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【連載:地域交通のカタチ】インパクト投資で社会に好循環を生み出したい 〜JPインベストメント 水上圭 & 電脳交通 近藤洋祐

電脳交通は2023年4月4日、複数の新規投資家および既存投資家を引受先とした総額約12億円の資金調達を実施しました。創業から7年以上経った現在、株主の方々や提携企業の皆様は、地域交通を含めた地域経済全体やタクシー業界の課題と将来性などをどう捉えているのでしょうか。

弊社代表取締役社長・近藤洋祐との連載対談【地域交通のカタチ】と題し、各社のお考えを伺っていきます。

初回はJPインベストメント株式会社の代表取締役副社長兼CIO・水上圭氏(みずかみ・けい)をお迎えしました。瀬戸内地域における地域活性化投資に取り組まれた経験を持ち、「社会的インパクト」を打ち出すファンドを通じて今回の資金調達で新たに株主に加わられた水上様に、「地方創生の現状と課題」そして「電脳交通に何を期待するのか」を伺いました。


地域の活性化と持続可能な社会に貢献

電脳交通 近藤(以下、近藤):この度は貴重な機会を頂きありがとうございます。早速ですが、まずは出資に至る経緯からお聞かせ頂けますでしょうか。地域経済およびタクシー業界は人口減少や市場縮小など厳しい環境にありますが、どういった点を期待して頂いたのでしょうか。

JPインベストメント 水上氏(以下、水上氏):弊社は2018年に設立した投資会社で、2022年に「地域・インパクトファンド」を立ち上げました。一言で説明すると、「地域の活性化と持続可能な社会に貢献する企業に投資するファンド」です。確かに地域経済は課題が多いですが、逆にオポチュニティもあります。人口減少と過疎化が進み、公共交通機関が無くなればますます悪循環に陥っていきますが、逆に新たな地域交通の担い手が現れることで、過疎化を反転するプラスの循環に持っていけるのではないかと考えました。

近藤:地域交通分野に関係する企業はたくさん存在しています。その中で、なぜ電脳交通を選ばれたのでしょうか。

水上氏:我々のようなファンドはしっかりとした事業計画と情熱を持った経営陣をサポートする立場にあります。なので、事業を主導する経営者のビジョンにどこまで共感できるかが重要でした。

近藤:ありがとうございます。創業した頃から、この国のインフラを再構築するという観点で事業をしてきました。「近藤カンパニー」ではなく、社会の公器を造りたいという思いです。最短・最速で事業をスケールさせて、あっという間にIPOやM&Aする事を期待されるよりも、置き去りにされがちな社会課題、つまり国内で移動難民や交通弱者が増えていくという課題設定に共感いただける方に投資していただきたいと考えてきました。

郷土愛と危機感を持った若者をサポート

水上氏:弊社は日本郵政グループの傘下にあり、出資元であるゆうちょ銀行、かんぽ生命保険は「社会に資金を循環すること、ポジティブなインパクトを与えること」を重視しています。

前述のファンドを立ち上げた時も、「(見せかけだけの)インパクトウォッシュにならないような投資を実現してほしい」との強い意向があり、外部専門家の支援も受けながらインパクト投資プロセス等を高度化し、しっかりとした運用を行うようにしています。

私自身も瀬戸内地域の観光関連の地域開発やファンド投資に携わってきましたが、地域活性化に際して観光を軸に考えると、「そこにどうやって人を連れてくるか」が大きな課題になっていると感じます。近藤さんご自身は、地域の課題をどう認識していますか。

近藤:ゆっくりと着実に厳しい状況へと環境変化していると感じます。すでに四国4県の人口は横浜市より少ないですが、それでも地域では「四国は横浜と同じくらいの人口」という一昔前の認識があり、今でもなんとなくそう言われ続けています。

そんな状態にあって、今回の資金調達を通じ、ナレッジやノウハウを四国に逆輸入する、ということを達成したかったんです。例えば、とある組織や企業が集客案を検討する際に社内リソースだけでは限界があったりする場合に、我々の知見を持ち込むことで貢献できると考えています。

深刻な課題を抱えている地域は多いと思いますが、外部から突然ソリューションを持ち込んでも生かしきれないのではないでしょうか。我々は地域の中にいて、地元の経済団体にも所属していますし、改善するアプローチが可能な立場にいると考えています。タクシー業界は年間10億人分の輸送機会がある業界です。リアルにこれだけの人流をフォローするのはIT業界でも難しいですからね。あとは「どういう問いを立てるか」が重要になってくるのではないでしょうか。

水上氏:なるほど。それは「地域でこういうことをやりたい」という方がやらないと難しいでしょうね。瀬戸内でも地域活性化につながる事業を行っている若い方が「郷土愛と危機感があるから地元に戻ってきた」と言われていました。私たちはそういう理念をサポートしていきたい。電脳交通のような企業が増えれば、地域に新しい職場ができて若い人が戻りやすくなりますね。

課題が山積みの徳島が教えてくれたこと

近藤:地域ならでは、日本流でどういう風に地域資源を生かしていくかを考えた結果、電脳交通ができました。47都道府県の中で、徳島はタクシー業界内最小規模のマーケットと言われています。ドアを開ければ課題が山積しているので、それらを正確に捉えることができました。

例えば、新型コロナウイルス禍で乗務員不足が深刻化しました。でも徳島では10数年前から起きていました。だからフルタイムではなく、パートタイムの乗務員を採用するなどの工夫で対応してきました。コロナ禍で業界は大混乱に陥りましたけど、徳島は最初からずっとそうだったんです。

だからこそ、的確に課題解決の優先順位を決めることができる。創業当時、国内タクシー市場規模は約2兆円程度あったので、しっかりとコスト削減可能なものが提供できればビジネスが成り立つと考えてきました。

水上氏:出資者から何を求められていると感じていますか?

近藤:産業のDXです。鉄道・バス・タクシー以外の広がりで事業作りをできないのかという要望をよく聞きます。タクシーのEV化も注目されています。タクシー業界でEV化が進まない理由の一つは、次のお客様の乗りたい距離と航続可能距離が合致しない点もあると思います。航続可能距離が足らなければ、乗車拒否することになります。そうなると、充電用のインフラ整備をどの地点に何台分、作らなければいけないのかを考える必要が出てきますが、そういう調査への協力もしています。

水上氏:今回の資金調達では事業会社も数社出資されていますが、各社も期待は大きそうですね。

近藤:電脳交通の配車システムをプラットフォームとして、ビジネスをどう作るのかを検討して頂き、元々他業種との交流が少なかったタクシー業界と連携することができます。タクシー業界は内部のコミュニケーションが複雑な面がありますが、弊社はタクシー業界内部から立ち上がっているのでアクセスが容易です。業界外からの人材流入のための間口を広げる貢献をできたのではないかと考えています。

「売り上げが立たないなら、社会の役に立ってない」

水上氏:改めてになりますが、長期的に考えると、やはり新しい地域のインフラを担って頂くことを期待します。人口が減る中でも、こういう新しい交通手段があるから問題ないとなると人は集まりやすくなります。我々は社会的なインパクトはもちろん、経済的なインパクトも軽視してはいません。地域活性化投資はリターンを生み出さないというイメージがありますが、地域の活性化に貢献して、かつ投資リターンも実現できると、さらに投資資金が集まる循環が生まれます。御社もぜひIPO(新規株式公開)を実現してほしい。その成功事例を見た地域の若い人たちの中から、違う業界で第二第三の電脳交通が出てくるかもしれないですからね。

近藤:それを体現したいと考えています。ロマンとソロバンのバランスを取って、両輪で回していくビジネスを目指します。正直4〜5年前は「社会的な意義はあるけど儲からなそう」と思われているなと感じることが多くありました。しかし今では意識の変化が大きくなってきているので、さらに「地域でも大丈夫なんだ」と粘り強く発信しています。

水上氏:インパクト投資というと儲からなくても良いと考える人もいますが、経済的リターンと社会的リターンはゼロサムではないと思います。社会的リターンはニーズの現れですからね。しっかり見極めて目利きしていくのが我々の役割だと考えています。世の中のためになっても売り上げが立たないというのは、実は役に立っていない、ともいえるのではないでしょうか。経済的リターンが出ないということは社会的リターンが出ていないことになると思います。

既存市場の「再編集」に勝機がある

近藤:経済的リターンの点で言えば、内部コストを減らすことで「既存市場を再編集する」ビジネスなどに勝機があると考えています。既に配車システムの利用顧客を抱えており、体験を変えることで「良いことをやっている」と認識してもらえる。今まで完全になかった新しいことをやるよりも成功率が高いのでは、と感じています。弊社は世紀の大発明なんてしていませんし、要するに内部コストを再編成しただけなんです。

起業家のコミュニティと地域に昔から存在する長い歴史をもつ企業のコミュニティの両方にいると、地域に根ざした企業の元気の無さを感じます。電脳交通が彼らをエンパワーし、巻き込むことで大きな市場を再編集していった方が、勝機が見えるのではないでしょうか。

水上氏:素晴らしいですね。地域・インパクトファンドを作るときにターゲットを立てて議論したんですが、地域の課題について若い人はどこか諦めている面があるのではないかという意見がありました。「地域でできることは限られている」と感じている人が多い印象です。そこで先人にアピールしてもらえると、能力ある人はたくさんいるから呼応してくるのではないでしょうか。自分たちだけでは気づけないことも沢山ありますが、第三者だからこそ、新しい発想を啓蒙できますからね。

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最後までお読み頂きありがとうございました。
引き続き本連載では各界のキーパーソンとの対談を軸に、未来の地域交通のカタチについて取り上げてまいります。

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対談した両社のウェブサイトはこちら↓


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