。なのでそういう人たちが投資のためではなく本当に使いたくなる実需を生み出す必要があるのではないかと考えています。

NFTの実需を創出してるサービスのわかりやすい事例として「NOT A HOTEL」というものがあります。宿泊券をNFTにして売買できるようにしてるサービスなんですが、NFTならではの活用方法で購入者に新たな価値を提供しています。宿泊券をNFTにすることで、お客さんはホテル等の宿泊施設の宿泊券を購入し、いけなくなったらNFTで宿泊券を売却できます。そしてNFTならではの特徴として、売買手数料の一部がホテルにも入るようにすることで、ホテル側の新たな収益源にもなります。
転売行為の是非は議論が必要ですが、宿泊施設の新たな収入源になる仕組みであれば、僕はそれほど抵抗感はありません。購入者側にとっても、販売者があまりにも高く設定してもその価格で欲しい人がいないと転売できないので、適正価格に落ち着く可能性は高いと思います。

これはNFTを利用したサービスの一つの事例です。大事なことはNFTを使って誰かの悩みや課題を解決する手助けができないかという発想だと思います。NFTである必要のないものをNFTにしても多くの場合それは意味がありません。NFTならではのサービスで実需を生み出すことができれば多くの人にその価値が理解しやすいものになると思います。

(3)NFTの取引を積極的に行ってもらう


主観的な価格評価の他に、客観的な価格評価の妥当性が重要ではないかと前述しました。それは十分な取引量が必要で、十分な取引量には流動性が必要だからです。

なぜNFTの流動性は低いのか、その背景にある要因はいくつか考えられますが、コミュニティ参加者がNFTを長期間保有することを暗黙の了解とし、それを皆で確認(ある意味で監視…?)し合うことでNFTの価格下落を回避しようという考え方を僕はたまに見聞きします。多くのNFTプロジェクトがそのような状況が当たり前になっているのかはわかりませんが、もしそうだとしたらこれも無関係ではないと思います。このような全体の市場に出回る量を制限しようとする文化は短期的な価格形成の面でプラスだとしても長期的にはマイナスです。このような背景から、トレーダーにとって、売買のしやすさからも、投資戦略の点からもNFTが扱いにくい資産クラスになっている可能性はあるのかなと思ったりしました。

最近はBlurなどのアグリゲーターの機能を持つNFTマーケットプレイスがトレーダーを呼び込むことでNFTの流動性を高めようとする動きも増えてきていますが、業界全体でNFTの売買をしやすくして取引量を増やすことが長期的にNFTの発展に繋がるのではないかと考えています。

7,まとめ


現在のNFTを見てると2018年以降のかつての仮想通貨のように見えます。当時の仮想通貨もほとんどユーティリティが無く、価値の根拠となる拠り所がほとんどないまま価格が形成されていきました。その後、DeFiを中心に様々な分散型アプリがブロックチェーン上に立ち上がり、仮想通貨に実需を伴う価値がついてきました。NFTも同様の流れで価値が広く認められる可能性が高く、その価値が認知されるようになると一気に普及するのではないかと期待しています。

そのために、外から見てわかりやすいNFTの価値を作ること、さらには実需を前提にした価値を備えることが真に持続可能なのではないかと考え、それをまとめてみました。これは、あくまで僕個人の意見ですが、一つの考え方として、NFTの活用法について議論が広がればいいなと思います。

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