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Nのために/湊かなえ

以前、ドラマ化していた作品。

アマゾンによると、ドラマは評判がよくて原作はいまいちみたいだけど
個人的にはとても好みだった。

 
タイトルが「Nのために」となっているように
主要な登場人物はみんなイニシャルがNである。
どうせなら、希美の弟も洋介ではなく、直哉とか何かしらNの名前にしたらいいのにと思った。
金田一少年の事件簿の「悲恋湖殺人事件」では主要な人物がみんな、S.Kだった設定を思い出す。

 
小説はこんな内容である。

“お金持ちの野口夫妻が自宅で変死体として発見された時、現場に居合わせたのは男女4人。
それぞれの証言の元に犯人は捕まったはずだが、10年後、彼らは真実について知りたいと願う。 
4人はみんな、嘘をついていた。
それぞれが1番大好きなNを守るために。”

 
湊かなえさんお得意の、その4人の証言から事件が明るみになっていく第一章。
そして残りの章では各登場人物が、自分の生き様や思い、あの日何をして誰のために嘘をついたかを描く。
視点が切り替わるのだ。
事件前後、過去、事件から10年後、登場人物による創作小説に文章が飛ぶのでまとまっていなかったり
分かりにくい箇所もあるが
私は先が気になって一気に読んでしまった。
読んだ後も興奮は止まらない。

レビューによる今作がイマイチな理由はオチが弱いということだが
これはオチを楽しみにする作品ではなく
途中経過を楽しみにする作品なのだ。

   
今作でポイントなのは
4人が4人とも、誰が誰のために嘘をついたか知らない。
真実もあくまで、登場人物による回想で読者に伝えるので
「真実を知りたがっている」登場人物は真相には辿り着けず
読者はページを開くごとに真実に近づいていくのだ。

さすが湊かなえ!といった感じで
伏線が後半で活きる。
肉じゃがのシーンが希美の過去にまでつながっていると思わなかった。
素晴らしい。

え?あ!なるほど!!
あ!そう来たか!!へぇ、おぉ!!!
お!!!!!

そんなワクワクが止まらない。

 
 
「愛とは罪の共有」

希美はそう言うけれど
その罪を読者も知ることで共有し
物語に引き込まれていく。
確かに罪を共有することで一種の繫がりは強化する。
ただ、反面明るい未来はないのだ。
 
 
今回、みんな殺人を犯す気はなかったはずなのに
色んな思いや偶然が悪い方に重なり
このような結果に至ってしまった。
その描き方や伏線がお見事。
 
 
同じ出来事なのに受け取り方が色々で
誤解や思い込みがあり
そこに愛や憎しみが生まれ
リアリティを感じた。
言葉はいらない、通じ合える……
なんて、実際なかなかの理想論だ。

両思いなのにお互いに気づいていなかったり
り 
両思いだと思ったら「汚い傷跡」と罵られたり(私が描くならあの人は罵られたら逆上しそうだが、そうならなかった心理描写は意外だ)
複雑な人間関係と心情だ。

 
ポルノグラフィティの歌詞で“君の「愛して」が僕に「助けて」と確かに聞こえた”というものがあるが
シャーペンのエピソードを読んだ時
その歌詞が浮かんだ。

 
読んでいて奈央子とトリの母がとにかく腹立たしく
トリの2人の過去は読んでいて切なくなった。
野原さんの台詞にはウルっときたし
「灼熱バード」を読んだ後
表紙の絵を見返すと何とも言えない。
純愛ミステリー、とあるが、確かにこの小説の根底には純愛を感じた。

 
今作は湊かなえさんのデビュー後に初めて書いた小説だそうだ。
今までタイトルは漢字だったが
タイトルの雰囲気からも今までと受ける印象が違う。
(「告白」刊行した頃には「少女」や「贖罪」は8割方執筆済みだったとのこと)
プロになって早々にこの出来はすごい。
帯に書かれている大ベストセラーのうち、「贖罪」のみ読んだことがないので読みたいなぁ。

湊かなえさんの作品は確かに分かりにくかったり
思うところやツッコミどころもあるけど
どうにもクセになる。
別の作品も読みたくなるのだ。
 
 
余談だが、私の大切な人は何故かMというイニシャルが多い。
大切な人ができるたびに、「またMだ(笑)」と私はよく思う。
Mのために、私は罪の共有をどれだけできるだろう。



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