姫君

「姫とお呼びなさい」
「は?」
「だから姫とお呼びなさいと申してるでしょうが!」
「は、はははははい!」
交際を承諾してもらって夢見心地だった僕に
彼女はいきなり右カウンターを喰らわせた
確かに見た目だけで言えば姫君そのものだ
しかし中身まで染まり切っているとは全くの想定外だった
一目惚れだった
しかし彼女の高貴な気品に気負わされて
男どもはただうっとりと彼女を遠巻きに眺めているだけだった
僕は少しおバカさんなのかもしれない
この手で美しいものを尊んでみたくて
トコトコと彼女に近づいた
彼女は少し驚いているようだった
近づくんじゃねえオーラを半径3キロメートルに撒き散らしているにも
関わらず
僕がおはようなんて笑いかけたりするもんだから
僕は彼女の誇りを守りたいなぁと思っただけだ
下僕になるわけでもなく
ただの女に成り下がらせるわけでもなく
凛として風に髪をなびかせる姿は
どんな絵画にも勝っていた
ねえ君
僕は君に従ってもいいけれど
服従はしないけど
降参もしない
ただ君には騎士が不在だった
姫君には必須な存在だろう
何故か人から好かれることだけが取り柄の僕だけど
だからこそ君の孤独に触れられる
「あの、姫君、ちょっといいでしょうか」
「言ってみなさい」
「君を抱き締めたいんだけど」
「無礼ね」
「僕は不敬なんですよ」
君の髪はジャスミンの香りがした
僕だけの姫君
剣も盾もないけれど
不思議と君を守る自信がある
きっと僕が人に愛されて育ってきたからだろうな
分けてあげる分はいくらでもあるよ
その高貴さゆえに一人で立つしかなかったお姫様を
もう一人にはさせないんだ
抱き締める腕に力を込めても
君はなすがままにされていた
本当はずっとこうやって休みたかったんだよね
僕が君の休息になるよ
「ねえ姫君」
「もうそう呼ばなくていいわ」
「どうしたの急に」
「なんだか突然照れ臭くなってきたのよ」
女の子の顔をしてるよ
そんな表情も隠し持ってたんだね
でも漂う気品は隠しきれやしない
永遠を纏った姫君
僕の腕の中でだけ
女の子に戻ったらいいさ

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