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サービスデザインの現場を体験する。多摩美術大学で開催した1dayワークショップ

みなさん、こんにちは🙋‍♀️
DeNAデザイン本部です。

以前より産学協同研究や社会人講座などを通じて関係を深めてきた、多摩美術大学とDeNAデザイン本部。今年5月、情報デザイン学科 情報デザインコース メディアデザイン領域の講師・清水淳子先生が担当されている3年次のゼミ生を対象に「1dayワークショップ」を実施。30名以上の学生に参加いただきました。

本ワークショップは、清水先生のゼミ出身で2022年にDeNAへ新卒入社したデザイン本部のラタン・トゥクの提案により開催が決定。デザイン本部エクスぺリエンス戦略室の小原大貴がカリキュラム監修と講師を務め、トゥクを含めたデザイナー4名がメンターとして参加、3時間に渡る授業を行いました。

今回は清水先生、小原、トゥクの3名に、発案から当日の講義内容、終了後のエピソードまで、大学講師、ベテラン・新人デザイナーそれぞれの立場から語ってもらいました。特に学生への視点が三者三様で、とても興味深い内容となっております。現役美大生の方も必読です!


母校の後輩たちに何かを還元したい、という想い

――今回のワークショップが開催されることになったのは、トゥクさんの発案によるものだと聞きました。

小原:僕が多摩美術大学(以下、多摩美)で開催されている社会人講座(TLC)の特別講師を務めた話をSlackのtimesに書いたら、それを見たトゥクさんから「学部の方でも何かやって欲しい」という声をもらったんです。

――トゥクさんは、なぜそのような提案をしたのですか?

トゥク:学生時代に受けた産学共同研究の講義で、UIデザイナーの方に実際のデザイン現場のお話を聞く機会があって、ものすごく鮮烈な印象を受けたんです。

今サービスデザインの現場で働いている自分も後輩たちに何かを還元できるのでは、と考えていたところだったので、「情報デザインコースでもぜひ授業をやってください!」と小原さんに言ってみたら、割とすんなりOKをもらえて(笑)。すぐに恩師の清水先生に連絡しました。

ワークショップ発案者のトゥク(左)、カリキュラム監修と講師担当の小原(右)

――トゥクさんからの提案を受け、清水先生はどのように感じられましたか?

清水:私が担当しているメディアデザイン領域は主に3年生向けのゼミで、「メディアを横断し、新しい伝え方を発明する」というスローガンを掲げて、多様な手法を用いながら、まだ社会の中に存在してないような実験的なデザインを開発するクラスなんです。

ただ、すごく実験的である一方で、現在の社会の中ではどういうやり方がスタンダードなのか、というポイントについて学ぶ機会が少ないのが悩みどころでした。新しいことが好きな学生が集まってはいますが、守破離で言うところの”守”の部分、型を身につける時間が不足していたんですよね。

そんなタイミングでトゥクさんから連絡があって。今まさに現場で実践されているプロセスや型について、学生に伝えていただけるのはありがたいことだなと思い、お願いすることにしました。

情報デザイン学科の清水淳子 講師
(議論を可視化するグラフィックレコーディングの研究も行っている)

――学生のみなさんは、このワークショップにどのような期待をされていましたか?

清水:学生が具体的にどんな期待をしてるかまでは聞いていませんでしたが、学生との雑談の中で感じたのは「社会に出ることに自信を持つことができない学生が多いんだな」ということでした。

3年生になったものの「そもそも自分は社会に出ることができるのだろうか…」「UI/UX分野の求人はたくさんあるけど、今から興味を持ったところで間に合うの?」といったふうに。

そういったことから、就活が本格的に始まる前に、授業の中でサービスデザインの現場を体験することで、自分のUI/UX分野への適性の有無をジャッジできるんじゃないか、と期待している学生は少なくないようでした。

前半のポイントは”言語化”と”共有”

――では、ワークショップの概要についてお聞かせください。

小原:今回は「大事な人とのつながりを感じられる」をテーマにサービスを企画、最終アウトプットとしてスマホアプリのUIプロトタイプを作成する、という流れにしました。

前半ではブレストというか、さまざまな視点からものごとを考えたり、抽象度を上げたりする作業。後半は手を動かして企画を具体化していく作業、と大きく2つのパートに分けています。

まずは6つのグループに分かれ、前半は大事な人とのつながりプラス「ゲイン・ペイン・問い・ソリューション」の4つのお題について各自アイデアを考案して付箋に記入。お題ごとに1人1分の持ち時間でグループ内で発表をする、というワークショップを行いました。

後半からは個人プレーです。手始めに自分でまとめたサービス企画について、ユーザーがそのサービスを利用しているシーンを4コママンガ化。その後、ストーリーボードにアプリのUIを描き出します。これが最終的なアウトプットです。最後は各グループから1名ずつ選出し、全員の前で発表してもらいました。

――前半の付箋を使ってアイデア出しをする、というのはポピュラーな手法なのですか?

小原:サービスデザインの現場では伝統的なやり方だと思います。DeNAでも企画を練り上げる段階でよく使います。

思い付いたアイデアを付箋に一言でまとめて、ボードに貼っていくんです。プロセスを簡易的にまとめて整理する上でも便利ですし、このアイデアはここじゃなくてこっち、みたいな感じで貼り替え移動もすぐできるし。

――これは守破離の”守”に当たる部分かと思うのですが、学生さんたちはすんなりとクリアできていましたか?

トゥク:メンターとして見ていた立場から言うと、アイデアを出して付箋に短くまとめる作業が、というより、その書き出す言葉の抽象度に戸惑ってる学生が多かった印象です。

例えば今の私だと「つながり」っていう単語だけをそのまま付箋に書けるんですけど、学生だと「え、つながりだけで書いていいの?」みたいな感じ。どこまでの抽象度が許されるのか、不安があったみたいです。

小原: 3年生向けなので少し難易度上げたのだけど、難しかったかな(笑)。でも、この言語化しながら進めていく作業は「1人じゃできないものを作る」っていうところが重要なポイントなんです。個人のアイデアをみんなで共有することで、自分とは違う方向性や視点を得られるし、そこから可能性が広がることもある。

清水:実はここが、私が今一番、多摩美生に体験して欲しかったプロセスでした。私のゼミでは個人作業が多く、共同作業に慣れていない学生が少なくないんです。普段の課題では、何を作るか1人で考え、手が動くところからスタートできるので、こういった段階を他者と共有する時間はいつもスキップしてるんですよね。

例えば人にはどんな痛みがあって何に共感するか、普段から考えているはずなのですが、1人で制作していると、わざわざ口に出して人に伝える必要がないので、そこに戸惑ったのではないかと。

特に、いつもはすぐ手が動いて、直感的にデザインできてしまうタイプの学生ほど苦しんでいた印象があります。「なぜ自分で分かっていることを、改めて言語化して共有しなきゃいけないのか?」、そこに息苦しさを感じたんでしょうね…個人差はありますが。

丁寧にプロセスを追うことで生じた「化学反応」

――後半は実際に手を動かす作業ですが、まずはユーザーがサービスを利用しているシーンを4コママンガにしたのですね。これも現場ではよくやられる手法なのでしょうか?

小原:はい。4コマに限らず6コマとかの場合もあるんですが、ストーリーにしてサービスを語るというのはよくやります。今回は5分で作成してもらいました。

――ストーリーを考えて絵も描いて、の5分ですよね?かなり短いなと思ったのですが…。

小原:前段の部分でアイデアを練る時間は設けていたし、美大生の画力に期待していたのもあります(笑)。あまりいろいろとこねくり回すと迷っちゃうんで、5分ぐらいで制限をかけた方がサクッと描けたりするんです。一番大事なものだけを引っ張り出してもらおう、という意図もありました。

――その後は、最終アウトプットとしてペーパープロトタイプにアプリのUIを描き出す作業です。こちらも制限時間10分と短いですね。

小原:もちろん行き詰まっていた学生もいましたけど、大多数はクリアして自分のアイデアを表現できていました。

トゥク:学生への配布資料にUI作成でよく使われるアプリやパーツを紹介していたので、個人ワークに入ったらみなさんすぐにアプリを開いて「あ、さっき説明されたパーツってこれか」といった感じで、観察してすぐにアウトプットに落とし込んでましたね。

小原:うん。企画段階では苦しさが感じられたけど、実際に形にするフェーズに入ってからは、みんな水を得た魚のようにやれていたような記憶がある。

清水:私が関わっている1〜2年生の授業では、個人の表現力や発信力を伸ばすために、自分の好きな素振りとかフォームで考えていいよって教えるので、個人作業のフェーズが楽しいっていうのは確かなんです。そういう、自分のやり方を知っている学生は多いですね。

――アウトプットされた作品についての印象はいかがでしょうか?

小原:「大切な人とのつながり」というテーマに対して、エッジの立った企画が多かったですね。社会人に同じテーマを課すと、家族や恋人、友達を対象とするケースが多いのですが、多摩美生は亡くなった祖母とのつながりとか、とあるラーメン店のファン同士のつながりとか。発想がユニークだな、と。

トゥク:喧嘩したときに仲直りするためのアプリや、自分が死んだら周囲に伝えてくれるアプリ、なんてのもありました。新しいSNSの形を模索するような挑戦的なものも。

私はデザイナーになって2年目ですが、アイデアをアウトプットする際に「これはビジネスとして成り立つのか」というところをどうしても意識してしまうんです。でも、このワークショップで学生が出すアイデアの自由さに、自分も学生時代はそうだったなと思い出したし、そこに刺激も受けました。

清水:今回、サービスデザイナーを目指す学生はもちろん、違う道を志す学生や作家タイプの学生まで、想定数以上の学生がこのワークショップに参加してくれたんです。その中には、いつもだったら作品制作の過程を他人にシェアしないタイプの学生もいました。

なので、チームで丁寧にプロセスを追いながら言語を共有していくことで「こんなアイデアが出てくるんだ!」と驚きましたし、うまく化学反応したのが分かって嬉しかったです。

学生たちが自分の目指す方向を考えるいい機会になった

――ワークショップを終えて、清水先生の率直な感想をお聞かせください。

清水:まず「お願いしてよかった!」という想いです。私のゼミは実験的に表現を追求する場なので、自分のやり方を持っている学生は多いのですが、チームで動くときのスタンダードなフォーマットというか、「自分の個性を追求したファッションではなく、企業の中でのドレスコードを守った上で表現する」という点においては初体験の学生がほとんどだったと思うんです。

そういったギャップを知ってもらった上で「自分には合わないな」「今までのやり方を貫いてアーティストになろう」と感じた人もいるし、「自分は意外と順応できたな」「こういう方向も向いているかも」などの発見があったケースや、サービスデザイナーを目指していた学生は「これでいいんだ」と確信を持てたり。

個々人で違いはあるのですが、自分のやり方と社会でのやり方の差分が見えた時間になったのではないかな、と。

――終了後、目に見えて変化が感じられた学生さんはいましたか?

清水:ここは教育の難しいところでもあるのですが、ワークショップ終了後にDeNAのみなさんを捕まえて質問攻めにしてる学生もいて、UI/UX方面に舵を切ったんだなって感じられる学生がいる一方で、この分野に対して戸惑いを感じる学生も見受けられました。その他の多数の学生はいつも通りで、まだ特別な変化は分かりません。

1つの授業の実施で、学生の適性や進む方向に大きな影響が生まれることは多くはありません。ただ、私自身もそうだったのですが、卒業後、何年か経ってから、または転職を経て、サービスデザイナーに転身する人もいるんですよね。今回の経験と何かが結びついて、どこかのタイミングで光が差す可能性は必ずあるはずです。長い目で見て期待しています。

――DeNAのお二人はどんな感想を持ちましたか?

トゥク:私はメンターとして2テーブルを担当したのですが、ワークショップ前半での学生の息苦しさに共感できたというか…。行き詰まっちゃうと、もう全然動けないみたいな状況で(笑)。そういう学生と話をすると、考えてることはめちゃめちゃあるんです。でもそれをどう分解して思考を可視化していくのか、そこが苦手なんだな、というのが分かりました。

「物語ベースで話してみて」ってアドバイスすると、語ることはできるんです。表現のための言語が、学生と社会人とでは全然違うんだな、と。過去を振り返ると、自分もそうだったかもしれないなあ。

小原:なるほど。最初の方は各グループのサポートをメンターに任せていたので、僕は全体を見るようにしてたのですが、確かに止まってる子はいました。でも、トゥクさんから今それを聞いて、うまくメンターがサポートしてあげることの重要性を実感しました。そういえば、終了後に学生に連れられてどっか行ってたよね?

トゥク:数人の学生の相談に乗っていて、その後、一緒に焼肉を食べに行きました(笑)。そこでもいろいろと話をしたのですが、話題の中心はポートフォリオのことでした。学科では本当に多種多様な課題が出されるのですが、テーマは決まっているものの、作る手段は決まってないんですよね。そこを定義してポートフォリオをうまくまとめるのが難しい、と言ってました。

清水:なるほど…。自分の学生時代を思い起こすと、大学って自分の将来を素敵に保障してくれる場所だと思っていた時期が私にもありました。でも、卒業後に感じたのは、大学で学ぶということは効率的に就職するためのハウツーを学ぶ場所ではなく、長い時間かけて学問領域を広げていくスキルとか、新しい実験的なことを探求する力を養うなど、そういったことに最も大きな価値がある場所なんですね。

なので、就活も人生の中で学生が目指す道の1つでしかなくて、研究に向かう人もいれば、作家や起業を志す人もいる。そういった環境の中で、自分が行きたい場所をしっかり定めて設計していくことをやらないと、授業で広がったさまざまな知見や感覚を持て余してしまい道に迷うだろうな、というのは感じています。

今回のワークショップは、学生たちが自分の方向性を考える本当にいい機会になったんじゃないかな。焼肉屋さんでフォローアップしていただいた学生はごく一部だと思いますが、そこでかなり刺激をもらったと思います。トゥクさんから聞いた話もみんなで共有するだろうし。コロナ禍で社会人と触れ合う機会も激減していたと思うので、とてもありがたいです。

次回の開催に向けて

――多摩美での講義は今後も予定されているのですか?

小原:はい。次回は1年生向けに開催する予定です。今回はメンターの重要性を痛感したので、次回は参加人数に合ったメンターを用意したいですね。上手にラポール形成を築いたり、学生の疑問点に対応したりするためには、1グループ1人は必要かな、と考えています。

――トゥクさんもまたメンターとして参加されるのでしょうか?

トゥク:その予定です。私は、今回のワークショップを踏まえて次回というより、今後自分が学生と関わる中で盛り込みたいな、と考えていることがあって。学生たちが手を動かし始めてからすごく生き生きし始めたのを見て、UIでいうところの「世界観を入れていく」プロセスが、多分みんなが一番輝くところなのだろうな、と感じたんです。

今回は時間の都合上、企画に軸足を置かざるを得なかったのですが、今後はそういう段階まで教えられるような機会があるといいな、と思っています。

――清水先生はご自身のゼミで、今後もDeNAとのコラボレーションをお考えですか?

清水:ぜひまたお願いしたいと思っています!

ただ、今回のワークショップを通して実感したことがあるんです。私も学生の頃にそうだったのですが、自分の考えをみんなで共有することのメリットについて、学生がまだあまり納得できてないというか、「なぜ自分で直感的に分かってることを、制作を中断してわざわざ言葉にしたり、付箋に書き出して貼らなきゃいけないのか?」と思ってる学生が少なくないようで…。

というのも、今回DeNAのみなさんのデザインプロセスを見ていて感じたのが、言葉のチョイスや文字の書き方から付箋の張り方まできちんとデザインされていて、全てがチームのための動きになってるんだなあ、ということでした。でも初めて見る学生たちには「付箋を貼っている」という単純な動作にしか捉えられなかったようなんですね。

一見、普通の文房具を普通に使ってるだけに見えて、1つ1つがハイクオリティなプロダクトをスピーディーに作っていくための所作、つまり話し合いのためのインターフェイスをリアルタイムで生成している現場なんだよ、とかなり意識的に伝える必要性を感じました。

ですので、もしできるならでいいのですが、一度「DeNAスペシャルチーム」にお越しいただいて学生と同じ課題に取り組んでいただき、「短時間でこんな面白いものができるんだ!」「ツールを使いこなせば動くプロトタイプまでできちゃうんだ!」という感じでスーパープレイを見せつけてもらえると嬉しいです(笑)。

小原:それ、大人気ないやつじゃないですか…でも発想としては面白いですね(笑)。

清水:みなさんには多少プレッシャーがかかると思いますが、一瞬でもいいんで(笑)。お願いします!

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