見出し画像

神様のあやまち

 神様は、スマホで動画を見ていた。

 玉座の前は長蛇の列で、神様に上奏、お願い、陳謝、賄賂、おべんちゃらなどを伝えようと、たくさんのひとが並んでいた。
 神様はもううんざりだった。早く定時にならないかなと思っていた。といっても定時はあと五万六千億光年先なのだが。
 小沢が暴れて困っているというような政治問題から、看護婦が注射するかわりに注射されたというような医療問題、勝手に手相を見るひとがいるんですという宗教問題から、なぜ味覚のすべてが海原雄山というひとりの男に決定されねばならないのかというような些細な問題までが、神様のもとに伝えられ、裁量が待たれる。
 もう、神様は飽き飽きで、うんざりなのだった。隠れて指のつめをかんだり、はなくそをほじくったり、すかしっ屁をこいたり、右足のつま先で左足の足の甲を掻いたり、親指と中指であごひげを抜いたりしてなんとかがんばっていたが、もう飽きた。だからこうやって、人々の話を聞きながらも、どうどうとスマホを見ている。開き直らねばいかんこともある。神様はそれを悟ったのである。

 「次の者は前へ出よ」神様の座っている豪華ででかくて頑丈そうでぎらぎら光る椅子のよこに直立不動で立っている大臣が言った。神様の前に、緑3分青7分の色がまだらに塗られた完全なる球形の頭を持ったやつが歩み出た。
 「こんにちは神様。私、地球と申します」ういういしく礼をする地球という者。神様のほうはというと、大して注意も払わずに少し頭を動かしただけ。そりゃそうだ。今スマホの画面では、みんなのアイドル川村ゆきえがプールサイドに水着で現れたところだからだ。
 「用件を申してみよ」大臣が言う。
 「実はですね。私のこの頭はとある惑星でして、たくさんの生物が暮らしているのですが、最近、それらの生活をおびやかす謎の存在が現れたのでございます」そこまで聞いても、何の返事もしない神。仕方がないから大臣が続きを促す。「それでどうした」
 「その謎の存在は我々の星では見ることのない、異形の存在です。形状はいろいろなのですが、大概黒くてでかくてトゲトゲしていて虫のような目をしていて低い声で呻りビームや毒を発します」
 「デーモンかデビルの眷属だな」
 「そうだと思います」

 地球と大臣の間で話はどんどん進むが、神様はぱかーと口を開いて半眼になってスマホ。川村ゆきえのおっぱいが、揺れるものだから。
 「デビルなどの眷属だとしたら、そなたの頭に住む生命体ではたちうちできぬだろう」
 「まことに」
 「危ういな。そなたの星の生命体が滅びれば、そなたの頭も真っ黒けじゃ」
 「まことに」
 「それで神に助力を願いに来たのだな」
 「まことに」
 「神」大臣が神様に向かって言った。しかし神様は川村ゆきえのおっぱいに夢中だ。
 「神」大臣が神様に向かって言った。しかし神様は川村ゆきえのおしりに夢中だ。
 「神」大臣が神様に向かって言った。しかし神様は川村ゆきえの二の腕に夢中だ。
 「神」大臣が神様に向かって言った。しかし神様は川村ゆきえのふとももに夢中だ。
 「神」大臣が神様に向かって言った。しかし神様は川村ゆきえの足首に夢中だ。
 「神」大臣が懐からスリッパを引っ張り出して神様の頭を引っぱたいた。さわやかな音がした。さすがに神様はテレビから眼をはずして、面倒くさそうに地球の方を見た。

 「わかったよ。うるせえなあ」と呟きながら、神様は右手を頭の上に掲げ、少し精神を集中した。右手の人差し指にまばゆい光が宿る。軌跡の光だ。この光を受けたものは、その身が持つ力の5倍のパワーを得ることができるのだ。神様は地球にいる生命体の中のどれかにその力を与え、地球を守る戦士を作るつもりなのである。実際、神様の力をまともに使えばデビルもデーモンも一発で昇天なのだが、そんなことしたらこの地球という者も粉々になってしまう。だから今回は、このように小さな力で地球に住む生命体のいくつかを強化し、内側からデーモンたちを倒してもらおうという、まあ免疫療法のような対処法が地球という者に対してなされることになったのだ。
 神様はスマホを見ながら地球に住む中でも力を与えてしかるべきだろうという者を探した。人間という存在が一番知能があるようだったので、その生物に力を与えることに決めた。ちょうどこちらを向いている地球の正面に、小さくて細長い緑のぽつぽつがあったので、そこにいる人間のうち、3人に奇跡の力を与えることにした。
 やっぱり若くて頭がいいやつがいい、ということで、奇跡の戦士として選ばれたのは、23歳で東大法学部卒、官庁で働く秋田県太郎と、21歳で現役ICUの生徒、茨城県次郎と、18歳でIQ3600のブレイクダンサー、山梨県輔だった。
 で、神様が軌跡の光をその3人に向けてビビビと放とうとしたとき、プールサイドを走る川村ゆきえのおっぱいが大きく揺れた。それで、神様の指先も揺れてしまった。
 結果、奇跡の力を受け取ったのは、文京区小石川に住む56歳の植木職人・松と、墨田区墨東に住む51歳の左官屋・留と、千代田区神田小柳町に住む54歳の博打打ち・熊だった。

 そして早速デーモンの眷属である一匹の巨大な魔獣が、皇居をぶっこわそうと青梅街道を東上してきたのである。さあ、奇跡の戦士、松、留、熊はこの化け物に対して、どのように対処するのであろうか。次回、「髪結所での出会い」お楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?