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看取り人(4)

 彼女は、同校の3年生で女子のバスケ部の主将で、そして驚くほど優秀で、そして美人だった。
 柔らかいボブショート、スポーツしている女子特有の力強さをもったアーモンド型の目、顎のラインは細く、鼻梁も整った端正顔立ちはモデルにいてもおかしくない。実際に芸能事務所からスカウトの話しも幾つかあったらしい。そしてバスケ部らしい長身の身体からは熟れ始めた女性としての魅力が溢れようとしていた。男子なら誰もが惹かれる魅力を持っており、宗介自身も彼女に少なからず惹かれていた。が、最初は「いい女だな」程度のものだった。
 それが変わったのはインターハイのベスト8を逃した夏の終わりの事だった。
 1週間早く試合が終わった宗介達は、女子バスケの応援に来ていた。興味がなかったので知らなかったが今年は、女子バスケ部も念願であったインターハイに出場することが出来、決勝に行けるかの瀬戸際に差し迫っていたのだ。
 そしてその女子バスケ部を牽引したのが他ならぬシーであった。
 顧問に言われて仕方なく見に来ていた宗介であったが、彼女の試合で戦う姿を見て・・・疼いてしまった。
 それぐらい彼女のバスケスタイルは洗練されて美しかった。
 その夏、女子バスケ部は男子バスケ部が叶わなかった念願のインターハイベスト4に入ることが出来、夏休み明けは称賛の嵐を受け、シーは有終の美を持って部を引退していった。
 宗介がシーに告白したのはそれならまもなくのことであった。
 寝ても覚めても彼女のことが忘れられない。
 彼女の美しいバスケットスタイルが頭に焼き付き、霰もない姿が浮かんでは夢精をしてしまう。
 こんなことは人生で初めてであった。
 自分にとって女性とは付いてくるものであって、追うものではなかったはずだ。
 それなのに・・・。
 そして宗介は、決意した。
 彼女に人生初の告白をしよう、と。
 そして宗介は、図書室で受験勉強している彼女を見つけて呼び出し、告白した。
 心の思いをそのままに好きだと表現した、
 正直、自分が振られる想像なんてまるでしてなかった。むしろ喜んで了承され、その日の内にホテルに行くことまでプランしていた。
 しかし、シーから出たのはまったく予期しないものであった。
 シーは、露骨に嫌悪感を表した表情で宗介を睨みつけた。
 そして汚い言葉で罵った。
「誰があんたみたいな最低クズ野郎と付き合うっていうのよ。馬鹿も休み休み言いなさい」
 彼女の美しい外見からは想像も出来ないような痛ましい言葉に宗介は打ちのめされた。
「あんたにどれだけの女の子が泣かされてきたと思ってんの⁉︎どれだけの友達が傷つけられたと思ってんの⁉︎あんたを好きになる奴なんて誰もいない。のたれて呪われろ」
 そう言ってシーは、宗介の元から去っていった。
 宗介は、その場から動くことが出来なかった。
 人生で初めて彼は振られ、人生で初めて罵られ、人生で初めて負けたのだ。
 しかし、宗介の心に溢れたのは振られたことによるショックではない。
 屈辱であった。
 これまで築き上げてきた人格形成を根底から破壊されるような屈辱であった。
 そして思った。
 彼女に復讐をしたい、と。

 看取り人の目が剣呑に光る。
「復讐?」
「ああっ復讐だ。彼女の人生に俺と同じ傷を与えたいと思った」
 宗介は、その時に得た黒い感情を思い出し、ほくそ笑む。心なしか少し呼吸がしづらくなってきた気がするが気にしない。とにかく話したい。彼の反応をみたい。
 案の定、看取り人は、異質な何かを見るような引いた目で宗介を見ていた。
「彼女に何をしたんです?」
「犯罪行為はしてないから安心しな」
 宗介は、喉を抑えるように笑う。
 そう犯罪行為なんてしてない。
 むしろ犯罪行為をしてしまった方がこんな痛みを死ぬ最後の最後まで持ち続ける事もなかったかもしれない。
 こんな感情の吐露をすることもなかったはずだ。
「俺の復讐。それは彼女の大切なモノを奪うことだった」

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