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エピソード( X-1):「対気」という二個体間Signalingに反応する身体

「対気」という不思議な呼吸法bodyworkは、西野流呼吸法のオリジナルであり、Essenceであると先に述べた(リンク)。
ということは、この不思議な現象の解明は、西欧医学における新規身体理論、新規医療領域として展開する可能性もありうる。

この現象は、身体という「現実の実体」がなければ、感覚し得ないフィールドである。
いわゆる本能というbuilt-in curcuit神経系が作動する。
その発動に呼吸法でアクセスする。
AIによる既存現象解説とは、全く範疇の違う世界である。

では「対気」Bodyworkを行うと、どういう体験(実身体感覚)ができるのか?

私自身の「西野流呼吸法稽古日記」から、身体が反応するまで約三ヶ月の経過記録、を以下に公開する。
順天堂大学呼吸器内科助教授として、一般の方々よりは客観的に呼吸法稽古を眺めてきた。
Built-inとしてだれもが持っている、全身体のつながり(連携感覚)能力を、再獲得(おそらく乳幼児期はそうした身体で生きている)するまでの経緯である。

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西野流呼吸法 稽古開始Note

89年1月8日(第1回)
西野流呼吸法の実際
一元、二元、三元、多元、準備呼吸法、対気に対して、約2時間も練習するという実際。
気により実際に人が飛ぶことを実見した。

89年1月15日(第2回)
最初からの準備呼吸法、ことに経験者グループでは、口を薄く開いて呼気を実行するということの実感。
対気において、呼吸法で向かうという実際を感得したこと。
そして最後の30分間ほどは、automaticな呼吸ができていた。
すなわち呼気が端まで行けば、いきみこむことなく、腹直筋の最下部より吸気の動きが起こり、身体全体が充実し、暖まり、両手が腫脹するほどであったこと。

89年1月22日(第3回)
前回ほど効果があがらなかった。
口を開いての呼気に何らかの意味があるのではないかと気がつく。
腹腔内圧を高くしない。腹部触診時には、口を開けさせる。
また対気で順番を待っている時も、注意をしないと、腹式呼吸が止まり、身体は冷えていく。また身体が硬くなる。
1月21日土曜に、皇居1周。
久しぶりでかなり身体の各部分を硬くしてしまった可能性がある。
1月23日月曜日非常にMyalgiaが強い。
なぜにこうもMyalgiaがひどいのか?理由がわからない。
また週一回2時間のtrainingも大きな効果はあるが、毎日持続した呼吸法trainingが必要だと理解。日常行動中の呼吸法とは何かを考えることにする。

西野流呼吸法
その真髄は彼の著書の最後、「現代における行」に圧縮されている。
彼は実感をもってあの部分を書いている。大したものである。繰り返し読むことにする。

89年1月29日(第4回)
対気の練習で汗が流れるのを実感した。
優れた腹式呼吸者と行うと実際に汗をかく。
西野氏と初めて対気指導を受ける。
少し弾き飛ばされる。
力が入っていて邪魔である事はわかっているが、それをコントロールできない。

89年2月5日(第5回)
家内参加、第一回。本日西野氏留守。
合気道の型のようなことをさせられる。
Y氏に、「呼吸法練習の後、腰が張ったようなになり痛む。これを克服する方法は無いものか」と問う。「最初のうちは仕方がない。せいぜい華輪をやれ」というのが返事。

89年2月12日(第6回)
Y氏の導入。
細かいところがわかりやすい。しつこいぐらい。
本日は土、日合同のせいか人が多く、なんともダメ。
対気において、種々のことを習った。
1)真っ直ぐに相手に向かう事(H氏)
2)足首、腰を前にだすこと。
丹田を前に出したところで、手がゆっくりと押していく感じを得ること。
3)呼吸法が下手なやつと対気をやっても、身体が冷えるのみで自分が暖まらない。

現在、約1ヶ月半、何を理解し、どの方向へ進んで行くのか?

①まず最初の3~6ヶ月は:
1)丹田を作ることを考える。
最初の40分~60分指導を受けていることはいかに丹田を鍛えるか、いかに丹田を練って作り上げるかということである。
特に口を少し開けて呼吸を行う方法をとって後、丹田の実感は大きく変わった。
とにかく最初の3ヶ月はこの呼吸法に習熟する。
2)それと同時に腰の弱さを感じる。
腰が痛くなるのだから情けない。
丹田が張れば張るだけ腰部は伸びる。この腰の伸びをリラックスする方法は無いのか?
毎週この部分が痛くてしかたない。
これもいつか慣れるものかもしれない。あるいはリラックス法があるのかもしれない。

②とにかく奥には奥、上には上があるという感である。
自己呼吸法、練習のスケジュール。

89年2月19日(第7回)
西野流呼吸法
Y氏の指導
・西野流では手が重要
・いかに身体を柔らかくする
・腹式呼吸をすれば誰でも身体の中を気が巡る
大切なのはそれをどう出すかということである

すなわち西野流は、気をいかに発露するかにポイントがある。
・そのために気を体内に流す、充実させる。丹田、足芯呼吸。
・カラダを緩める技術を身につける。
・対気において、この2点より、気をいかに発露するか。

S氏の指導
身体が正対していない。対気は真っ直ぐ
・身体を柔らかく。肩に力が入ると、そこで気の湧出が止まったり、量が減ると。
・呼吸法、丹田からの呼気:
ゆっくりのみではなく、早く強い目に一気に押し出す、そうした呼吸の練習も必要。

89年2月26日(第8回)
西野流呼吸法
稽古開始2か月経過

「気」はなおほど遠いが:
1)腹式呼吸はかなり進んだ。
というよりは、呼吸法として組込まれているものが、いかに丹田の開発に適した動作工夫であるのかがわかってきた。
以前座禅をやっていたとき、達していた呼吸法レベルは、もうすでにはるかに超えている。

2)西野流の教程と、実際に身体がマスターする時間を考えると、本年はまずこの西野流腹式呼吸法のマスターのみで可とすべきであるだろう。
力を抜けといってみても、丹田が充実していなくては力の抜きようがない。
すべての基礎は丹田を作ることにある。

3)昨日対気を指導した人に、
丹田から飛び出したボールがだんだんと大きくなり、スピードがついて相手に達するというイメージを持つという指導があった。
丹田をどう作るかが大きく問題となるところである。

4)月曜日は毎週、肉体疲労で非常に辛い。
頭の回転も鈍い。日常生活にも影響がある。
しかしこの中で続けていくべきだろう。それが修行でもある。

89年 3月5日(第9回)
足に気を落とすという事:対気の途中で吹っ飛ばない。足が動いてしまう。倒れる時もどたっと倒れてしまう。
気持ちを低くすることの工夫を、日常生活の中で行うこと。

89年3月12日(第10回)
風邪をひいたせいか、気持ちに張りがない。
あまり得ることのない一日となった。なお力が入っていること、背骨が伸びていないという指摘を受ける。
しかしこの後、腰を伸ばす工夫とともに、日常生活の中でも丹田を中心とする呼吸をどう持続するか?
毎朝電車の中での通勤時間など。

89年3月18日(第11回)
土曜14時初めて全く違った人々がやっていて印象が新たになる。
1週間、日常の場で工夫をしたせいか?また腰が伸びるという実感を持ったせいか?
またはじめに上級者との対気をしたせいか?
実感としてもかなり充実していた。
西野氏に初めて「かなりできるようになりましたな」と言われた。
実際少しは飛ばされた。

上級者との対気の中で
1)気を出す方向性についてのsuggestion。
2)丹田を一定の方向に保っての対気への工夫。
鏡を使っての1人稽古もいいかもしれない。

身体がまだ、自分感覚では、できたとは思えない。
丹田が常に充実してはいない。
この一定感のなさが、毎日のconstantのなさを来しているようである。
毎週毎週の単位で見ると間違いなく進んでいるが、この身体のconstantを手に入れるまでにはどのくらい時間が必要なのか?

呼吸法を始めて3ヶ月経過。独自に毎日の工夫を行う必要がある。

89年3月25日(第12回)
初めてS氏に飛ばされた。
尻もちのまま、後の方まで滑っていくという飛ばされ方であった。
(指導員を変えて)4回飛ばされた。

この間、不思議な経験をした。
準備運動は手の充実までできたとは思わなかった。
しかし対気の列で1人の男と対気動作をやっていると、その男は手をこねくると回すようにして付けてくる。
その後しばらくしてS氏の順を待ってる間に両手が握れないほど充血し、気を感じられるようになった。
こうしてS氏に対した時点で、後方へ滑るように飛ばされることが起こった。

S氏は「うまく力が抜けるようになりましたね」と言っていた。
また終わった後、「接触するかなり前から飛んだのだから、相当なものだ。今の段階でも何人かの人は飛ばせるだろう。もう少し努力をすればやがて鉄壁の腕になりますよ」と言っていた。

89年3月29日
ここ3週は毎日臍下の充実はある。
隔日に帯を締め、帯をしない日も臍下が充実するように努力している。
(追記:東大スト中、三島龍澤寺にいた。大学に戻っての工夫として雲納帯をズボンの下に締めていた。それが不要になった。)
3月29日、順大で退官教授の話を聞きながら、臍下を中心にした呼吸を意識していた。
そのうち足芯呼吸をしていると、村木氏の本にある通り足芯がジンジンするという感覚を経験できた。
足芯呼吸というものの実態やはり、丹田の腹式呼吸が出来なければ可能にならないのではないか。

89年3月30日
呼吸、呼吸とばかり気を使っても、「全体の気、あるいは身体から力を抜く」などの工夫はどんな場所でも多元充足を知り、工夫する必要があるのではないか。
「自分の身体を知るのは楽しい」という工夫をいろいろの場で。
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非常にスリリングな3ヶ月の記録である。よく記録を残しておいた。

「対気」におけるシグナルに反応するまでの時間には、個体差が大きい。
私の場合、3ヶ月であったが、仙台で数百人と稽古をして、1~2ヶ月というのが標準か。

若い学生(東北大学医学部学生など20歳前後)は30%前後が、最初から反応する印象がある。
しかし反応が遅れる人は、1年をこえて時間がかかる場合がある。

またスポーツでは「身体軸」を重視する種目、日本の武道、水泳、あるいは野球、バスケットボール等などでは、「対気」シグナルへの反応が早い。

それに対して、あまり身体軸が稽古として取り上げられないラグビー、あるいは現在の世界柔道などでは、どうも時間がかかるようである。

「対気」という現象に提起される疑問には以下のものがある:
1)二個体間には何のコミュニケーションがなされているのか?
現在の医学生理学では、筋力という実際に測定可能な力で相手を押すことは説明がつく。
しかし西野流呼吸法「対気」、あるいは太極拳「推手」などが、相手の身体反応を惹起する仕組みは説明できない。その身体内の構造は何なのか?

2)二個体間のシグナルは何が媒介しているのか?
なぜ手の甲でのSensingか?
バイブレーション?皮膚などの二次元平面方向のメカニカルなひずみ?
さらにはそのシグナルが体の中をどう伝わり脳(おそらくSubcortical脳)に達するのか?

3)Signalに反応するまで稽古初心者はなぜ時間がかかるのか?
その個体内では、身体の何が変化するのか?
私の日記にあるように指導側は基本的に同じSignalを送っている。
しかし受け手の身体は反応しない。
しかし一度Signalに身体が反応すると、別の指導員との二個体間でも反応する。

西野先生は時々「フランス語がわからない人にフランス語を喋っても理解されない。それと同じ」とおっしゃっていた。

4)その反応する身体は、なぜ全身的な反応を惹起するのか?
全く不思議な、随意運動の範疇にはない、全身に及ぶ身体反応である。
身体のどの筋肉群に指令が届くと、こうした全身反応になるのか?

5)身体反応と同時に、他のスポーツ等では得られない爽快感があるのはなぜか?
ただ飛ばされるという身体現象のみでない。
同時に自分の身体反応に驚く感覚。
それはどちらかといえば爽快感である。
おそらくSubcorticalな連携が関与か。

この特異感覚を実体験できるのが、「対気」などの二個体間Signalingシステムである。
日常生活では経験できない、Wildな感覚Refresh感覚が得られる。
それが西野流呼吸法を続ける大きな魅力である。


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