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ー詩と形而上学ーNo.41


GOOD MORNING   

 


抑揚のない声を
ミキサーにかけて
ジュースにする
今日の、搾りたての
かすれた声帯は
おはようございますが
うまく言えない


背景だと思ったら
風景画だった時のような
掴み損ねている
本日の、自分の居場所
頁を開いたら
繰り返される
契りのような、或る永遠性


ありのままの背中を現実として
只、生き延びていくだけでは
干乾びてしまうようなので
植物園の入場券の半券を
柔らかく握りしめながら
じっと、待っていようと思う
花が咲く、その瞬間を


北半球の太陽の優しさの半分はわたしのもの
一月の冬空の水色の三分の一もわたしのもの
午前六時に鳴く鵯のさえずりもわたしのもの
ドライフラワーのような乾いた幻想でさえも


鞄に忍ばせた前世紀の散文詩もわたしのもの
地下鉄のイヤホンに響く音楽もわたしのもの
食卓に飾られたダリアの花瓶もわたしのもの
少し食べ残した艶のあるザッハトルテだって


ビルの隙間から見た飛行機雲もわたしのもの
誰もいない午前十時の映画館もわたしのもの
誰かに貰った乾パンの氷砂糖もわたしのもの
二杯目の渋味が増した珈琲もわたしのもので


喪失的で、具体的な
紛うことなき、この生を
語り始める幾多の言葉は
喉の奥で結晶となり


したがって、必然的に、アプリオリに

目の前の全ての愛おしいものはわたしのもの


GOOD MORNING この世界たちよ



Written by Daigo Matsumoto

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