見出し画像

【連載:地域交通のカタチ】移動はなくならない、未来の事業モデルを想像してチャレンジする 〜三和交通 吉川永一氏 & 電脳交通 近藤洋祐

電脳交通は地域交通の維持・存続を目指し創業から7年以上経過、今年の4月に通算3度めとなる資金調達を実施し、多くの企業と資本業務提携を締結しました。

わたしたちが向き合う地域交通を含めた地域経済全体やタクシー業界の課題と将来性などを株主の方々や提携企業の皆様はどう捉えているのか?弊社代表取締役社長・近藤洋祐との連載対談を通じて浮き彫りにする連載【地域交通のカタチ】

第4回は神奈川・東京・埼玉でタクシー事業を展開する三和交通社長の吉川永一(よしかわ・ながいち)氏をお迎えしました。TikTokをはじめとするSNS活用でメディアにも度々注目されるなど、ユニークな取り組みを生み出し、4月には電脳交通へ出資した吉川氏とともに、都市部と地方のタクシー会社の相違点や、電脳交通への出資に至る背景、そしてタクシー業界の未来などを語り合いました。


厳しい環境が生む合理性

電脳交通 近藤(以下、近藤):御社の地盤である神奈川や東京、埼玉は、地方のタクシー会社から見ると羨ましい営業地域なのではないでしょうか。

三和交通 吉川氏(以下、吉川氏):私は結構な心配性で、逆に「5年後、10年後にうちの会社は存在しないんじゃないか」と常に思っています。性格的には怠け者だと思うんですけど、「船の底に穴が開いて水が入ってきている」みたいな感覚に突き動かされています。グループとしてタクシー以外にも教習所やゴルフ場とか、普通に考えると成長が見込みにくい業界ばかり抱えているので気になってしまうんでしょうね。

近藤:私は地元・徳島で家業のタクシー会社を継ぎ、そこから電脳交通を創業しました。
一口に「タクシー会社の経営者」と言っても、地域や事業規模によって見ている景色が全く違います。実際に電脳交通のサービスを導入して頂いている会社でも、各経営者の目線が全然違うと感じています。吉川さんの目から地方のタクシー会社はどう見えますか。

吉川氏:地方のタクシー会社は行政と密接にやり取りするなど、地域の多様なステークホルダーと連携しているのが印象的でした。近藤さんと知り合う 前は「厳しい状況でよく経営できているな」というイメージしかなかったですが、厳しい環境だからこそ数字を作っていくためのシビアな合理性があり、そこは非常に勉強になりましたね。機材や労務管理などは改善の余地もあるとは思いますが、その状況でもこれだけ利益を出すんだという部分で衝撃を受けました。

一緒に経営して頂く感覚

近藤:今回、なぜ電脳交通への出資を検討して頂けたのでしょうか?

吉川氏:電脳交通が今後やっていくビジョンとかロードマップみたいなことを直接聞く機会があって、これは今後もうちの事業に密接に関わってくるなという思いがありました。さらに言うと、「多くの事業を手掛けている会社の一部門」ではなくて「それ一本に集中して伸びていこうと必死に頑張っている会社」だと思ったので、将来性があるだろうなという見込みもありました。

近藤:4月の資金調達に向けた動きが始まるかなり前の段階から、吉川さんとはタクシー業界の将来も含めたお話をさせて頂きましたね。利害を超えたところで対話ができている感覚があって、その頃から同じテーブルについて距離の近いところでアドバイスをして頂ける吉川さんのような方に加わっていただきたいという思いがありました。

かつてタクシー業界でテクノロジーへの理解と関心が高い経営者の方は、少数派だったと思います。業界内で「新しいもの好きなんだね」と言われて終わることも多かったと思います。でもいまや、タクシー業界をどうDX化していくか、どうアップデートしていくかみたいな議論が普通に出てきています。

次の時代を目指す上で、「デジタル戦略をどう立てていくのか」みたいな議論を同じテーブルでできる方として、吉川さんには一緒に経営をしていただくような感覚で出資のお話をした経緯があります。

楽しいから前に進み、振り返ると学びになっている

近藤:2014年頃に初めて吉川さんとお会いし、その後、徳島の本社まで来て頂いたのを覚えています。

吉川氏:電脳交通の社内にある配車センターはとても斬新で、「こういう仕組み面白いな」と思ったんですよね。地方のタクシー会社は30台以下で営業している会社が大半ですが、そういう会社をターゲットに、夜間や休日の配車業務委託を通じて人件費を圧縮できるサービスを提供していてすごいなと思っていました。だから実際に見て、お話を聞いてみたいなと。

近藤: システムのUIやUXまで非常に細かく聞かれたことを覚えています。ベンチャー企業への資本参加や、ベンチャー企業の方と日常的にコミュニケーションを取られているので、来社された際にも非常に話がスムーズだったことが印象に残っています。タクシー業界外の方との交流は意識してやられてきたんですか?

吉川氏:いや、何も考えず、自然とそうなっていっただけです(笑 いろんなクラスターがあって、ベンチャーやタクシー業界など、それぞれ考え方や行動の仕方が全く違います。それが楽しいから前に進んでいく感じです。最初は楽しいだけで初めて、振り返ると勉強になったなと思いますけど。

ポイントは「車両の帰属先」

近藤:タクシー業界の大きな話題としてインバウンドの再開がありますが、この状況をどう見ていますか。

吉川氏:いま多いのは台湾や韓国、東南アジアとか、あとは欧米の方ですね。でも、それが全体を押し上げるほど多いっていう認識はあまりないんですね。全体の数字がものすごく良くなってきているので。「横浜で1日に1台あたりこの売り上げなら、おそらくお客様がタクシーを捕まえられなくて困っているかもしれない」と気付くぐらいの水準ですね。

近藤:タクシー業界に対しては、かねてから人手不足を指摘する声があります。

吉川氏:業界全体でみると大都市圏では乗務員が増えています。弊社でも今年200人ぐらい採用しており、2019年の頃よりも多いくらいです。なので、頑張れば都市部はまだ数年いけるのではないかと考えています。

ただ、供給不足が解消できないような、そもそも人がいないような場所では今後、集客が見込めるイベントやお祭りのある期間は、他の地域から乗務員を派遣することなども検討する価値はあるんじゃないかと感じています。

よく話題に上るライドシェアですが、たとえ解禁したとしても、そもそもドライバーとなる地域住民が少なければマッチングしないですよね。

都市部はすごく渋滞している状況で、そこにライドシェアが周辺から流入してくると、アメリカみたいに総量規制になっていく可能性が高くなります。規制して許可された車しかライドシェアできないとなると、それはほぼタクシーみたいなものですよね。そうなっていくのが世界的な流れだったりします。

近藤:タクシー業界の未来についてどうお考えでしょうか。

吉川氏:当然、移動は絶対なくならないですよね。でも20年も経ったら「人が運転しない車」が当たり前になっているんでしょうね。その事業モデルを想像すると、例えば駐車場に停めてあるカーシェアリングの車が利用者に呼ばれたら自動で迎えに行く、市中のEVステーションで自動充電する、とかそういう未来が描けます。

その時に、その車両がどこに帰属しているかが大事なポイントになるでしょうね。今は私達タクシー業界が許認可を受けていて、そのタイミングまで業界が維持できればその新しいビジネスモデルのプレーヤーに移行していくんじゃないかと考えています。

新しいチャレンジをする時に支えられ、救われた言葉

近藤:御社といえば、タクシーを活用したフードデリバリーや、各地域の名所などを絡めたタクシーツアーなど独自色の強い取り組みが印象的です。

吉川氏:ありがとうございます。アイディアは8割ぐらい僕が作っています。施策の数は多分、日本一多いですよね。それは自信があります。自分でもびっくりするくらい新しいことを仕掛けてきましたが、先代からずっとやってきたことを変えるって本来はすごく怖いことだと思います。

僕は29歳で社長に就任したときにちょっといろんなチャレンジをして、大量に社員が辞めるという事態を引き起こしています。その時に一人の元取締役がくれた言葉が、すごく印象的でした。「とりあえず5年ぐらい好き放題やって、潰れそうになったらそのときまた考えましょう。それも付き合いますから」っていう言葉にすごく救われて。残念ながらその方は亡くなってしまったんですけど、彼のおかげで新しいチャレンジすることはそんなに怖くないと思うようになりました。

タクシー業界もチャレンジを恐れなければやれることはまだ沢山あるし、それを一緒にやっていきたいですね。

近藤:なるほど、そういうご経験があったんですね。私にとって、そういう言葉をくれた存在は母でした。家業のタクシー会社を継いで間もないころ、必死に頑張っても不運が重なって結果が全然でないときに、ずっと支え続けてくれました。吉川さんと共感する部分が多いのは、そうした苦しい時の経験が似ていることも影響しているのかもしれませんね。

安定した地盤がある都市部のタクシー会社も、人口減少の加速で厳しい状況にある地方のタクシー会社も、業界の外に目を向けて変化し続けなければいけないという点は共通していると感じます。今回の出資を機に、一緒に多くの課題に取り組ませて頂きたいと改めて考えていますので、引き続きよろしくお願い致します。

===
最後までお読み頂きありがとうございました。
引き続き本連載では各界のキーパーソンとの対談を軸に、未来の地域交通のカタチについて取り上げてまいります。
次回の記事も楽しみにお待ちください

「地域交通のカタチ」他の対談記事はこちらからお読みください


対談した両社のウェブサイトはこちら↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?