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超常現象研究倶楽部 百物語②

 どうやらひと通り一周したらしい。
さて次は僕の番と話かけた瞬間突如襖が空いた。
何事かと思ったら旅館の女将さんだった。
「失礼します。お茶とお茶菓子を持って参りました」
恭しくテーブルにお茶とお菓子を置いて退出する女将。
「ありがとうございます」
ちょうど喉が乾いていたのでありがたくお茶を頂戴する。
三々五々お茶を飲んだり煎餅をぼりぼり噛る人もいる。
ちょっと休憩してから仕切り直して話はじめる。

「これは僕の父親の姉の息子、つまり従兄弟の話なんだけどね。ある日数人の仲間で夜中に肝だめしに行ったんだって。隣県のF市にある古いトンネル。面白半分でワイワイガヤガヤ行ったのはいいけどね。トンネルの中程まで来たら急にエンジンが停まったゃったんだって」
「そりゃ大変だ」と守。
「どうしたのかよく分からないけど何度もキーを回してるうちになんとか掛かったようで大急ぎで家まで帰ってきたんだって」
「そりゃひと安心」
「ところが帰ってびっくりしたのさ。車のボンネットの所に手の跡がたくさんついてたから」
「ええ~っ」

「その話を聞いてひとつ思い出した」と前川先生。
「これまた大学時代のアルバイトの話なんだけど。
あまり人気のない山道で交通誘導のバイトをしてたのさ。
お昼になって先輩の車の中でお昼食べてさ。
近くに出るって有名なトンネルがあるって話になってな。
まだ休憩時間あるしちょっと行きましょうとなったのさ。
まあなんの変哲もないトンネルだけどさ。
真ん中当たりに来たとき急にトンネルのライトが一斉に消えたのさ。真っ青になって帰ったよ」
「それライトが切れたのでは?」
「うんまあそんなんだけどな。あまりにもタイミング良すぎだろ。ははっ」
そう言って笑う前川先生全然眼が笑ってないんですけど。

「それとは関係ないけど思い出した」と裕美。
「怖い話かどうか分からないけど不思議だから一応話すね。私の
家は周りが田んぼだらけの田舎なんだけど夜に何か買ってきてってお姉ちゃんがお使い頼まれてさ。牛乳とかそんなもん。それで田んぼと畑の道に一軒セブンがあってまあ私も暇だったし気分転換にお姉ちゃんの車に乗って行ったのよ。その途中でさ。夜目にもはっきり白いドレスを来た女の人がさ。裸足で歩いているのと擦れ違ったの。お姉ちゃんはその人泣いてたって言ってた。
少したってからあの人なんだったんだろうねって話になってね。
お姉ちゃんが言うには痴話喧嘩。彼氏と喧嘩して置いてきぼりにされたか車を降ろされたんじゃないかって。まあ世の中そういうこともあるのかな~と無理に納得したんだけどね」
「男女のもつれは恐ろしいですからな~」と守。
「幽霊より怖いよ。サイコパス?」と麗奈。
「実はこれには後日談があってね。それから二、三ヶ月経ってからお姉ちゃんとS市にコンサート観に高速乗ったのよ。その時ね。高速の入り口付近にさ、女の人が歩いてるのが見えたの。むしろ走ってたかな。追い越した後はっと気づいたの。あの時の白いドレスの女性だって」
またまたろうそくが揺れた気がした。
「一応聞くけど高速に遊歩道ってあったっけ?」
「ねえよ」
「つまりその女性は…」
そういうことなのだろうか。
本格的な話に一同シーンとしてしまった。

さて、百物語にはまだまだ遠い。今何話目だっけ?
とりあえず次は僕かな。
「裕美の話に比べれば小咄みたいなもんだけど一応」
一口お茶を啜ってから喋る。
「うちの母さんが毎月ヨガのサークルに通ってるんだけどさ。月に2、3回の。金曜日の夜の7時半から90分やるんだって。で、まあその地域のコミュニティセンターみたいな所が近所にあってそこでやるんだけどね。そこがずっと昔父さんが通ってた小学校の建物を再利用した施設なのよ。
まあよくある話なんだけどね。そこで先生の真似して90分ヨガやるわけだけど最後の方サバーサナっていう死体のポーズでヨガマットに仰向けになって10分ぐらい瞑想するんだって。本当に寝ちゃう時もあるみたいだけど。それでこの前行ったとき不思議に思ったのはその瞑想の最中ガヤガヤって子供たちの歓声みたいなのが聞こえたんだって。あまりにも自然だったからスルーしたらしいけど後で考えてみれば夜の8時過ぎに子供なんているわけないようなあ。ストーブの音がそう聞こえたのかなあって言ってた。昼間は隣のグランドでサッカーすることもあるらしいけど」
守が言った。
「へえなんというか普通にありそうな話だな。これもちょっと不思議系」
「まあ父さんがそこにいたのは40年以上前なんだけどきっと色んな不思議なことがあったんだろうね」 
「たしかに学校って大抵何かしら怪談とか不思議な話あるよね」と裕美が言った。
「うん、みんなもご両親から色々聞いてみるといいさ」

「学校かあ。そういえば学生時代の肝心ことを忘れてたな」
と再び前川先生。
眼鏡を外して遠い記憶を思い出そうとしているかのようだ。
「あれはおまえたちと同じ高校生の頃だったなあ。あの頃は妙に霊感があるというか変なモノを見たり聞こえたりしたものさ。今思えば白昼夢の一種なのかもしれんけど」
「へえ先生にもそんな時代があったんですねえ」と守が合いの手を入れる。
「その頃俺は自転車で登校していて片道1時間もかけて高校に通ってたのさ。あれは桜の咲く頃だったかなあ。学校の裏門から帰る途中に不気味坂っていう坂が延々と続いていてな。暗い人通りの少ない木々が鬱蒼とした坂で。ある日部活やって暗くなってからひとり寂しくその坂を漕いでたのよ。そしてふと何気なく左の林の方を見たのさ。そしたら……白っぽい服を着た女の人が宙に浮いてこちらを見てた」
「ええ~~!!」一同声を上げる。
「俺も本当にギャアアアって言って無我夢中でチャリ漕いで逃げたよ。目を瞑って。多分人生で一番本気を出したかもしれん」
「そ、それでどうなったんですか?」とぼく。
「うん、それから10分も漕いだからさすがにもう大丈夫かとおもったのさ。よく眼を瞑って走ったと思うよ。いや多分薄目だったのかな。それでもうここまで逃げればひと安心と眼を見開いて隣を見てみたのよ。…すると…まだいるのよ。白っぽい女の人が宙に浮いたまま」
「うわ~~!!」と一同。
「あれは人生で一番怖かったね。それからどうやって家に帰ったのかまったく覚えていない」

またろうそくがゆらりと揺れた。
先生の話の余韻に浸ってるのか一同しんとしてしまって誰も口を開かない。
さてはそろそろお開きかなと思っていると意外なことに由紀恵さんが口を開いた。

「そういえば思い出したんだけど」
「これもあんまし怖くないけど一応言っとく」
たどたどしく話す由紀恵さんの話を要約すると今度百歳になって今は介護施設で暮らしているひいおばあさんの話のようだ。
まずひいばあちゃんの実家のある田舎には大きな湖があったそうな。そこには昔から大蛇がいてある日猟師がその大蛇を鉄砲で撃ち殺したそうな。
その後気持ち悪いからか近くの草むらに焚き付けを集めてその大蛇を燃やしてしまったそうだ。
するとその大蛇を燃やした草むらはいつまでたったも草が生えることなく焼き場と言われるようになったらしい。
まずはこれが1つ目。
2つ目は牛娘の話。
ひいばあちゃんが娘時分に友達と一緒に秋祭りに行ったそうな。
すると見世小屋があって、そこにいた若い女性は代々牛の屠殺を生業にしている家の娘で何の因果か手(恐らく足も)がまったく牛のような蹄のある形をしていたそうな。
かわいそうな話である。
3つ目は狐憑のお話。
昔よく狐が悪さをしたらしくある人が法事の帰り出されたご馳走を折り箱に詰めて風呂敷に包んで背負って帰る途中、どういう訳か池の中に入って行ったそうな。
はっとして気づいたら腰まで水に浸かっていて背負っていた風呂敷包みが無くなっていたという。
どうも狐に盗まれたらしい。
狐の話は他にもあってとても人が登れないような高い木の上に女の人が座って笑っていたのを見たことがあり、あれはムジナか狐が化けたに違いないとか。
そしてひいばあちゃん自身何かの用足しで近所の家まで出掛けた帰りに、どういう訳か見慣れたはずの道なのに歩いても歩いても家まで帰り着かず、まるで時空が歪んだようになってしまい20分ぐらいの道のりを何時間もかかって帰ってきたそうな。
あれは狐に化かされたんだと言っていたらしい。
またひいばあちゃんの田舎の風習では結婚式のとき新郎新婦が小舟に乗って川下りをするという行事があるらしい。
ある時婚礼がありその川下りの最中にどういう訳か、花嫁さんが急に立ち上がると川へ飛び込んでしまったそうな。
結局花嫁さんは亡くなってしまったらしくどうも狐に憑かれようだとみんな言っていたそうだ。

みんな神妙な面持ちで由紀恵さんの話を聞いていた。
今までのと全然違った感じで日本昔話みたいだなと思った。
そんな話をする由紀恵さんのひいおばあさんはとても貴重な存在だ。
いつかお伺いして令和の遠野物語を書かねばなるまい。
時計を見ればもう10時半。話し始めて3時間経っている。
前川先生からはマックス12時までって言われている。
今何話になったか気になって守の方を見る。
守はさっきから熱心にテーブルにノートを広げてメモを取っている。
ノートをチラッと読むとまだ19話。由紀恵さんの話は6話とカウントしたらしい。
実はみんなには内緒だが守のポケットにはICコーダーがあってみんなの話を録音している。
後々今回の百物語まとめてちゃんと文集にして出すつもりである。
そして文化祭で売り出すつもりだ。
ちゃっかり守は印刷会社に問い合わせ60ページ40冊32640円で見積りを取ってもらっている。
顧問の前川先生の助力で部費も出るそうだ。
それどころかもし評判良かったらもっと発注して文学フリマへ出店しゆくゆくは出版社に連絡してちゃんと本として出して貰う…なんて夢みたいなことを考えている。
それはそれで結構なことなのだが会がはじまる前に守と議論したことがある。
守は執筆者として話を面白くするために脚色するつもりだって言ったけれどぼくは反対した。
これは実話だからこそ味があるのであってたとえショボい話でもいいからありのままに載せるべきだと。
渋々守は納得してくれた。
だけど…僕たち6人で百物語は正直きつい。
百物語と銘打つ以上百話ないと文集として出せないし今度怖い話募集のポスターでも作ろうか…そんなことを考えていると突如襖が開いて紺の作務衣を着た背のひょろっとした白髪のおじさんがにこにこして現れた。
「失礼致します。お話中すいません。温泉の方は12時までのご利用となっておりますので。わたくし共も12時で上がらせて頂きます。ではごゆっくりと」
そう言って襖を閉めた。
中々感じのいい柔和なおじさんだ。
話に夢中で誰も温泉に入る者などいない。
もう1時間ちょっとだしなんとか記憶を呼び起こしてひねり出した。
小学校低学年の頃、物置にしている部屋の廊下を歩いていたら西日が差してオラウータンみたいな影が障子にくっきり映っていたこと。後にあれはトイレの花子さんに出てくる妖怪テケテケじゃないかと思った。
なんであの時襖を開けて確認しなかったんだろう?
もうひとつ同じく小学生の頃。叔母と祖母と妹と山奥にある温泉に行って泊まったとき。
夕食の後深夜になってから叔母と祖母は温泉に行ったらしい。
そして温泉に浸かっているとどこからともなく「オギャ~オギャ~」と赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたそうな。
怖くなってすぐ上がったそうだが翌朝、泊まり客を確認するとどこにも赤ちゃん連れなどいなかったそうだ。

最後のシメは守。
母方の実家でおじいさんが半年前に亡くなったそうだがある夜、おばあさんがいつものようにトイレに行こうと寝室から茶の間を通りかかった時、丸い光の玉が蛍のようにゆらゆら飛んでいたそうである。
みんなはその家が国道に面しているからトラックのライトが当たってそう見えたんじゃないの?なんて言ってるそうだがおばあさんはきっとおじいさんの魂だと言っているらしい。
守もそう思っているという。
そしてもうひとつ。
守の中学の頃の話。
中学に入ってから急に親しくなったOくんとはいわゆるゲーム友達で、当時流行っていた対戦型ロボットゲームで互いに切磋琢磨していたらしい。
よく放課後中学校に近いところに住んでいるOくんの自宅にお邪魔して遅い時間までゲームをやっていたそうだ。
ある時いつものように放課後連れだってOくんの自宅へ続く長い坂を下っていたとき、突然Oくんが道端を指差し「ここにおじいさんが座ってる」と言ったそうだ。
守はてっきりギャグだと思って取り合わなかったがどうも様子がおかしい。
いつまでも真剣に話すので少なくとも嘘は言ってないと思ったそうである。
何でもテレビに出てくる霊能者みたいに最近変なものしょっちゅうを見るようになったそうだ。
ただOくんが言うには、どこで仕入れた情報か2日徹夜した後首を冷たいタオルで冷やすと見えるようになるよ、なんて言っていて結局それが幻覚なのか幽霊なのか当の本人ですら分からずじまいだったと言う。
守の考えではろくに寝ないでゲームばっかやっている多感な中学生の脳ミソはそんな幻覚見ても不思議じゃないとのことだった。
その後Oくんとは別々の高校に入って疎遠になってしまったが、最近図書館で調べものをしていてある記事を見つけたという。
それは7年前の新聞で、あのOくんの自宅へ続く長い坂の途中で起こった事故のことが書かれていた。
よく読むと84歳の男性が坂を横断中トラックに跳ねられ死亡したと書かれていたそうだ。
「その記事を読んだときさすがに背筋が寒くなったよ。Oくんが見える言っていたのはそのおじいさんだったんじゃないかって」
ちょうど守が言い終わったとき、廊下にあった置き時計がボ~ン、ボ~ンと12時を告げる鐘を鳴らした。
残念ながら23話で打ち止め。
百話目に現れるという人ならざるモノを見ることは出来なかったけど初めての企画にしては上々の出来だ。
今夜はこれでお開き、続きはまた日を改めてってことになってその夜は散会となり各々男子部屋、女子部屋に戻って眠りに就いた。

実はこれには後日談がある。
守と前川先生が苦心してセットしたデジタルカメラ、赤外線カメラの映像をふたりで再生してチェックしていたとき。
ぼくは気づかなかったか守が気づいた。
みんなが話している大広間を映した映像には何も異常はなかったのだがもう1台襖の前に置かれたカメラの映像には終わり頃奇妙な現象が映っていた。
襖が勝手に開いて勝手に閉じたのだ。
守と「なんだこりゃ?」と話合った結果、夜の11時頃入浴時間を知らせに来た紺の作務衣を着たあのおじさんが来たときじゃないかとなった。
みんな見たはずのあのおじさんはどこにも映っていなかった。
早速旅館に電話するとあの女将さんが出てくれて聞いてみると夜間男性の従業員はいないという。
紺の作務衣を来た背の高い白髪の方ですと言うと女将さんはびっくりして「それ、去年亡くなった前代じゃないかしら?」と言った。


※ほぼ実話です。


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