別の人のもの

花嫁を奪いに乗り込んでくるなんて
そんなタイプじゃないのは私が一番わかってた
でも期待してしまう自分がいる
あの扉を開けて私を連れ去ってくれるあなたの姿を
きっと今まででこれ以上ないくらいに
綺麗な私だけでも見て欲しかったな
純白のドレスに身を包んで
ブーケを手にした私は女神様みたいでしょう
周りからは玉の輿だとみんなに羨ましがられる
外務省のエリートがなぜ私を選んだのか
誰もそれを知らないから
正論しか言わないあの人に何も言い返さず
ただ微笑みながら大人しくしてるの
ご飯は炊きたてしか食べないあの人の
帰宅時間に合わせて料理を最低5品は作る
夜求めてきた時も絶対断らない
生理痛でも口でご奉仕する
そんな妻が欲しかったのよね
私を愛したからではなくて
最後に大笑いしたのっていつだろう
あなたといた時はいつだって笑い転げてた
これが愛されるってことなんだと
確信するように抱いてくれた
私は義務として子どもを産んで
子育てなんか手伝わないあの人の分も
全て一人きりでこなすのだろう
うちの家計は苦しかった
親が奨めてくる見合いを断れなかった
あなたのことばかり考えていて
借りてきて猫のように大人しい私を
思い通りになる女としてあの人は気に入ったのだろう
私に拒否権などあるはずもなかった
婚約が決まってあなたの胸で散々泣き喚いた
私をきつく抱き締めながら
愛してる愛してるよとあなたは繰り返した
この人と一緒になると心から誓った相手と
別れなければならないのが運命なら
愛の屍を一生手離すことができないまま
自身も屍のように生きろというのか
繊細極まりないベールをそっと上げて
綺麗だよとあの人は一言言った
心のこもってない台詞
盛大な結婚式場へと
冷たい手でエスコートされた
お飾りの花嫁を演じ切りながら
ちらちら扉の方を覗ってしまう
今にもあのドアが開いて
あなたが飛び込んできてくれるんじゃないかと
そんなわけないのに
そんなことする人じゃないって
悲しいほどわかってるのに
ねえ私、別の人のものになったよ
あなたも早くなってね
新しい彼女をみつけて
その人のものになってね
でないといつまでだって期待してしまう
私を攫いに来てくれるんじゃないかって
たとえ子どもを産んだって
きっとあなたを待ってしまうよ
だから早くあなたも
別の人のものになってね
いつも笑わせてくれてありがとう
私別の人のものになっちゃったよ

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