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明〜ジャノメ姫と金色の黒狼〜第8話 慈愛(7)

「邪教の神殿?」
 ツキは、コーヒー飲む手を止めてアケを見る。
 アケは、大きく頷く。
 慌てて風呂から出てきたので着替えはしたものの髪はまだ少し濡れていて雫が垂れている。
 その後ろでウグイスと青猿が何故か同情的な目で自分を見てくることにツキは,少し気になった。
「私も赤ちゃんの頃、邪教の神殿に攫われてそこで実験をされた」
 アケは、黒い布に覆われた本来の目のあった部分を触る。
「もし、邪教が子どもたちを何かの実験に使うならきっと神殿を使うと思うの。彼らにとって実験はとても神聖なものだから」
 アケは、絞り出すように言う。
 アケに取って今話したことは大きな精神的外傷トラウマだ。記憶にはなくても口にするだけで心が無惨に切り裂かれる思いだろう。
 しかし、アケは、飲み込まずに言葉として出した。
 青猿の子ども達の為に。
 ツキは、コーヒーカップをテーブルに置き、横列に座るオモチとカワセミを見る。
「オモチどう思う?」
「そうですね」
 お風呂に入る前と変わらず針金のように痩せたオモチの口の周りが橙色の汁で汚れていた。我慢できずに青猿のお土産を口にしたのだろう。アケは、オモチが食べれたことに安堵するがその横でウグイスが恨めがましく睨んでいる。
「確かに邪教が絡んでいるならその可能性は否定出来ませんね」
「妹と旅する中で邪教の神殿らしきものは幾つか見かけたことはあります。そこから足取りを掴むことは出来そうですね」
 カワセミは、真剣な顔で言う。しかし、テーブルの周りにはバナナを初めてとしてたくさんの果物の皮が置かれていた。こちらは我慢というよりも普通に食べたようだ。ウグイスがさらに恨めがましく兄を睨みつける。
「それに邪教に探りを入れる程度なら国同士のイザコザは関係ありません。我が国の単独での行動となるので問題ないでしょう」
 オモチは、口元をモゴモゴと動かしながら言う。
 ツキは、顎を摩る。
(確かにその方法なら邪教の裏で暗躍している輩を炙り出すことが出来る・・か。それに・・・)
 ツキの脳裏と胸中に浮かぶのは黒狼の国がまだ猫の額に追いやられるきっかけとなった出来事の記憶とその時感じた違和感。
 記憶とまるで違うのに違和感だけが似ている。
 ツキは、アケを見る。
 アケは、湯上がりだと言うのに青ざめた顔で不安そうにツキを見ている。
(これ以上、妻を不安にさせる訳にはいかないな・・・)
 ツキは、決意する。
「試してみる価値はあるか」
 ツキの言葉にアケは、顔を輝かせる。
 妻の嬉しそうな顔を見てツキも嬉しそうに口元を釣り上げる。
「うちの国からも隠密に何人か子ども達を出すように言おう。喜んで協力するはずだ」
 青猿は、表情こそ固いが話しが進展したことに嬉しそうに言う。
 青猿の言葉にツキは小さく頷く。
「とりあえず今日の皆、身体を休めよう。疲労困憊では何も出来ん」
 ツキは、小さく息を吐く。
 王として凛として構えているがやはり肉体的な疲労は感じているようだ。
「アケ、すまないが青猿に部屋を一つ用意してやってくれないか?」
 ツキの言葉にアケは頷くが青猿がそれを制する。
「いや、悪いが今日は娘と寝かせてもらうわ」
 そう言ってアケの肩を掴んで引き寄せる。
「娘?」
 ツキは、黄金の双眸を顰める。
 オモチとカワセミも頭の上に?を浮かべて首を傾げる。
「ちょいと大人の階段を登る勉強をしないといけないんでな」
「だから私はもう大人です!」
 アケは、唇を尖らせて抗議する。
「まあまあ。アケ。大事な勉強だからさ」
 いつの間にかたくさんの果物を抱えたウグイスがアケを宥める。
「青猿様、とりあえず私達の家でいいですか?」
「そうだな。男どもに聞かれるのは面倒だ」
 そう言ってアケは、2人にガッチリと捕獲されて出入り口へと連れられる。
「青猿様、ウグイス様」
 いつの間にか部屋の出入り口の前にアヤメが立っていて妖艶な笑みを浮かべて3人を見る。
「じっくりと奥様に教えてあげてください。今後の我が家の為に」
 アヤメの言葉にウグイスと青猿は、親指を立てて答える。
「んじゃまた明日な」
「兄様は今日はこっちに泊まってね」
 青猿とウグイスは、にこやかに手を振る。
 アケだけが戸惑いを隠せずに「行ってきます」と小さな声で言った。
 その後をアズキがトコトコと追いかける。
 男達は、首を傾げて見送った。

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