見出し画像

実習生の実態

6月、秋、冬と言えば、特別支援学校高等部の実習の季節である。

 
特別支援学校高等部では、一年生の時に色々な障害者福祉施設を学校単位で見学し(先生、保護者、学生)、二年生で施設に初実習、三年生実習時で本格的に卒業後の進路(利用する福祉施設)を決めるのが普通だ。

 
前の職場は規模が大きな施設だったので、毎年実習生受け入れの時期はどの事業部にも様々な特別支援学校から実習希望があった。
なるべくは時期をずらして各事業一人ずつ実習をしたいが、希望者多数の場合は同時に見る場合もあった。

私は事業部責任者だった為、当時は私の事業部の実習希望者は全員私の担当だった。
施設利用開始前から学校、先生、保護者、本人と関係性を築いたと言える。

 
転職先は小規模の施設の為、実習生受け入れの時期になっても驚くほど実習生は来なかった。
転職してから私はまだ二人しか実習生を見ていない。

 
一人目は内向的な女性で、座り込み、作業や活動参加はほとんど難しかった。
笑わず、むしろ泣くことや不穏になることが多かった。
一回の実習で合わないと感じたか、もう次の実習時期になっても希望はしてこなかった。

 
二人目は社交的な男性で、溶け込むことが早かった。
環境適応に強い学生は、どの施設でも好まれやすい。

特別支援学校の実習生は学校とは勝手の違う(様々な年齢の方がいる、身・知・精神の障害者がいる、職員がマンツーマンでつきっきりじゃない)ことにまず洗礼を受ける。

学校は同じような年齢の方しかいないし、障害の程度は学校単位で同じくらいで、クラスには担任、副担がいて先生と生徒の人数比率は1:1~3程度。
施設の場合、職員と利用者の人数比率は1:1~20くらいになる(時間帯によっては職員1人で20人くらい見る場合もある)。

 
ただし、こちらの男性は多動でどの作業も課題が見られ、実習で施設に慣れるほどに言動にも課題が見られた。
本人は作業より活動を好み、作業への集中力は日に日に下がっていった。

にも関わらず保護者が軽度グループ(難易度の高い作業をガッツリ頑張る目的の事業部)を希望していて頭が痛かった。
本来ならば重度グループ(マイペースに簡単な作業を行い、作業だけでなく、活動にも力を入れる事業部)が妥当だと私や周りの同僚は思った。

 
前の職場ならば事業部ごとに利用基準、実習基準がしっかりしていたが、今の職場は今後の可能性や成長を期待する傾向があるらしい。

次の実習どころか、卒業後の利用希望まで出ていて、今後を思うと早くも胃が痛い。

 
実習生は大抵学校からの資料で書いてある以上に課題が見られる。
そして施設に慣れてくるほどに課題が強化される人の割合が高い。

そのため、実習時に既に大きな課題が見られる場合、利用者として受け入れるのはバクチに近いのである。

 
とはいっても
私は転職先で下っ端であり、実習生担当でも事業責任者でも施設長でもないので、状況だけ報告して、あとは上の判断に従うしかない。

 
今年の秋は何故か実習希望者がたくさんいる。

 
そのうちの一人の実習がまず始まった。

 
資料によると、内向的で病気の関係で体力はない女性のようだった。

なるほど、確かに内向的で自分から積極的に関わるタイプではなかった。
実習初日から利用者が不穏になり、物を投げたり、怒鳴ったりと暴れていてメンタルが心配だったが、彼女は休むことなく実習を続けた。

案外タフなんだな、という印象を持った。

 
その実習生は資料以上に素晴らしいというレアケースだった。

作業能力は非常に高く、なんでもこなせた。
実習生は何が得意か見極めるため色々挑戦してもらうが、未経験のことでもなんでもこなせた。

 
正直、今在籍している利用者よりも集中度も高い。
一回の説明で理解したし、報告もできた。

 
是非卒業後は利用者になってほしい。

私はそう思った。

 
最近利用者が増えても課題がある方ばかりで、なかなかに作業が上手く回らなかったり、職員負担が増えていた。

 
体力がないという話だったが、実習期間中は特に問題はないレベルだったし
内向的ではあったが、話しかければ受け答えができたり、一緒に過ごせる方だったので、今後慣れてきたら問題ではない気がした。

 
「でもうちの施設じゃ勿体ないよな。」

リーダーが言う。

 
確かにその人のレベルならば、施設は選びたい放題で、もっと工賃が高い場所も選択できるだろう。

 
どの施設を選択するかは分からないが、初実習が本人や保護者の自信に繋がればいい。

 
実習が終わるとまた他の実習生が来る。

実習の時期は出会いと別れが繰り返される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?