モスバーガーの思い出

うますぎるモスバーガー

数あるチェーンの中でも、モスバーガーが好きだという人は多いと思う。
僕も昔はそうだった。

特に高校生時代なんかはモスバーガーにどハマりし、一度にバーガーを二個、三個食べていた(それでも全然足りなかったけれど)

僕が特に好きなのは「照り焼きチキンバーガー」「スパイシーチリドッグ」「フィッシュサンド」の三つだ。
(モスのフィッシュサンドはこの世のチェーン系ハンバーガーショップの中では世界一うまいフィッシュサンドだと思う。ちなみにビーフパティ系のハンバーガーで好きなのはIn-N-Outだ。)

それくらい僕はモスバーガーが好きだったのだけど、たった一つだけ、どうしてもモスバーガーを食べた後にネガティブな気持ちになっていた。

それはいつも食べ終わった後に「これじゃ、全然足りない。」という、どこか虚しさのような感情から、逃れることができなかったからだ。

僕は当時バスケットボールを本気でやっていたこともあり、とにかく食べる量が尋常じゃなかった。
それでもバイトで稼いだお金には限りがある。つまり、僕が食べることのできるハンバーガーの数は限られていたのだ。

モスバーガーを沢山食べたい

ある日、僕はとうとう我慢ができなくなった。友達二人を呼びだすと、アツくこう語った。

「みんな今日は言いたいことがあるんだよね。実はさ、前から思っていたのだけど。」

僕の神妙な面持ちに、話を聞く友達の顔も自然とこわばる。

そしてこう言った。

「モスバーガーを一度でいいからお腹いっぱいになるまで食べてみたい。良かったら一緒に沢山食べてみない?」

「みんなもこの気持ち、わかってくれるよね?」

僕は人生ではじめて本気のプレゼンをした。

そしてこの後、僕がみんなに提案した企画というのが「モスバーガーのメニューをすべてテイクアウトし、三人で食べきる」というものだった。

少しのざわつきのあと、友達はすぐに状況を理解したようだった。そして彼らの目の奥に熱いものが生まれるのを僕は見逃さなかった。

僕はみんなの返事を待つことなく、「この企画は通る」と確信した。

すると友達は食い気味にこう言った。

「いつ、やる?」

僕たちはこの時から、互いに多くを語る必要がないほどに、固い絆で繋がれていたように思う。

実行当日

僕は近所にあるモスバーガーで事前に予約したハンバーガー全品を取りに行き、友達の家に向かった。

あの時の友達の家に向かう時の「わくわくした気持ち」は今でも忘れられない。
期待に胸をふくらませ、希望に満ち溢れていたように思う。

あの大好きなモスバーガーをお腹いっぱいになるまで食べることができる。

こんな夢のような話があるだろうか。
バイトで稼いだなけなしのお金をはたき、僕は足早に友達の家に向かった。

おばちゃんとの遭遇

友達の家に行くと、いつも僕たちを可愛がってくれるおばちゃんが出迎えてくれた。

「あら、いらっしゃい!よく来たねー。」

少し話をした後、友達はしびれを切らしてこう言った。

「あのごめん、ちょっとやらなきゃいけないことがあるから行くわ。」

その顔つきは本気だった。僕たちの様子がいつもと違うと察したのか、おばちゃんはこう言い放つ。

「あらそう。わかったわ。ゆっくりしていきなさいね。」

僕は正直驚いた。このおばちゃんは、今の時代に珍しい位、面倒見の良いおばちゃんなのだ。友達の一言で、ここまであっさりと引き下がるとは思わなかった。

きっとおばちゃんは息子のなにか覚悟めいたものを感じ取ったのだろうと思う。

確かに、せっかくの出来立て熱々のモスバーガーを、長話によって台無しにしてはいけない。

きっと、友達の取った行動は、「如何においしくモスバーガーを食べるか」を考えた末の英断だったのだと思う。
僕たちは、心の中で友達にリスペクトを送った。

企画スタート

僕たちは持ち込んだ巨大なモスバーガーの袋を破き、ハンバーガーを並べた。
そして僕たちは並べられたハンバーガーの周りを更に円を描くように座ると、順番に自分が食べたいハンバーガーを一人ずつピックアップしていった。

ついに念願の企画がついに始まる。

「いただきます!」

一個、二個、三個と僕たちの食べるペースは留まることを知らなかった。

うまい、冗談抜きで最高にうまい。

四個目のハンバーガーを手に取ったとき、僕は「いつもだったら、ここで終了なんだよな」としシミジミと考えると、胸が熱くなった。
自分ひとりだったら、こんなことはできなかった。

仲間の大切さをこの企画から改めて教わった気がした。

想定外の出来事

あまりのおいしさにテンションがブチあがっていた矢先、いきなり部屋のドアを「ガチャリ」と開く音が。

そこに立っていたのは、なんとおばちゃんだった。

「え!ど、どうしたんですか!?」

さっきやり過ごしたはずのおばちゃんが、そこで仁王立ちをしている。

そしておばちゃんの手をよく見てみると、大きなビニール袋がぶら下がっている。

「あなたたち、せっかく来たんだからこれを食べなさい」

なんとおばちゃんは、僕たちが来たことを知ると、わざわざ近所のスーパーまで出向き、お弁当を三人分も買ってきたのだ。

「この企画、、、詰んだ。」

僕はすぐに状況を理解し、この企画が失敗に終わるであろうことを予測した。

お弁当をもらったからには、まずはこちらをやっつけないとおばちゃんに申し訳が立たない。

こういう時いつも思う。

何かプレゼントをもらった時、その内容ではなく、贈ってくれた人の気持ちを受け取ることが大切だと。

次の瞬間には「ありがとうございます!」とお礼を言って、そのお弁当を受け取った。

僕たちは目を合わせ、覚悟を決めると一気にお弁当をかき込みはじめた。

最後の一個

僕たちは弁当を一気に食べ終えると、その後も気合でハンバーガーを食べ進めた。

たった三人しかいなかったけれど、みるみるバーガーの数は減っていく。そして、ついに最期の一個となった!

そこに残ったのは最もシンプルな「ハンバーガー」だった。

僕たちは好きなものからピックアップし食べ進めていったので、最後は一番シンプルなハンバーガーが残った。

もうみんな限界だった。

それでも言い出しっぺの僕は責任を持ちたかった。何としても、この企画は成功させる。

「これ、いくわ。」

友達二人は口の中にハンバーガーを口に一杯にしながら、僕の目を見ながら黙ってうなずく。

ここからは本当にきつい戦いだった。

もうとっくに限界は来ている。僕は一体何をやっているのか。

そして、頭の片隅では、あのことばかりを考えてしまう。

「あの弁当さえなければ」

正直、こんなことは思いたくなかった。でもはちきれそうな胃の張りに、冷めきったハンバーガーを目の前にすると、どうしてもあのお弁当のことばかりが頭に浮かんだ。

おばちゃんへの感謝の気持ちと、圧迫されるような苦しさに、僕は脂汗をかいていた。

だめだ、ここで止まったら終わる。

僕は最後の一口を無理やり口に頬張った。

もうヤケクソだった。

とうとう、目の前にあったハンバーガーは姿を消した。その光景を目にした後、僕たちは何とも言えない声を上げると、三人でハイタッチをした。

僕たちは負けなかった。

僕たちはおばちゃんの気持ちもありがたく受け取ったうえで、「この戦いに勝った」のだ。

もちろん、しばらく動くことはできなかった。

1時間くらい経って、ようやく動けるようになった僕たちは、お腹をさすりながら(どこか満足げな)おばちゃんに挨拶をすると、それぞれが家路に着いた。

今思い返しても、あれは本当に苦しい戦いだったと思う。

でも最後まであきらめなかった。そして、そんな自分たちが誇らしかった。

感謝の気持ちを忘れず、仲間と一緒に協力しあいながらも、僕たちは目標を達成したのだ。

多くの人は「何やってんだ。バカなことを」と言うかもしれない。

でも僕たちは、こんなバカみたいな経験から、人生において、かけがえのない、本当に大切なことを学んだように思う。

その日の夜、僕は盲腸で緊急入院した。

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