老い

君はちっとも変わらないねえ
僕が片想いしていた頃と同じだ
目尻に笑い皴を湛えながら
あなたは私を見つめて言う
そんなわけないでしょ
私だって老けているはず
時計の針は平等なのよ
悲しいくらいに
僕の葬式にはこの曲をかけてほしいんだ
あなたから手渡された一枚のレコード
いやよとすぐに突っぱねた
私より先に死ぬなんて許さないんだから
年上の男と結婚するのは切ない
昔は盛り上っていた筋肉が
最近腕枕をしてもらう度細くなっているのを感じてる
置いて行かないでよ
老いて行かないでよ
たかが600円の美容液で
私が若さを保ててるわけないでしょ
童顔だから変わらないように見えるだけよ
そう一言吐き捨てた
そうかなあ
でもそのおかげで僕はいつまでも君に恋をしていられるよ
笑わないで
笑うと皴が目立つから
死の匂いを嗅ぎつけてしまうから
浴びるように飲んでた酒も
近頃グラス一杯でごちそうさま
豪快だった性格は削られる氷のように小さく丸くなり
私を恐怖に陥れる
やめて準備をするのは
もっと強い握力でこの世にしがみついて
私という未練を悟らないで
もっとわがままになってよ
若いままでいるから
あなたが恋をしていられるように頑張るから
この女を放ってはおけないと心に強く誓ったから
私たちは結ばれたんでしょう
それなら最後まで放っておかないで
死に顔を見るのはあなたのほうよ
私の好きな花は全部知ってるでしょう
いっぱいに敷き詰めて送り出して
その翌朝もう目覚めなくてもいいから
天国で一番可愛かった頃の私に戻って
待ってるからね

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