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孤独な観察者の流浪 アンネマリー・シュヴァルツェンバッハ『雨に打たれて』(書肆侃侃房)

 文学の潮流から距離を置き、みずからの主題と対峙して創作に身を置いた海外の女性作家たち。彼女たちの作品は、近年日本でもめざましい(再)評価が進んでいる。シルヴィア・プラスやルシア・ベルリンは記憶にも新しい。そしてここに、日本の読者がまだ見ぬドイツ語文学の知られざる女性作家が、およそ一世紀もの時をへて紹介されるに至った。
 スイスで生まれ、親ナチスの両親から離れて、異国を旅しながら三十余年の生涯に遺した文筆。死後、家族による焚書をまぬがれた一部といえども遠いこの地に届いたことを感謝したい。
 彼女の短編小説は、多くが自身のアイデンティティや旅の経験と結びついている。それらは社会や文化を――時に同じ旅行者をも冷静にみつめる容赦のない眼差しとなって小説にあらわれる。ゆえに文章からは一切の夾雑物が排され、どこか自罰的な厳しささえ有している。
 真の異邦人とは、彼女のような孤独な観察者を指すのだろう。

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