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経済効果は2億円?地方の高校が仕掛ける『高校魅力化プロジェクト』とは?

文科省「廃校施設等活用状況実態調査」によると、2002年度~2017年度の16年間で1094校もの高校が廃校になっています。

これを平均すると、全国で毎年68校もの高校がなくなっている計算になります。

特に、地域に唯一存在するような高校は人口減少の煽りを受け、定員確保が厳しい状況が続いています。

慢性的な定員割れが続いた場合、高校側には「統廃合」あるいは「存続」が迫られることになります。

そんな中、島根県海士町にある隠岐島前(おきどうぜん)高校という地方の高校へあえて進学する子ども達が増えているというのです。

約20年前、隠岐島前高校が存在する海土町は、町の借金が100億円を超え、夕張市に次ぐ破綻を危惧されていた上に、

高校でも入学者の低迷が続き、このままいけば「島根県の高校統廃合基準である21人」を下回る危機が目前に迫っていたようです。

島に1校しかない高校がなくなれば進学を機に県外へ、さらに将来的には家族もろとも島を出ていってしまうといった負のスパイラルによって、周辺地域全体の産業衰退が懸念されていました。

ですが、『高校魅力化プロジェクト』を基点とした地方創生によって、年間100人程度のUIターンが続く地域として復活を遂げたようです。

高校魅力化の分析によると、

隠岐島前高校の周辺3町村(西ノ島町、海士町、知夫村)において、高校魅力化によって地域の総人口は5%増、消費額は3億円増加(2017年)、歳入も1.5億円程度増加(同)したという推計結果もあるようです。

その背景には、クローズドにあった高校教育を社会へ開き、自治体や企業等が抱える課題を一緒に考える課題解決型学習のほか、

地域の大人も先生(ある時は一緒に生徒)になって生徒を育てるという『教育を基点とする地域振興』があるようです。

言葉だけを聞くとポジティブな印象を受けますが、地方の人口減少、少子高齢化、産業衰退といった日本のキーイシュー(重要な問題)が深く関係しています。

今回参考にした以下の書籍では、地域が抱える問題を大局的に捉えることができました。数値を図とグラフで分かりやすく表示されてて、さらにビジネス等に変えるためのキーデザイン事例が多数あって勉強になりました。

(例えば、日本は国土の7割が森林という森林大国でありながら、安い国外産に頼り、国内の樹木は「売れない樹木」として生やしっぱなしというのは知りませんでした…)

そんな事例の一つに、隠岐島前高校の「島留学制度がありました。

地域振興をも可能にする隠岐島前高校の取組みは話題を呼び、地方の各高校で魅力化プロジェクトが進められ、国も後発的にサポートする動きが活発化しています。

こういった高校魅力化プロジェクトに興味を持ったので、制度の背景などを捉えるため以下の書籍も参考にしました。

今回は、高校存続といった逆境に立ち向かう「地方の高校」の取り組みについて、調べていきたいと思います!

▢高校魅力化プロジェクトとは

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高校魅力化プロジェクトは、2014年に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が関係し、その内容は「小学校・中学校」と「高校・大学」とで大きく異なります。

小中学校では、「適正規模化、小規模校の活性化」といったことが含まれた一方で、高校や大学に関しては「しごとの創生」と「ひとの創生」といった地元定着や地元人材の育成が言及されました。

(大学に関しては、COC事業などがその例にあたります)

高校魅力化プロジェクトのWEBサイトでは、その取組みについて以下の通り説明しています。

①その地域・学校でなければ学べない独自カリキュラム
②学力・進学保証をする公営塾の設置
③教育寮を通じた全人教育
の3本柱で、多くの生徒が行きたい、保護者が通わせたい、魅力ある高校にするプロジェクト。

加えて、コーディネーターの存在もかなり大きいようです。

他方で、教育を基点にといっても、高校生の成長はもちろんのこと、その他アウトカムとして『人口増からの地域経済の底上げ』を狙う側面もあるようです。

ですが、大前提として

県立高校の場合、都道府県の教育委員会が教育について施策を練っていると思っていたので、市区町村(地方自治体)は口出しできるの?と思い、Wikipediaで調べてみました。

基本的に小中学校または義務教育学校は市町村教育委員会、高等学校は都道府県教育委員会が管理・運営をするが、中高一貫の中学校などでは都道府県立の場合もある。なお、小中学校または義務教育学校については市町村に設置義務が課せられている。
高等学校については基本的に都道府県教育委員会が管理・運営を行うが、市町村教育委員会でも設置・運営することができる。
(引用:Wikipedia「公立学校」で検索,2021年6月7日現在)

市区町村でも可能なようですが、やはり基本的に都道府県での管理・運営によるものが多いようです。

一方で、2015年には「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について(答申)」以降、

地域コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)が始まり、社会に開かれた学校運営が求められています。

(▼あわせて読みたいサイト)

▢1校がもたらす経済効果

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上述してきたように、基本的に高校運営は都道府県の教育委員会であるため、隠岐島前高校のように定員割れが慢性的に続き、県が定める統廃合基準をクリアできない場合、

高校側に対し否応なしに「統廃合」あるいは「存続」といった選択を迫ることになります。

ちなみに、都道府県立の高校で勤務する教諭らは「都道府県の公務員」であるため、例え廃校になったとしても他校への人事異動によって仕事に困ることはありません。

このように中で働く人たちが困らないのであれば、統廃合を受け入れるしかなかった地方自治体なわけですが、

高校がもたらす「地域周辺の経済効果」を無視する事は出来ないため、高校魅力化プロジェクトはそういった点においても有意性があるとされています。

高校魅力化プロジェクトの行政向けページによると

高校だけでなく学校の廃校は、少子高齢化と人口減少に拍車を掛けるだけでなく、子育て世代の人口流出を招くとしています。

さらに、2019年度に北陸大学経済経営学部の藤岡ゼミと慶應義塾大学SFC中島特任助教の共同で行った研究で、石川県立能登高校が能登町に与える経済効果を試算したところ、

「能登高校が2011年に統廃合されていない今の能登町」と「2011年に統廃合された仮の能登町」では2018年での人口の差が1563人も生じ、それらが与える経済効果は21億円と試算されているようです。

つまり、例えば「町に1校しかない高校」の地域周辺への経済効果は、少なくとも年間2億円近い可能性があります。

そのため、高校運営の存続は町にとっても死活問題とも言えます。

しかし、高校存続にはそれ相応の費用が税金から捻出されますので、存続する場合には『特色づくり』、つまり魅力化を進めることが前提条件となります。

ただ、それを高校だけで考えるには限界があることから、魅力化を進めるためにも学校や教育委員会以外のステークホルダーとの連携は不可欠なようです。

▢地域留学という選択肢

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魅力化を進める高校の多くは、離島や中山間地域を中心とした「地域で唯一の高校」であることがケースとして多いようです。

都心の場合、「人口密度こそ高いが、人交密度(交流)が低い」とよく言われます。

一方、魅力化プロジェクトを進める高校は「人口密度は低いが、人交密度が高い」地域を実践場としたカリキュラム特徴があります。

その特徴を活かし、『地域みらい留学』という新たな制度が始まり、高校生にとって選択肢がどんどん拡がっています。

この制度は、2つのコースで分かれています。

●中学3年生向け
 高校1年生から3年間留学するコース(長期)
●高校1年生向け
 高校2年生から1年間留学するコース(短期)

なお、令和2年度の「高校生の地域留学の推進のための高校魅力化支援事業」では、12の高校が指定校として採択されています。

ただ、地域みらい留学制度は指定校に限らず実施されているようです。

地域みらい留学の「国内留学ガイドブック」によるとその数は26都道府県で70校、小中3校も合わせると73校にも昇ります(2021年6月7日現在)。

今回は少し長くなってしまったので一旦終えたいと思います。

ただ、教育といえば聖域のように良くも悪くも閉鎖的に学内で行われていましたが、魅力化プロジェクトを契機に、高校を核とする地域振興が活発化していることが分かりました。

日本は医療保障制度が先進的な一方で、教育は自己負担という教育にあまりお金を掛けない歴史があり、結果として、教育格差や学歴主義を招くことになりました。

しかし、先行きが見えない現代において「知識と技能」だけでなく、「思考力・判断力・表現力」が必要な時代となっています。

フィギアスケートの紀平選手のようにスポーツに専念するため、あえて通信制高校を選択するように、知識はどこででも身に付けられるようになっています。

一方で、地域固有の課題は日本が抱える課題でもあり、その課題に高校生のうちに触れるといった機会はそうそうありません。

ですが、むしろ魅力化プロジェクトは高校生だけでなく、地域の大人達に対しても『教育が町の振興に繋がる』といったマインドチェンジにも影響を与えているのではないかと感じました。

次回は、高校魅力化プロジェクトに取り組む高校を少しピックアップし、さらに「総合的な探究の時間」で高校生が制作にも携わった書籍をおススメしたい思います。

▼次回の記事はこちら

最後までお付き合いいただき
ありがとうございました!
Twitterもやっています。@tsubuman8


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