ハギワラシンジ
僕は初めから虚構していた。どんなときも、どんな場所でも。数えきれないフィクションを生み出し、そこに僕の現身をつくった。僕はそこで歩けるし、何かを為すことができる。僕は潜水していく中で、どんどん小さくなっていく酸素の中にいろんな光景を見る。人々の行動、知らない趣、 木星の記憶。僕に向かって星々が集約すればいいと思っ た。僕は恒に光っていたかった。
短編、掌編を載せます。 幻想小説だったり(恥ずかしい)日常の一場面を切り取ったり、そうではなかったり。 私が見ている景色、感じた情景をみなさんにも共有したくて。
ル・グウィン著「文体の舵を取れ」の練習問題をまとめてます。
エッセイとかそれに近い小説、自分の証明、承認について書きます。
限りないラーメンの記録
私は、まぁ、人よりか、いくらか読書が好きだ。 学生時代は教師に少しは目をかけられるくらいは読んでいた。国語の授業も好きだった。授業で取り扱わない、別ページの小説ばっかり読んでた。よくいるやつだ。 授業中にノートを取りながら、別のノートに小説を書いたりしてた。ちなみに会社ではalt+tabで画面を切り替えながらメモ帳に小説打ち込んだりしている。わるいやつだ。 話がそれた。まあ色々本を読んでいたわけだ。そこそこには。 ただ私はそこに書いてある内容を理解していたとは言えない
私はダリの前でコギトの思考をトレースし、園原とあの男をモニターしていた。しかし途中から虚構の濃度があまりに強くなりすぎてモニターで追うことが出来なくなった。そしてモニターには電子の暗闇が訪れ、私の邪魔をする。どうにか彼らの後のを追おうとし何度舌打ちしたか分からない。しかし無駄だった。私は盛大に舌打ちをする。それが合図だったかのようにモニターがぱっと白く開けた。そこには電子はなかった。デジタルな感じが一切しない。画面から伝わってくるのは家出した子を待つ親のようなほろほろした温
「俺たちここでおわりなんすかねぇ」 そう言った黒星の横を黒いナイフが駆け抜ける。私はぐっと笑う。 「そうかもしれないな」 「だいじょうぶすか」 彼の言葉にあまり元気はない。もうこいつともずいぶん長くやってるが、ここまで元気ないのは珍しい。 「まあな」 私はそう強がる。でもわかる。これが戯言だってこと。私のおなかにはひとつ穴が開いている。ぽっかりと夜が訪れたみたいにひりひりした現実感が、傷口の摩擦熱を通して伝わる。 「やめてくださいよ」 「ないているのか」
君、といってもこの言葉は誰に宛てている訳でもないと言う事を、他でもないこの僕にまず断っておこう。 君は小説を読んだことがあるだろうか。僕はないんだ。嘘。実は一回だけある。それはある日、僕が潜水病になる前の遠い記憶にある。僕の家には本はなかった。本以外にもほとんどなかった。父が僕にそういったものを与えなかったからだ。父は僕に無を与えた。それってアイ・ハヴ・ナッシングってことなんだよね。 僕は園原とおしゃべりしていたんだ。夢のことについて。僕の見る濃い霧のような夢につい
フォガティは家出をすることにした、から始まる小説のようなものを僕は書いたことがある。そしてそれをネットに放流したらどうなるかを眺めていたが、結局情報の海に翻弄されてくたびれただけだった。僕はその船が僕の元に戻ってくる前に削除した。エイミーと相談した結果そうなった。 僕はパーカーと分かれて(ちょっと不本意な形になったが)ホテルに向かった。白装束たちに教えられた通りに道を進めばすぐに見つかった。駅と駅をつなぐ大きな道に沿って、葉脈のように派生している細い道の一本を辿っていく
「もういいぞ」 ぷつんと切られる。 「よくやった」 以遠さんの声が上からする。僕はしばし良く分からない。きょとんとする。 「お前の作り出した虚構でタマクラが満ちた」 以遠さんが満足そうに言う傍らで、黒星さんが「たいしたもんだよ、ほんとうに」と素直に感心している声が聞こえる。「ろくなやつじゃないけど、虚構の精度にかけてはお前はすげえやつだよ」と愛の無い言い方をする。 「私もそう思う」 ちゃんとここで働かないか?と以遠さん。でも僕はいいえと言う。やっぱりここは好きじゃない
フォガティは、フォガティだよと言った。意味が分からない。そして隠し持っていた拳銃で僕を撃つ。風穴が開いた。口からごぽっと血が溢れる。弾丸の摩擦で焦げた肉のにおいが漂う。僕をかばった園原が力なく僕にもたれかかる。 「なぜだかはずしてしまった」 そしてきっきっとフォガティは笑う。声が反響する。僕は園原の身体から力が抜けていくのを一番近いところで感じている。力が無い感じだ。 「それ、もう一発はなつよ」 脈絡の無い麻薬中毒者のような微笑で拳銃を構える。僕は園原を突き飛ば
白い部屋だった。ホワイトホールがあるのだとしたらこんな感じだろう、という白さ。僕はそこにぽつんといる。そして同じようにヘッドホンのようなものがある。シンプルな造りで、丸が二つと放物線が一つ。機能美は、ある。それは認める。認めると、我慢していた吐き気が一気にこみ上げる。のどもとまでせり上がる。このとってつけたような、白いことしか取り柄の無い白さ。 だからこの空間が僕は嫌いなんだ。 「セット完了」 僕はヘッドホンのようなものをつける。これは正確に言えばヘッドホンではな
僕は嘘をつくりだすことを生業としている。職業名はない。よく間違えられるのは小説家だけど、そうじゃない。それはなりたかったけどなれなかった。ただそれだけ。今は違う。案外、自分が必要とされている場所が分かったなら、何もかも放り出してそっちにいってしまうものだ。夢も、それまでの努力も捨ててまでも。 黒星さんたちと会うまでの僕は主に、ふつうに生きていた。ふつうに生きるのも大変だ。苦悩も希望もごっちゃにある。その中で自分がどうしようもなくオールラウンドな存在だと自覚する。月並み月
翌日、僕の身体からはすっかり興奮剤の余韻は抜けていて、すっきりとした気持ちのよい朝を迎えた。ああーっ、とゆるい声を出して背伸びをする。窓からふんわりと朝日が差し込んでいた。いいね! そして透明な壁越しに僕は園原を見た彼女はまだ寝ている。疲れているのだろう。いや、適度に疲れているからぐっすり眠れるのだろう。健康的な疲労から来る睡眠は何よりも変えがたい。僕なんかはすぐにへばって寝るのにも体力使ってしまうからね。 彼女を起こしてしまうのも気が引けたので散歩に出かけることに
何もしなくていい自由と、何かしていい自由がある。僕達はいつもだいたいそこら辺で迷っている。だいたいは決断できない。決めたつもりになってるだけ。その決断は後の決断のための囮にすぎない。でも今僕は紛れも無く前者を勝ち得ている。なぜならこうして誰もいない公園でブランコに座っていられるから。漕がないよ。今はブランコを漕がない自由を選んでいる。 僕の独白は大抵くだらない。意味も無く言葉を語り続けるか、語った言葉を無意味だと感じるか。そしてそのどちらの最後にも自嘲と空しさだけが残る
内臓が砕けそうだ。 痛む腹を押さえ、ぼくは園原の後に続く。 「おなか減ったの?」 「うん」 流石に何か食べないとね、と彼女は言う。 そうだね。 でも今の僕に何かを食べることができるのだろうか。バロバロに多分いくつか内臓を取られてしまった。心臓の時はあまり痛まなかったのに。 「お腹が減りすぎてキリキリするよ」 きっと空腹のせいだ。そうなんだ。お腹が減った。 「あ、あそこに」 園原が嬉しそうに言う。ぼくも嬉しい。でも何があ
それまでにジャン・ジュネの花のノートルダムを読んでいたのはなんとなく覚えている。それで、急にそのページの半分が明るくなって、白い紙に反射した光を眩しく思ったんだ。僕は電車に乗っていた。電車の窓から差し込む光が、僕を思い出させてくれた。見渡すと周りはすごく満員で、立っている人たちはみんな例外なく辛そうだった。 「おい」 と隣で男の人が言う。 「お前本当に大丈夫なんだろうな」 黒星さんは腕を組んで怪訝そうに僕に尋ねる。 「ああ、大丈夫ですよ」
稚拙。。。。排泄。。。。夭折。。。。 この記号郡をぼくは妖艶だと思った。それらは僕らの目の前にあった。目の前に橋があって、そこの手すりの端に何かで彫ったように刻まれている。真鍮製の表面を削ってできたそれは、冷たく傷ついている。園原はそれを解釈しようと首をかしげたり、指でなぞったりしたが、やがて、時間の無駄よとため息を吐いてあきらめた。 「わたるんでしょ?」 橋、と彼女は僕に問いかける。わたってもいいんでしょ、と。僕はうなずく。 僕達は橋を渡った。橋の下では川が
エイミーが発狂したので、川に捨てた。汚い川だった。ごみが溢れていて、彼女は何度もそれらに引っかかった。その度に衣服が削られてエイミーはぼろぼろになった。その時初めて裸のエイミーを見たと思う。のっぺりとしていた。ごみに引っかかって不安だったけど、ちゃんと流れてくれた。戻ろうとしたとき、ポケットから紙くずが落ちた。僕はそれを拾って帰る。 エイミーを捨てた帰り、僕はバスを待ちながら及ばずとも風に転ばされる。夕暮れの景色が辺りを赤く染める。風と戯れながら僕は空を見上げる。 「おにい
破滅に捧ぐ歌を考えよう。 僕は今、橋を渡りながらそんなことを思っている。 ミシシッピ川みたいな脳の毛細血管に、思考を垂れ流しているのだ。うっかり人に聞かれないためにも大事なことはたくさんある。 「あなたがたはそうやって何かをいのることしかできない」僕の国の偉い詩人が言った言葉だ。思い返せばなつかしく感じる。 潜水病に陥りながら、僕は僕に潜る。そして溺死したピアノを弾くんだ。そのために調律しなきゃいけないんだけど、うまくいかない。ああ、フラストレーションが