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【連載:地域交通のカタチ】若い人にとって、タクシー乗務員が魅力ある仕事になるように 〜沖東交通グループ東江一成氏 & 電脳交通 近藤洋祐〜

電脳交通は地域交通の維持・存続を目指し創業から7年以上経過、今年の4月に通算3度めとなる資金調達を実施し、多くの企業と資本業務提携を締結しました。

わたしたちが向き合う地域交通を含めた地域経済全体やタクシー業界の課題と将来性などを株主の方々や提携企業の皆様はどう捉えているのか?弊社代表取締役社長・近藤洋祐との連載対談を通じて浮き彫りにする連載【地域交通のカタチ】

第6回は沖東交通グループ代表理事の東江一成氏(あがりえ・かずなり)をお迎えしました。コロナ禍が収まり再び多くのインバウンドが訪れるようになった沖縄の現状をお聞きするとともに、急速に議論が進むライドシェアなどについて議論を深めました。タクシーの供給不足対策として沖東交通が始めた各種の取り組みの背景にある、経営者としての思いについても伺いました。


供給不足をアプリ連携で対応

電脳交通 近藤(以下、近藤):ライドシェア解禁や、その前提としてのタクシー供給不足が話題に上ることが増えてきました。沖縄県内でもこうした議論がされているのでしょうか。

沖東交通 東江氏(以下、東江氏):コロナ禍中の約3年半で、ある程度年齢の高かった乗務員が退職しました。これがほとんど戻ってきておらず、どうしても稼働率が落ちて観光客や県民の皆さんに非常に迷惑をかけている状況が今続いています。

近藤:国内有数の観光地域である沖縄でのインバウンドの戻り具合はいかがでしょうか。岸田文雄首相が那覇市内の会見でオーバーツーリズム対策のお話をされていました。世間でもオーバーツーリズムも問題視されるようになっていますが、タクシー事業を運営されている方としてどう感じていらっしゃいますか。

東江氏:沖縄は元々、台湾系のインバウンドが多かったんですが、これは戻ってきている状況です。ただ、台湾の運転免許証を持っている方は条件を満たせば日本でも車を運転できますので、多くのインバウンド客が沖縄でもレンタカーを借りて観光するケースが多いです。なので、台湾からのインバウンドの増加はタクシーの供給不足にそこまで影響を与えていないと思います。

ただ、全体として配車できない状況があります。沖縄県のタクシー協会としては、県内のタクシー会社で連携して大きなアプリを作ろうという形で今動いています。自社運営になりますから手数料も抑えられますし、県や国の方にも予算要求しているところです。

観光客の利用も多いため、ドライバー向けの観光研修も実施している
画像:沖東交通グループ公式Xより

業界を挙げて、沖縄県民の満足度を高めたい

近藤:宮古島や石垣島のタクシー会社経営者の方と電話をさせて頂いた際に、皆さん運転されていることが多くなっています。離島は規模の小さい会社が多いので、経営者自身が運転する必要に迫られていると。そういう状況の中で、タクシーの供給不足に対する意識が業界からも高まりやすくなっているのではないかと考えています。

そのような状況下で、御社は様々な施策を進めています。6月から、沖東交通としてタクシーが手配できない案件を、提携する個人タクシーにつなげる取り組みを始めました。加えてグループの自社整備工場を個人タクシーでも利用できるようにするなど、供給不足の解消に向けて様々な努力を重ねています。一見すると自社の利益になりにくい可能性もありますが、そこまでして取り組まれる背景にはどんなお考えがあるのでしょうか。

東江氏:一番はやはり、うちのお客様に対して現在ご迷惑をおかけしていますから、それをなんとか挽回していきたいという思いですね。また、若い乗務員がステップアップしていきながら、将来的に個人タクシーを開業しても安心して仕事ができるという展望も見せてあげたいという側面もあります。現在いる職員に対して将来に夢のある形を見せてあげることで、タクシー乗務員ってあながち悪い仕事じゃないよね、というふうに思って頂きたいと考えています。

ライドシェアについては、やるからにはある程度タクシーと同じ土俵でやってもらうことが一番の前提ですね。自家用車の自賠責保険とか任意保険と比べると、タクシーはその2倍から3倍の費用を払っています。それだけ事故を起こした際のリスクに対して万全の手当てをしているという意味ですから、ライドシェアが社会実装される際には安全性も含めた運行管理を誰が担うのかという点も欠かせません。

こうした議論が尽くされていない状況で日本でもライドシェアが解禁されれば、想定している課題だけでなく想定外の課題も生じて再規制論が盛り上がるような気がしています。海外で発生しているような事件や事故が起きれば、やはりそのリスクについて誰が責任を負うのかという話になりますからね。

近藤:ライドシェアの仕組みを悪用される危険性は確かにありますね。例えば、ライドシェアを利用する一家が自宅から空港に行くタイミングとか、ドライバーが不在を知ってしまうので、悪意を持ってその情報を使えば空き巣に入れてしまいます。

日本人も海外で起きている車内の犯罪行為についてSNSやニュースなどで広く知られるようになっていますが、おそらく車内だけじゃなく関連する犯罪が増加する可能性は低くないと思います。

利便性の高いサービスは世間から非常に求められていますが、ひとたび何か事件が起これば、そのリスクや損失について責任論や再規制論が盛り上がるのは目に見えています。現在の法人タクシー会社が、タクシー業界に関して導入している様々な管理手法を生かす形で、ライドシェアにも一定の品質コントロールシステムを残した方が良いのではないかと考えています。

沖縄県ハイヤー・タクシー協会長として、県内全体の交通サービス最適化に向けて取り組んでいる

若者にとってタクシー乗務員を魅力ある仕事に

近藤:タクシー業界は小規模事業者が多いですが、単純なライバル関係というよりは、みんなで連携してタクシー業界としてお客様と向き合う機運が高まっている気がしています。特に沖縄ではどういう状況でしょうか。

東江氏:沖縄に関して言えば、まさにその通りだと思います。これだけ小さい島ですから一つにまとまらないと東京や大阪の資本の大きな会社には対抗できませんし、自己防衛のためにもやっぱり協力してしっかりやっていかないといけないという状況ですね。

近藤:県内最大の事業者として、いま課題と感じていることはなんでしょうか。

東江氏:やっぱり乗務員不足をどれだけ解消できるか、に尽きますね。保有台数をフル稼働させるために、先ほどお話したように若い人たちにタクシー乗務員の魅力を少しでもわかってもらいたいと考えています。そこでSNSを駆使したり自社で漫画を作ったりして、あの手この手でアピールをしています。

そうした取り組みの効果が出ているのか、コロナ禍では何百名という乗務員が退職したんですけど、直近の7月の乗務員の平均年齢はコロナ前と比べて8歳ほど若返りました。20~40歳代の乗務員がどんどん入ってきており、2018~19年並みの総乗務員数にはまだまだ戻りませんけど大幅に若返りが進んでいます。

また、極端に増えているわけではないですが、女性乗務員も増加傾向にあります。彼女たちの乗務環境を整えるため、4~5年ほど前には保育園も作りました。子育て世代が働きやすい環境作りをしたいという思いから始めて、今では40名ぐらいのお子さんを預かっています。

事業者が稼ぎやすくなる環境作りを

近藤:今年4月の資金調達時にご出資いただく前から、御社には電脳交通の配車システムを導入して頂いています。

東江氏:我々もちょうど社内システムの更新時期に来ていた頃に電脳交通のことを知りました。取り急ぎ提案書を頂いた中で、タブレット型の配車システムがよくできていたので電脳交通を採用することにしました。いろいろと模索しているときに、出会いがあったということですね。

創業間もないスタートアップということで多少の心配はありましたが、若いスタッフが多くバージョンアップも素早くできるだろうという期待がありました。タブレット型の配車システムはバージョンアップを容易にできるし、機能変更も割と簡単にできると聞いていましたので。

導入してしばらくたちますが、平均点には達していますけど、まだまだ課題がありますね(笑 まだまだ発展途上ということで、時代の流れとともに要望もどんどん増えていくと思うので、近藤さんたちにはがんばって頂きたいなと(笑)

近藤:ご期待頂きありがとうございます(笑)
システムを導入頂いたときからずっと、「もっとここはこうした方がいい」というようなご意見を頂いています。それが都度生かされてシステムが改善されてきたという経緯があり、そういう関係の中で株主になって頂きたいと考えていました。出資を頂いたことで、そういう距離がまた近くなったというとこもありますが、最初からユーザー目線でシステムの課題を指摘して頂いたのは本当にありがたかったです。直接的にシステムの改良に繋がりますので。

出資については、おそらく去年の今ごろ位にご相談させて頂きました。ちょうどコロナ禍がまだ残っている状況でしたね。私自身も家業のタクシー会社経営しているので、他社に出資をするなんていうお金を用意するのがとても難しい判断だというのはわかっていましたが、これまで述べてきたような理由からどうしても我々ともっと近い位置で経営に関わって頂きたく、出資をお願いした経緯があります。先ほども改善に向けたお言葉を頂きましたが、そのほかに電脳交通に期待して頂いている点はありますでしょうか。

東江氏:今は配車アプリケーションだけですが、今やいろんなプラットフォーマーが進出してきて我々のような事業者が少しでもコストダウンして収益性を高める必要がある中で、利益確保を促すためのシステムを作り上げて貢献していってほしいですね。事業者が稼ぎやすくなるような環境作りをしっかりやっていってもらいたいなと思っています。

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最後までお読み頂きありがとうございました。
引き続き本連載では各界のキーパーソンとの対談を軸に、未来の地域交通のカタチについて取り上げてまいります。
次回の記事も楽しみにお待ち下さい。

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