見出し画像

エルジェビェータ・エティンガー「アーレントとハイデガー」みすず書房

図書館でハイデガー関連書を検索していて、偶然みたこの表題に「え!?」思わず息をのんだ。ハンナ・アーレントとハイデガーが何の関係?いやはや驚いた。もう不倫ドラマなんてもんじゃない。あらゆる情念的なものを飛び越えた関係をこの二人を持ち続けた、半世紀以上も前に・・。

ハンナ・アーレントは映画化もされているが、「全体主義の起源」で有名な世界的な哲学者、思想家だ。ユダヤ人知識人としてナチスドイツのアイヒマンについて分析をし、人間の根底に眠る「アイヒマン」を見事にあぶりだし、彼女の思想については「100分de名著」でも紹介されている。

1925年当時のハイデガーは気鋭のカリスマ哲学者!ハンナは優秀かつ情熱あふれる哲学を学ぶ大学生だった。当時ハイデガーは35歳、既婚者で2人の息子がいた。ハンナは18歳の乙女だ。ハンナからみればハイデガーは雲の上の存在だった。

ハイデガーは大学の授業をするなかでハンナという女学生のことが気になりはじめ、とうとう自分の研究室にハンナを呼び出すに至る。そこから熱烈な恋文を書き続けるわけだが、ハイデガーを敬愛するハンナはそのメッセージを真綿のように吸収し、教え子として、良き理解者として、友として、愛人としてふるまい続ける。

ハイデガーは33年以降、ナチスドイツの熱狂的な支持者であった夫人エルフリーデの影響もあり、ナチスドイツの支持者として恩師フッサールの葬儀にも参加せず、またハンナにも冷淡にふるまう時期があった。それにもかかわらず、戦後ハンナはハイデガーをかばい続ける。ナチスへの支持はどこまでも夫人の意向によって恣意的に動かされたものかの如くにふるまった。あたかもそれは自らのアイデンテイテイを守るがごとく・・。

こういった事実は、ハイデガーの遺族が公開した文書によって明らかになったそうだ。実際、ハイデガーとアーレントの一連の手紙は書籍になって出版されていて、いま俺の手元にある。

U・ルッツ編「アーレント・ハイデガー往復書簡」みすず書房

この書簡をみるとすべての手紙に「愛するハンナ!」の書き出しがあり、かなり熱烈な思いで綴っていたことがわかる。超難解な「存在と時間」を書いた男のこういった面は意外でもあり、余計に面白いと感じる部分でもある。

いわゆる現代的な価値観からすれば、「とんでもない!」ってことになるのだが、ハイデガー夫人もハンナの夫ブリュッヒャーもこの事実を知りつつ、再会を許容し続けた。ハイデガー夫人は見下すような感情をハンナにもっていたようだが、特にハンナの夫ブリュッヒャーはハイデガーへの尊敬から逆にハンナの想いを理解して再会を後押ししている。このハンナ、ブリュッヒャーという2人の関係は素敵な関係だと思った。

ハイデガーが「存在と時間」で記した「自分の中にある本来性/非本来性」はまさにハイデガー自身のことなんだなと感じることができた。これで少しだけ「存在と時間」の間口が広がったような気がする。まだ道のりは遠いけど・・・。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?