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B02)飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)の感想:Ⅱ主張の前提

2024年2月13日 18:00 訂正
資料の多重引用、数か所の誤記を訂正いたしました。

前稿につづき

前回の投稿と同じく、2024年2月4日に投稿された飯山陽氏の以下の有料noteを読み、個人的な感想を記します。
有料記事に関する論考のため、引用は最小限にとどめます。
詳細は飯山氏のnoteをご覧ください。


飯山氏の記事の構成(おさらい)

まず、鈴木一人教授、池内恵教授、錦田愛子教授の言説を紹介したのち、導入部の最後に「これらはウソです」と断じます。
そして、ウソと断ずる論拠として以下を議論を展開します。
①「ガザには水も食料も大量にある」
②「ガザの人道支援にUNRWAは不可欠では」ない
②’「UNRWAへの拠出金が止まっても、ガザへの人道支援は止ま」らない
②’’「そもそもUNRWAはガザの人々に、食料も、人道支援も、ほとんど提供してい」ない(②の論点に集約できると考え、②’および②’’とします。)
③まとめとして「日本の国際政治学者たち」に対する批判

UNRWA代替組織の前提について

議論を展開する出発点の違和感

前稿では、政治の素人である筆者でもすぐに「?」となった、資料の偏りについての感想文をしたためました。
本稿では、『他の国際機関が、UNRWAのかわりに業務をつとめることができる』とする飯山氏の主張の前提を考えていきます。
参照資料の誤読や誇大解釈に関する疑問が根底にあり、前稿と似通った観点での感想となっている点、ご容赦ください。

まず、構成②「ガザの人道支援にUNRWAは不可欠では」ない、については、前稿で参照資料が偏向しているとの筆者の感想を記しました。
本稿では、以下の言説を裏付ける論拠について考えてみます。

UNRWAが間に入っているからこそ人道支援物資がハマスに横取りされ、ガザの人に行き渡らないという問題が発生しているわけです。

飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)

飯山氏は、UNRWAは腐敗しており、UNRWAを経由したガザ支援はテロ支援であるとの論陣を張っておられます。
※X等の投稿が多数あるので検索してください。昨年10月7日直後は、UNRWAと特定せず、パレスチナ支援そのものが過激派の武器供与に直結するような投稿もありましたが、筆者の疲労の限界で投稿の参照を諦めます。
※2024/03/18 Visegrád 24を参照した投稿を発掘したので追記します。

飯山陽氏 X投稿 2023年10月7日 21時31分
日本は人道支援を世界中に届けていますが、
それが正しい人の手に渡るようにすることが重要です。
(Googleレンズ翻訳)

少し逸れましたが、ここでの注目は飯山氏の次の言説です。UNRWAによる横取りの根拠として、シンベトがイスラエルメディアに語ったとする「ガザに搬入される人道支援物資の6割から8割はハマスに横取りされる」との情報を記述しますが、一次資料の参照はありません。さらに、シンベトがイスラエルの防諜機関であることへの言及もありません。
本稿は、この(UNRWA経由でハマスに)『6割から8割はハマスに横取りされる』との解釈の合理性に注目します。(その後の議論が、この解釈に依拠しているため)

飯山氏はかつて、Xに以下のような投稿をしておられます。

飯山陽氏 X投稿 2023年12月27日 13時30分

筆者は、黄色く強調された物質について、「セメント袋」ではなく『穀物袋』であると認識しました。(セメント袋は紙製が多いですし)
言葉の選択ミスなのか故意なのかはわかりませんが、「セメント袋」と言及したうえで、ガザに搬入した日本国旗を印刷された物資が、さもトンネル工事に直接流用されたと読み取れる文脈である点、大いに留意すべきと考えます。
筆者は、むしろガザに搬入された穀物袋を、物資配布がなされた前か否かも含め、どのような経緯かは不明ながら、過激派が流用して土嚢化した物体と推測します。
※2024/03/06 パラグラフ全体に重複表現があったため若干修正しました。

なお、このような類の言説は、ハマス襲撃直後から現在に至るまで、『日本のパレスチナ支援は、テロ支援に繋がる』とする論調に、よく見られる印象です。
つい最近の飯山氏の投稿も参照します。類似の袋に「Flour」小麦粉とはっきり書かれていますが、この支援物資の存在そのものが、我が国が「テロ支援国家」であるような印象を持たせる文脈を披露されます。

飯山陽氏 X投稿 2024年1月27日

なお、以下の2月5日の投稿では「食料袋」と袋の性質に言及されています。

飯山陽氏 X投稿 2024年2月5日 13時43分

それでもなお、筆者には日本の食料袋が土嚢として過激派に利用されていることが、即ちUNRWAを通じた支援がテロ支援につながる、との飯山氏の飛躍的な論理に追いつくことができませんでした。

以上、客観的な論拠は乏しく、イスラエルのシンベトによるとされる情報と、食料支援物資を搬入した穀物袋の画像をもって、いかにも『支援物資が直接、過激派組織に横流しされた』かのようにミスリードする見解を提示しており、UNRWAを必要以上に悪魔化している可能性に留意する必要があると考える次第です。

その後の議論について

以上のような前提に基づき、飯山氏はさらっと以下のように説明します。

USAIDやUNICEF、UNOCHA、WFPなど、UNRWAのようにハマスに支配されておらず、UNRWAより遥かに腐敗が少なくて、UNRWAよりはるかに効率的に、正しく、人道支援物資を配布できる機関はいくらでもあります。そしてこれらの機関はすでにガザで活動しています。

飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)

他の組織が、「はるかに効率的」との言及は、前述の『横取りされている』という論拠が明示されていない言説に基づくものと考えられ、極言すれば論拠が怪しい主張とも読み取れます。
また、他の組織が「遥かに腐敗が少な」に点については、ガザや西岸地域との距離感が全く違う組織を列挙して、「すでにガザで活動してい」るから代替すべき、とする主張の妥当性が、素人である筆者には見出せません。
UNRWAが腐敗しているのであれば、代替組織の要員構成を議論すべきと考えます。代替組織でもガザの雇用創出や実務的な業務運用を考えれば、現地雇用が必要な状況はほぼ変わらず、その構成人員から過激派を排除する実現性や、実質的な統治組織を再構築するコストに関する議論がなく具体性に欠けると感じた次第です。
このような背景から、UNRWAの事業内訳などを論ずる以降の言論(②・②’・②’’の残り)に関する検証は省略し、感想は以下を最後といたします。

結びの「国際政治学者たち」への批判に移る前に、以下の提言がなされます。

ガザはUNRWAとハマスから解き放たれて初めて、産業をつくり、雇用を生み出し、発展の道を歩むことができる。
少なくとも私はそう考えます。

飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)

ガザを開放することができるのは、封じ込めているイスラエルだけですよね?と、最後に膝の力が抜けました。
極言かもしれませんが、飯山氏の主張に沿ってUNRWAやハマスが解体されても、なおイスラエルに抑圧され続けるガザに幸福を見出せないのは、筆者に留まらないと考えます。
論ずる土台が崩落していると考えるので、③への言及を控えます。どうぞお察しください。
(2024/02/13追記:気が向いたら③の検証も考えますが、今のところ保留です)

おわりに

奮発して300円の記事を購読した甲斐がありました(謎の達成感)。
飯山氏の支持者が受容する言説が、必ずしも論理的な説明に基づいてはいないと個人的に理解できただけでも、飯山博士に感謝いたします。

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