見出し画像

虚構と現実の絵画:2つの世界が織りなす”真の現実”

 実際にはあり得ない虚構の世界を描写したシュルレアリスムの画家の絵を見たとき、あなたはどのような感情になりますか?

画像1

ジョルジョ・デ・キリコ『赤い塔』1913年

「こんな世界はないし、空想を描いても面白くない。」

「毎日の夢で見るような光景で共感できる。」

 このように人それぞれ感じ方は異なるかと思います。僕は、彼らの作品を観て大変共感できるし、その夢のような虚構の世界もまた、一つの現実であると感じております。世の中には、虚構と現実を合わせた”真の現実”を絵画に落とし込んだ作品があります。今回はそれら”虚と実”の作品を3つ紹介したいと思います。

【マグリット『光の帝国』1953-54年】

画像2

 街頭の明かりが建物の壁を灯し、その光が手前の水面に映し出されています。建物の窓は一部屋を除き閉められている為、就寝前の夜遅い時間なのでしょうか。空を見上げると眩い星々が煌めき、、、と言いたいところですが、否。清々しい晴模様です。本作は昼と夜、光と闇が一つの画面に描かれた有名な一枚です。僕はこの作品を観ると懐かしさを抱いてしまい、不思議な魅力があるなと以前より感じていました。あなたはどう感じますか?

【葛飾北斎『甲州三坂水面』1831-34年】

画像3

 富嶽三十六景の全46作のうちの一図。季節は夏でしょうか。青々とした木々に覆われた山の間には、富士が厳格な姿で鎮座しております。その山肌は露わになり、富士山特有の茶褐色の岩や砂が見えるようで、その力強さや雄大さを感じますね。

 手前に目をやると大きな湖が広がっており、一隻の小舟と湖面に映る富士山が見えるではないですか。所謂、逆さ富士というやつです。ただこの画面、とても不思議だとは思いませんか。そう、湖面に写った富士山は夏のゴツゴツとした岩肌ではなく、雪を被った冬の装いなのです。

 つまりこの作品は1枚の作品に2つの季節、夏と冬が織り込まれた、日本の花鳥画(1作品に四季が描かれる)にも似た粋な浮世絵なのです。

【ルドン『グラン・ブーケ』1900-01年】

画像4

 東京丸の内、三菱一号館美術館の目玉コレクションといえば、こちらの作品ですね。展示会場の中ほどにあるルドンの大作は、縦248.3cm、横162.9cmのキャンパスにパステルで描かれた花瓶と、そこに生けられた花々が可憐に咲き誇っています。実は本作に登場する花は現実にある物とそうでない物が混在しているのです。まさに虚と実の絵画ですね。

 描かれた花は現実に存在しない”虚”であるかも知れません。しかし、美しい花瓶と生けられた花々から感じる美しさは、崇高さや神々しさを”実”に変えた肖像として表現されているのだと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?