見出し画像

忘れない、秋の月に照らされて揺れる君の瞳に僕が映っていたことを#シロクマ文芸部#秋桜

秋桜は淋しい気持ちを僕につぶやきました
「わたしは桜さんには、なれませんでした。」一生懸命に背伸びして、桜さんになろうと頑張りました、けれどもわたしには到底無理なことでした。あの春に可憐にハラハラと散っていった命は、今もあなたを虜にしています。あなたは時々、ここにはもう居ない桜さんを思って空を見上げていることも、うつむいて足元を見つめている時にも、薄ピンク色した桜さんの心で、あなたの心を染めていった過去を何度も思い返していることも、わたしは知っているのです。美しいままでみんなの心を奪っていってしまった桜さん。わたしには到底真似することは出来ませんでした。
わたしが似ているのはほんの少しだけ、その薄ピンク色の花びらが、春に消えていった桜に似ていたのでしょ、あなたがわたしを優しく見つめる瞳は、桜さんを思い出しているのでしょう、わたしはあなたを慰めるための存在なのでしょうか?

秋桜さん、あなたにそんな思いをさせてしまったことを許してください。
僕は、桜がいってしまった淋しさを、代わりにあなたで埋めようとなんて少しも想ってはいないのです。

こちらこそ、ごめんなさい。わたしは、あなたのお傍にいるだけで幸せなのに、秋に吹く風に揺られていたら、わたしの心も揺れて仕舞いました。あの日、あなたは、うさぎの様な赤い目をして泣いていたのを見守っておりました。右手に握った薬を口の中に放り込む様にして、仕事に行く姿を祈る気持ちで見送っておりました。だから、今更、甘てしまってごめんなさい。わたしはとても丈夫ですから、あなたが倒れそうな時には、どうぞわたしを尋ねに来て下さいね、あなたの心に寄り添いたいと心から想っているのです。


ありがとうございます。実は、夕暮れにひっそりと揺れる秋桜さんの姿を拝見した日に、僕の心は救われました。細く華奢な少女の様なあなたの姿。しなやかに揺れるその姿はどこか儚げなのに、僕よりも強いと感じたのです。あなたの弱さの中にある強さに僕は惹かれているのです。

日が暮れて、いつの間にか日が落ちて、すっかり暗くなりました、公園で遊んでいた子ども達も、早く家へ帰ろうと自転車を走らせて行って仕舞いました。辺りは君と僕とだけになりました、君の揺れる瞳に僕を見つけます。抱いてしまうにはあまりにも真っ直ぐな心でした。僕たちはふたり手をとり静かに語りあい過ごしました。

だけど、僕は、気づいていました。君との時間も長くはないことを
僕は、自分を不幸だなんて想いたくはないのです。咲き終わった君の『種』と言う名の想いを摘み、この手に温かく包み込みます。「忘れない、秋の月に照らされて揺れる、君の澄んだ瞳に僕が映っていたことを」

僕はまた、うさぎの様な赤い目をして泣いてしまうかもしれません。








最後までお読みいただきありがとうございました。
こちらの作品は、
小牧幸助 様 のサイト
シロクマ文芸部の今週のお題に参加させていただきました。
素敵な企画、素敵な出会いをありがとうございます。

タイトルのお写真は
横田 裕市 様 のお写真を使わせていただきました。
横田 裕市 様 ありがとうございます。



この記事が参加している募集

恋愛小説が好き

最後まで読んでくださりありがとうございます。 もしよろしければ、サポートして頂けると嬉しいです。 記事を書くための書籍購入に使わせていただきます。