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『合魂‼』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

あらすじ
 静岡県生まれのごく普通の少年、優月超慈は猛勉強の末、難関と言われる愛知県の『愛京大付属愛京高校』に合格する。
 彼を突き動かす理由……それは『彼女をつくること』であった。そしてこの愛京高校にはなんと『合コン部』なるものがあることを聞きつけた彼は、見事に入学試験を突破した。 喜び勇んで学校の門をくぐった超慈を待ち構えていたものは……?
 大規模な学園都市を舞台に繰り広げられるドキドキワクワク、常識外れの青春ハイスクールライフ、ここにスタート!

本編

 ある春の日の夕暮れ。一人の少年がとある学校の体育館倉庫に身を隠している。
「はあ、はあ……んだよ、全然わけわかんねえっての……」
 短すぎず、長すぎない無造作ヘアーをさらにボサボサと搔きむしりながら、体育座りをした眼鏡の少年はうなだれる。
「そもそもどうしてこうなったんだっけ……?」
 少年は自らに問いかけるように呟く。4月だというのに汗がどっと噴き出す。
「ああ、そうだ、ああいうふざけた噂、いや、都市伝説の類か? とにかくそんなくだらないものにまんまと釣られちまって……!」
 物音がしたため、少年は体をすくめる。おろしたての高校の制服ももうしわくちゃだ。しかしそんなことを今、この眼鏡の少年は気にしてはいられない。少年は声を抑えて呟く。
「何故釣られた俺? 答えは簡単だ。高校で彼女を作り、充実したハイスクールライフをめいっぱい送りたかったんだ……」
 少年はズレた眼鏡を直し、少し落ち着きが出てきたのか、自嘲気味に振り返る。
「……ある意味あの都市伝説は本当だった……のか? この馬鹿デカい学園都市の高等部には『合コン』を容認するという先進的な風潮があると……」
 少年は声のトーンをさらに抑えながら、振り返りを続ける。
「確かにあの時、午後の部活説明会で、紅髪美人の女性はそのようなことを口走っていた。正直あまりに電波な内容の話で美人の補正がかかってもなかなか厳しいものがあったな……周囲の連中はあっけにとられるか、苦笑するかの二択だった……俺もそうするつもりだったが、気が付いたら説明会会場まで足を運んできてしまった……現状把握終了」
 いくらか落ち着きを取り戻したが、どうやら謎解きゲームの類でもない。これでゲームクリアもしくはゲームからの解放ということはなさそうであることを少年は理解する。少年は再びうなだれて呟く。
「大体……『合コン部』ってなんだよ……? なんで集合場所が午後5時過ぎの人気のない体育館? 駅前のカラオケ館に午後6時集合とかの間違いじゃないのかよ? ――⁉」
 次の瞬間、体育館倉庫の壁が粉々に砕かれる。あまりの衝撃に少年は愕然とするしかなかった。壊れた壁の先には、ゴリラもとい、筋骨隆々な女子生徒らしき人物が棒のようなものを持って立っている。少年はかろうじて見覚えのある制服姿によって、壁を破壊した人物がこの女子生徒だということをなんとか認識する。しかし、認識したからといって、事態は分からない。少年は間の抜けた声を発することしか出来なかった。
「あ……あ……」
 女子生徒は綺麗な歯並びを見せつけるかのようにニカッと笑い、意外と可愛い声で告ぐ。
「さあ、そんな所に隠れてないで『合コン』の続きをしようよ?」
「ええっ⁉ ……俺の思っていた合コンと違う!」
 少年は女子に雁首を掴まれ、引きずり出されながら心の底からどうにか声を絞り出した。


 話はその日の午前中に戻る。入学式を終えた新入生たちが、自らが振り分けられたクラスに向かい、新たなクラスメイトたちに向かって自己紹介を行うという、どの学校でも定番な光景である。眼鏡の少年の出番が回ってくる。眼鏡の少年は人並みに緊張し、さらに前日あまり眠ることが出来なかったということもあり、妙なテンションになっていた。
「えっと……静岡からきました。優月超慈(ゆつきちょうじ)です!」
「静岡?」
「普通科に越境って珍しいな……」
 ひそひそと噂話が聞こえてくる。超慈はこういうのは最初が肝心だとばかりにインパクトのあるコメントをしようと高校デビューでありがちな失敗の地雷を踏んでしまう。
「高校では『合コン三昧の実りある生活』を送りたいです! よろしくお願いします!」
 超慈は勢いよく頭を下げるが、拍手の音はまばらである。妙に思った超慈が顔を上げると、周囲(主に女子生徒)の冷たい視線に晒されていることに気づく。超慈は面食らったが、とにかく席につく。その後も自己紹介は続くが、自らがやらかしたことに気づいた超慈はほとんどうわの空であった。気が付くと、周囲の生徒たちが移動し始めている、何事だろうか。教員の話を全く聞いていなかった超慈は慌てる。
「もう一回、体育館に行って、『部活動紹介』だってよ、面倒くせえよなあ?」
「え?」
 超慈の前に茶髪の坊主頭の少年が立っている。制服の白ワイシャツの下には柄付きのTシャツだ。校則を素直に守るタイプではないようである。坊主頭が笑う。
「いや~あそこは『彼女募集中です!』とかの方が無難だったと思うぜ?」
「む……」
 超慈は唇を尖らせる。坊主頭はポンポンと超慈の肩を叩く。
「まあ、欲求に素直なのは嫌いじゃないぜ、ドンマイ。まだまだ初日、全然取り返せるさ」
「……あ、ありがとう」
 単に自分をからかう為に声をかけてきたわけではないことが分かり、超慈は礼を言う。
「それじゃあ、行こうぜ、体育館」
「あ、ああ、えっと……」
外國仁(とつくにじん)だ、岐阜県からきた。つまり俺も越境組だ、よろしくな」
「あ、ああ、よろしく、外國くん」
 超慈は慌てて立ち上がり、坊主頭の差し出した手を握る。体格は似たようなものだが、がっしりとしていることが窺えた。坊主頭は笑う。
「仁で良いよ。俺も超慈って呼んで良いよな?」
「あ、ああ、構わないよ」
 仁の言葉に超慈が頷く。
「……邪魔だ、どけ、ナード」
「!」
 超慈の机の脇をやや明るい髪の色をしたマッシュルームカットの男が通り過ぎようとする。端正な顔立ちをした長身のマッシュルーム男は再び口を開く。
「聞こえなかったのか? そこをどけ、ナード」
「ナ、ナードってもしかして俺のことか?」
 超慈が尋ねる。マッシュルーム男が興味無さげに答える。
「他に誰がいる?」
「ナードって知っているぞ。アメリカのスクールカーストで言う『オタク』のことだろう? 誰がオタクだ、誰が!」
「ボサボサの頭に眼鏡、ピントのズレまくった受け狙いの自己紹介……これでオタクでないと言い張るのは無理があるな」
「なんだと……これでも俺は地元ではなあ、結構鳴らしたもんだぜ?」
「今度は虚勢を張るのか? ダサさの歯止めがかからんな」
「なにを⁉」
「おおっ! やめとけ、やめとけ!」
 マッシュルーム男に食ってかかろうとした超慈を仁が慌てて止めに入る。
「ふん……」
 マッシュルーム男がその場を去り、教室を後にする。超慈が憤然とする。
「な、なんだよ、あいつ⁉」
「あいつは礼沢亜門(れいさわあもん)。この愛知県で結構有名なお寺の子だな」
「知ってんのかよ?」
「中学時代から名古屋のファッション誌にはよく登場していたからな、あのスタイルとルックスだ。うちの中学でも人気だったよ」
「ちっ、人をオタク扱いしやがって……俺だって好きで眼鏡かけているわけじゃねえよ。この偏差値の高い『愛京大付属愛京高校(あいきょうだいふぞくあいきょうこうこう)』に受かる為に半年間、必死で勉強してきたんだ。そりゃあ視力も低下するってもんだろう!」
「ま、まあ、その辺りは人それぞれだと思うけど……コンタクトは付けないのか?」
「……用意はしてあるけど付けるのが怖い……」
「あ、そう……」
 超慈の思わぬ返答に仁が戸惑う。
「コンタクトさえ付ければ、イメチェン出来るかな?」
「どう思う?」
 仁は近くに立っていた金髪ギャルに声をかける。ギャルは驚きながらも答える。
「ま、まず、欲望むき出しの挨拶に皆引いているし!」
「その割に君は近くに来ているね?」
「た、たまたまだし! さっさと移動するニン!」
 ギャルはその場を去る。超慈が首を傾げる。
「……ニン?」
「あの娘は鬼龍瑠衣(きりゅうるい)ちゃん……自己紹介でも~ござるとか言って、失笑を買っていた。俺の読みだといわゆる高校デビューってやつだな……超慈、高校デビュー失敗同士、案外気が合うかもしれねえぞ?」
「失敗認定早えよ……とにかく移動しようぜ」
 超慈たちは体育館に向かう。仁が尋ねる。
「超慈は部活決めてたりすんのか?」
「ああ、もちろん」
「え? は、早えな……」
「難関の試験を突破して、この高校に来たのは理由がある! 『合コン部』に入る為だ!」
 超慈の言葉に仁が思わず噴き出す。
「そ、それって、ネットの噂だろう?」
「む……」
 部活動紹介が始まり、終わりに差しかかったところ……。
「……続きまして『合コン部』の紹介です」
「ほら見ろ! あるじゃねえか!」
「マ、マジかよ……」
 超慈は待望の、仁は驚きの眼差しで壇上を見つめる。杖をついて歩く、紅髪のストレートヘアーで右目を隠した凛としたスレンダー美人がマイク前に立ち、話を始める。
「え~新入生諸君、ご入学おめでとう。合コン部部長の灰冠姫乃(はいかぶりひめの)だ。疲れていると思うから手短に説明させて頂く……」
「ま、まさか本当にあるとはな……しかも部長さん超美人じゃん、始まったな……」
 超慈は顔のにやつきを必死で抑える。部長はよく響く声で説明する。
「まず『合魂』とはお互いの魂を合わせ……」
「ん?」
「魂から生じる波動を導く! これこそが『合導魂波(ごうどうこんぱ)』だ!」
「ええっ⁉」
 美人部長からよく分からない言葉が飛び出し、超慈は驚く。
「ええ……」
 美人部長の意味不明な話に体育館がざわつく。美人部長はニヤッと笑い、こう付け足す。
「詳細については省く」
「いや、省くのかよ」
 超慈がボソッと呟く。
「興味・関心を抱いた者は今日の夕方5時過ぎにこの体育館に集まってくれ。詳しい説明はその時に行う……以上だ」
 美人部長は颯爽と壇上から降りる。
「な、なんだったんだ……」
「どうよ超慈、行くのか?」
「い、いや……ちょっと……無いな」
「だよな」
 仁の問いに超慈は苦笑いを浮かべつつ首を振る。仁も笑う。
「……と思ったら、何故に俺はここにいるんだ?」
 放課後、午後5時を過ぎた頃、超慈は体育館に足を運んでいた。体育館は照明をやや落としているようで薄暗く、今ひとつ様子が分からなかったが、どうやら自分の他に何名かが集まっているということを超慈は理解した。
「ほう……意外と集まったな」
「!」
 壇上からよく通る声がする。超慈は壇上に視線を向ける。暗くて顔は見えないが、昼間の美人部長だということは声で分かった。
「興味・関心を抱く時点で素質はあるということだな……改めて自己紹介をさせてもらおう、三年の灰冠姫乃だ。これから簡単な入部説明会を始める……」
「ま、まあ、一応聞いておくか……」
 超慈は小声で呟く。
「そもそも合導魂波というものは古来より行われており、それが平安時代に『合魂道』として体系化され……」
「やっぱり俺の知っている合コンと違う!」
 超慈が思わず声を上げる。姫乃が首を傾げる。
「む……何か質問があるのか?」
「い、いえ……すいません……」
 超慈は慌てて謝罪する。姫乃は一呼吸置いて話を再開する。
「続けるぞ……合魂道にはいくつかの流派が存在するのだが……」
「ね~部長さんさ~そんな退屈な話はもういいって♪」
「そうそう、それより俺たちと遊ばない?」
「ん……?」
 壇上に二人の男が上がる。薄暗いために顔までは分からないが、制服は着崩しており、素行のよろしくない生徒であるということを超慈は察する。姫乃が尋ねる。
「遊ぶとはどういうことだ?」
「またまた~合コンなら名駅近くのカラオケでも行って盛り上がろうよ~」
「そうそう、あそこのカラオケボックスで俺らの先輩たちバイトしてるからさ、安くしてくれんだよ。京高の可愛い娘連れてこいよって言われてるしさ」
 そう言って男たちは下卑な笑い声をあげる。姫乃がため息をつきながら淡々と呟く。
「はあ……わが校はそれなりに偏差値が高いはずなのだが、貴様らのような程度の低い連中が必ず一定数は混ざるのだな……不思議なものだ」
「あん? 程度の低いだと?」
「言葉を理解するのだな。リビドーに取りつかれた猿かと思ったぞ」
「さ、猿だと⁉」
「貴様らの相手をしている暇などない、さっさと動物園に帰れ」
 姫乃は心底面倒くさそうに手をひらひらとさせる。
「い、良い度胸してんじゃねえか、パイセン!」
「ちょっと痛い目を見てもらうぜ、分からせてやる!」
 逆上した男たちが姫乃に迫る。超慈が叫ぶ。
「あ、危ない!」
「……」
「! が、がはっ……」
「ぐはっ……」
 次の瞬間、男たちがその場に崩れ落ちる。姫乃が掲げた杖をさっと下ろす。
「ふん……」
「ま、まさか、あの杖で男二人をのしたのか……?」
 超慈は驚く。姫乃が正面に向き直って告げる。
「不純な輩は排除した。これで人数的にもちょうど良いな。それでは『合魂』を始めよう!」
「なっ……」
 体育館に集まった者たちから戸惑い気味の声が上がる。
「自分で言うのもなんだが、私は説明が不得手だ。『習うより慣れよ』とはよく言ったもの。さっそく諸君らにはこの体育館で魂のぶつかり合いをしてもらう」
「た、魂のぶつかり合いと言っても、具体的にどうすれば?」
 ある者が至極もっともな疑問を口にする。
「やり方は人それぞれだ」
「ひ、人それぞれって……」
「互いの魂を合わせることによって生じる波動を導く……要は生み出されるエネルギーを感じ取るということだな」
(やべえ……ルックスに釣られたが、あの女マジで頭逝っちゃってる……このままだと変な壺とか買わされかねん。今のうちに……ん?)
 密かに体育館から出ようとした超慈だったが、何故か扉が開かない。
「ああ、この体育館は小一時間ほどバトルフィールドと化している。合魂が決着するまでは外に出ることは出来んぞ」
「はあ⁉」
 超慈は大きな声を上げる。姫乃が告げる。
「諸君らも知っての通り、わが校は広大だ。この体育館もかなりの広さがある。存分に暴れまくってくれて構わないぞ」
「あ、暴れるって……」
「合魂でのことは現実空間には影響しない。ここに転がっている輩どももちょっと気を失っているだけのことだ」
「……ケガの心配はないってことですか?」
「ああ、大丈夫! ……なはずだ」
「はずって言った! 不確実なんだ!」
「……まあいい、そろそろ始めるぞ」
「あっ!」
 騒ぐ超慈を無視して姫乃が指を鳴らす。周囲の空気が変わったことを超慈は察する。
「ふふふ……」
「なっ……?」
 超慈の近くに大柄な女子が迫る。霊長類最強の座も狙えるほど屈強な体付きをしている。
「ふふ……」
「な、なにか御用でしょうか?」
 超慈は丁寧にその女子に尋ねる。
「……貴方、昼間見かけたわ。アタシの好みのタイプよ」
「そ、それはどうも……」
「アタシと合コンしましょうよ!」
「うおっ⁉」
 女子が光る棒のようなもので超慈に殴りかかってきたため、超慈は慌ててそれをかわす。体育館の硬い床が深くえぐれる。
「へえ、意外とすばしっこいわね! でもアタシって逃げられる方が逆に燃えるのよ!」
「な、なんだ、あの棒は⁉ それにあの破壊力……喰らったらひとたまりもないぞ!」
「ほう、もう発現させている者がいるようだな……その調子で存分にぶつかり合え!」
 姫乃が壇上から声をかける。
「ええっ⁉」
 超慈が困惑気味に叫ぶ。
「ふふっ!」
「いやいや、ちょっと待てって!」
 大柄な女子が再び棒を振りかぶる。超慈は慌ててその場から離れる。
「む!」
(くっ、外には出られないとか言っていたな! どこかに隠れてやり過ごすか!)
「ん……? あの眼鏡……なかなかの運動能力だな……しかし、丸腰では厳しいか……?」
 壇上で様子を見つめていた姫乃が呟く。
(なるほど、意外とこの体育館は広いな。普通の学校とは違う!)
 超慈が息を切らしながら走る。
「はっ!」
「せい!」
(⁉ も、もしかして他の連中も魂のぶつかり合いとやらをしているのか? 付き合っていられないぜ!)
 超慈は舌打ちをしながら体育館倉庫に駆け込む。
「はあ、はあ……んだよ、全然わけわかんねえっての……」
 髪の毛をボサボサと搔きむしりながら、体育座りをした超慈はうなだれる。
「そもそもどうしてこうなったんだっけ……? ああ、そうだ、ああいうふざけた噂、いや、都市伝説の類か? とにかくそんなくだらないものにまんまと釣られちまって……!」
 物音がしたため、超慈は体をすくめながら声を抑えて呟く。
「何故釣られた俺? 答えは簡単だ。高校で彼女を作り、充実したハイスクールライフをめいっぱい送りたかったんだ……ある意味あの都市伝説は本当だった……のか? この馬鹿デカい学園都市の高等部には『合コン』を容認するという先進的な風潮があると……」
 少年は声のトーンをさらに抑えながら、振り返りを続ける。
「確かにあの時、午後の部活説明会で、紅髪美人の女性はそのようなことを口走っていた。正直あまりに電波な内容の話で美人の補正がかかってもなかなか厳しいものがあったな……周囲の連中はあっけにとられるか、苦笑するかの二択だった……俺もそうするつもりだったが、気が付いたら説明会会場まで足を運んできてしまった……現状把握終了」
 超慈はいくらか落ち着きを取り戻したが、再びうなだれて呟く。
「大体……『合コン部』ってなんだよ……? なんで集合場所が午後5時過ぎの人気のない体育館? 駅前のカラオケ館に午後6時集合とかの間違いじゃないのかよ? ――⁉」
 次の瞬間、体育館倉庫の壁が粉々に砕かれる。あまりの衝撃に超慈は愕然とするしかなかった。壊れた壁の先には、ゴリラもとい、筋骨隆々な女子生徒が光る棒のようなものを持って立っている。超慈は壁を破壊した人物がこの女子生徒だということをなんとか認識する。しかし、超慈は間の抜けた声を発することしか出来なかった。
「あ……あ……」
 女子生徒は綺麗な歯並びを見せつけるかのようにニカッと笑う。
「さあ、そんな所に隠れてないで『合コン』の続きをしようよ?」
「ええっ⁉ ……俺の思っていた合コンと違う!」
 超慈は女子に雁首を掴まれ、引きずり出されながら心の底からどうにか声を絞り出した。
「ふん!」
「どわっ!」
 女子に無造作に投げられ、超慈の体は体育館の冷たい床に転がる。女子は笑う。
「ふふふ……」
(なにがおかしいんだよ? つーか、なんつう馬鹿力だよ……)
「追いかけっこはこれでおしまい」
「は?」
「他の男の子も気になるし……貴方はこの辺りで大人しくしていてちょうだい」
「……はい、分かりましたって言うと思ったか?」
 なんとか体勢を立て直した超慈は女子をにらみつける。女子は笑う。
「へえ、そういう顔もするんだ……もっとなよなよした感じかと……」
「や、やめろ、俺を値踏みすんな」
「わりとガチで気に入っちゃったかも……」
「わりとガチってマジかよ……」
 女子の言葉に超慈は頭を片手で軽く抑える。
「キープくんくらいにはしてあげる!」
「ふ……ざけんな!」
 女子が振り下ろした棒の鋭い一撃を超慈はすんでのところでかわす。女子は驚く。
「ふ~ん、今のもかわすとはやるね、キープくん」
「キープくんって言うな! 俺の名前は……!」
「ん~? なんてお名前?」
「いや、いい……名乗るほどのものでもない」
 女子の問いに超慈は首を振る。
「え~教えてよ~」
「悪いがアンタと親しくなる気はない」
「分かった。それならアタシが勝ったら、名前も教えてね♪」
「か、勝手に決めるな!」
「え~い!」
「ぐおっ⁉」
 女子は上下に振るだけであった棒のようなものを今度は左右に振ってみせた。思わぬ方向からの攻撃を喰らった超慈はかわし切れず、壁に向かって吹っ飛ばされ、壁にぶつかる。
「当たった♪」
「ぐ……ぐはっ!」
 超慈は前向きにうずくまるように倒れこむがなんとか立ち上がろうとする。
「幸か不幸か、結構タフだね。次の一撃で決めるよ~」
 女子は四つん這いになっている超慈の頭に狙いを定め、棒のようなものを振りかざす。これを喰らったら流石にマズいことは超慈にも分かっていた。しかし、飛び跳ねて、あるいは左右に転がって、その攻撃をかわす余力がもう残っていない。超慈は内心舌打ちする。
(ちっ……ゴリラと見まごうこの女の一撃を脳天に喰らってノックアウトか……いや、霊長類最強みたいな相手によく粘った方か……)
「~~♪」
「待て待て!」
「!」
 突如超慈が叫び出したため、女子が動きを止める。超慈は叫び続ける。
「華のハイスクールライフがそんなスタートで良いのか? 良いわけねえよなあ⁉」
「え? なに……いきなり自問自答? 怖っ……」
 超慈の様子に女子が困惑して、動きを鈍らす。超慈は女子を観察しながら声を上げる。
「大体なんだ、その光る棒みたいなものは? アンタだけそんなの持っててズルくね? 俺にはそういうのないのかよ!」
「い、いや、そう言われても……」
「そんなにもアンフェアなものなのかよ! 魂のぶつかり合いってのは!」
「……なんかおっかないからこれで決めさせてもらうね?」
「ちぃ! むっ⁉」
「おりゃ! 何⁉」
 女子が目を丸くして驚く。自らの振り下ろした棒のようなものを超慈が二本の刀で受け止めてみせたからである。
「こ、これは……?」
「なにそれ⁉ 刀! しかも二本とか! ズルくない!」
「い、いや、俺にも何がなんだか……ポケットが青白く光ったと思ったら、急に刀が……」
「ようやく発現したようだな」
「⁉ ぶ、部長さん⁉ これはどういう状況ですか⁉」
 いつの間にか自分たちの傍らに立っていた姫乃に超慈が尋ねる。
「合魂では必須とも言える、『魂道具(こんどうぐ)』の発現に成功したのだ」
「こ、魂道具⁉ なんすかその響き⁉ ってかこれは?」
「それはさしずめ、『魂択刀(こんたくとう)』だな」
「ええっ⁉」
 二本の刀を構えながら超慈は戸惑う。
「応用形が発現するとは……思っていたより素質はあるかもしれないな」
 姫乃が呟く。
「応用形? なんで刀なんですか?」
「貴様はコンタクトを持っていたか?」
「は、はい……」
「つまりはそれが魂択刀になったということだ」
「つまりって! 説明が下手!」
 超慈の言葉に姫乃が若干ムッとする。
「そういうものなのだから他に説明しようがない……」
「じゃあ彼女が持っているあの棒のようなものは⁉」
 超慈が向かい合う女子の持つ物を指差して尋ねる。姫乃が答える。
「私も全ての魂道具に精通しているわけではないが……あれは『魂棒(こんぼう)』だな」
「魂棒⁉」
「棍棒が魂道具として発現したのだろうな」
「よく分からないけど、こんなこともあろうかと棍棒を持ち歩いていて良かったわ~」
「こんなこともって! どんな想定していたらそうなるんだよ!」
 女子の言葉に超慈は思わず突っ込みを入れる。姫乃が冷静に呟く。
「あれはそのままの形で魂道具として発現している……基本形というやつだな」
「基本形……」
「ねえ、部長さん、合コンを続けて良いんでしょ?」
「ああ、邪魔をして済まなかったな。存分に魂をぶつけ合え」
 女子の問いに姫乃が頷く。女子が笑顔を浮かべる。


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