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【前編】【Brexit:何が起きていて、次何が起こるのか】現時点でのEU離脱案が大差で否決された現状と争点。

<ロンドン時間1/15に何が起きたのか>

みなさんご存知の通り、1/15に、メイ首相が現時点でEUと合意しているEU離脱案に対し、賛成か、反対か、を問う決議が議会で行われました。
結果、賛成票 202、反対票 432、となり、その差は230票。過去かなり遡らないと例を見ないほどの大敗となったわけです。
ヘッダーははBBCの記事から借りてきた表です。
(出典:BBChttps://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-46885828)

<この結果は予想されていたものだったのか?>

では、この結果は急に降ってきた予想もしなかった結果なのでしょうか?
そうではありません。各メディアは反対票が上回ることを予想していました。ですが、ここまでの大敗となるとは、予想していなかった議員やメディアも多く、Brexitに関する合意が、イギリス議会内でも想像以上に揺れていることが改めて示されたこととなりました。

<この結果が示している「現状」と「争点」は?>

上に示した表からもわかるように、メイ首相が党首をつとめる保守党(Conservative)の中でさえ、かなり多く票が割れていることがうかがえます。
またどこかの記事で説明しようと思いますが、Brexitは単純に賛成、反対、という構図だけではなく、賛成派の中にもハードブレグジット派(移民流入の制限を優先し、経済における単一市場への参加を犠牲にする)、ソフトブレグジット派(移民流入の制限をゆるくしつつ、経済における単一市場への参加も何らかの形で続ける)、合意無き離脱(no deal)派、がいます。つまり、それぞれの議員がそれぞれの理想のBrexitを持っているため、同じ党の中でも票が割れる結果となるわけです。

しかし、今メイ首相が示しているEUとの交渉案には、曖昧な部分が非常に多いのが現状です。では、何が具体的に争点となったのでしょうか?以下、Evening Standard紙より5点参照し、まとめます。
(参照:Evening Standard 1/16 https://www.standard.co.uk/news/politics/theresa-may-eu-brexit-deal-key-points-withdrawal-agreement-a4038526.html)

この5つの争点の中でも一番大きな争点となっているのが、一つ目のアイルランド国境についてです。

★①アイルランド国境(Irish Border)

イギリスは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、の4つで構成される国です。そのうち、北アイルランドについては、地理上はグレートブリテン島になく、アイルランド島にあります。
つまり、アイルランドと北アイルランド(イギリス)は地続きで国境を接しているわけです。また、この国境では30年以上もの間争いが絶えず、1998年の和平合意で国境について合意を行いました。つまり、この国境が安定してから、まだ20年もたっていない、という不安定さがここにはあります。
ですが、和平合意後は、人や物の行き来が非常に多い場所でもあり、アイルランドもイギリスもEU加盟国であることから、特別なチェックを必要としない、人とモノの移動が行われていました。(EUはモノの輸出入の際、様々なEU基準を持っていますが、どちらも加盟してる場合は、その基準を満たしていることが前提となるため、特別なチェックがいらないというわけです。)

この国境問題を背景とし、イギリスがEU離脱を行った場合、どうなるのか。
イギリスはEUから離脱するわけですから、これまでのようにEU基準を満たす必要はなくなります。が、アイルランドは引き続きEUに属するわけですから、北アイルランド(イギリス)からアイルランドにモノや人を運ぶ際には、特別なチェックが必要となるわけです。

しかし、ここの国境は地続きであり、まだ不安定さもあることから、ここの国境について、バックストップ(Back stop)というセイフティネットを合意しようとしています。これは、その国境については、イギリスのEU離脱後も今まで通りの運用を一定期間あるいは永続的にしようとするものです。しかし、この内容にEU側とイギリス側で主張の違いがあります。

EU側:
北アイルランドにのみバックストップを適用。北アイルランドのみ、EUの単一市場としての恩恵を受け、経済的に実質EUに属している状態にする。
イギリス側:
限られた期間、イギリス全体にバックストップを適用。北アイルランドにのみ適用した場合、北アイルランドとEUとの関係性がより緊密になり、経済的にも北アイルランドと他のイギリスの地域で大きな格差が生まれる。これは、連合王国としてのイギリスの国の形さえ脅かすものだ。

このように、不安定なアイルランド国境を巡って、EU離脱後どのようにここの国境を守っていくのか、同時にイギリスとしては連合王国としての一体感を守っていくのか、が問われています。
メイ首相が示した案にはこれについて、どちらの側の主張が通るのか明確な言及がなく、ただ決める期限についての言及しかなかったこと、そしてそのバックストップを終了する期間についての言及が無かったため、このままではEU側の主張が通り、EUの思う通りにBrexit後もイギリスが縛られる可能性が高いと危惧している議員は多くいると考えられます。

②漁業(Fishries)
EUは繰り返し、EUがイギリスの海上区域で漁業をすることを認めない限り、イギリスが魚介をEUの単一市場に売り込むことは出来ない、と主張しており、この主張に反対する議員も多くいます。

③市民権(Citizens' rights)
移動の自由を終わらせることは、Brexit賛成派の人々にとっても重要なポイントです。実際、これについては今の合意案には具体的に含まれておらず、イギリスが柔軟に決めることが出来ることを意味しています。

④移行期間(Transition period)
イギリスは2019年3月にEUを離脱するものの、2020年12月末まではEUの単一市場に縛られる代わりにとどまることが出来ます。その間、両者で新たな貿易協定を作り、もしそれでも足りないと両者が判断した場合、さらに2020年の7月1日までに共同合意することで伸ばすことが出来ます。

⑤手切れ金(Divorce Bill)
EUに対し、EUのプログラム資金運営費などとして、£30billion(ポンド)、日本円にして、約4兆円の資金を支払う必要があります。この資金について、妥当な金額なのかどうが議論がなされています。

さて、争点を整理したところで、今回こうした争点を考慮したうえで、議会にて現EU離脱案が否決されたことはどう評価できるのでしょうか。それは次の記事にて解説したいと思います。

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