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創造性は教えることができるのか?(認知学習論)

大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今週は認知学習論でこれまで学んできたことのまとめです。

この授業を受けた当初の目的として、学校で創造性は教えられるのか?学ぶことはできるのだろうか?ということを考えていました。15回の授業を通して、自分なりの考えを少し整理することができたので紹介します。

今回もめちゃめちゃ長いです。ご了承ください。


1. 創造性における学校教育の動向

本論は、学校教育のなかで創造性はどのように教えられているかを取り上げる。21世紀は不確実で予想が困難な時代、いわゆるVUCAと呼ばれる不確実性の高い社会だと言われている。

このような中、学校教育においても暗記中心の知識量を増やす学習から、知識を活用して新しい事業や生み出すことや社会課題を解決するといったことへの学習に期待が移り変わっている。

日本はこの点で大きな課題を抱えている。日本財団による2019年の18歳意識調査では「自分で国や社会を変えられると思う」と回答した割合は、インドが83.4%、アメリカが65.7%、中国が65.6%であるのに対して、日本はわずか18.3%と9カ国のうち最も低い結果となっている。(1)

文部科学省はこのような状況を打破すべく学校教育の見直しを図っている。平成30年度の「高等学校における学習指導要領」では、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善の推進において、”授業の方法や技術の改善のみを意図するものではなく,生徒に目指す資質・能力を育むために主体的な学び、対話的な学び、深い学びの視点で授業改善を進めるものであること” と述べている。(2)

また、令和5年の「総合的な学習(探究)の時間」においても「はじめに」の項目で冒頭に、”未来を切り拓き、よりよい社会を創造する”という言葉が掲げられている。(3)


2. 探究学習と創造性の関連性における課題

このように日本の学校教育は、探究学習の推進を通じて創造する力を育むことを目指しているが、ここで1つの課題が浮かび上がる。

それは、探究学習で取り組んだ結果として社会を創造する学びが得られるという関連性は明らかになっていない、という点である。探究することにより発見や解決策を見出すことはできるかもしれないが、何かを創り生み出したことにはならない

創造の概念について整理する。

日本大百科全書によると、創造とは”これまでになかったものを新しくつくりだすこと。この概念は、既存の要素あるいは素材の独創的組合せによる新しいタイプの事物の算出から、まったくの無からの世界そのものの創出に至る広い範囲で使われる。”とされている。(4)

このことから、探究することと創造することの関係性に直接のつながりは示されていない。

創造には新しさだけではなく「つくる」という行為がともなう。探究学習で見られる多くの内容は、模造紙やスライドなどに探究した内容を発表する成果報告の形式がとられる。この場合、発表内容自体に創造性が含まれるかどうかは求められない。しかし「つくる」ことを授業の目的に取り入れる場合は、発表するだけではなく何かしら創造する活動を探究学習の中で教師が指導しなければならない。

3. 創造性を教えるうえでの困難さ

ここで実施における問題点を以下2点から考察する。

1点目は、教師が創造性をどのように教えるかについてである。教員はこれまで各科目の知識を伝えることを学んではいるが、創造性を育む教育方法について専門的に学ぶ機会がなかった。

美術や図工の教員であれば、その専門領域における創造性を高める教え方は実施できる。しかし、探究学習を通じて期待される創造とは、科目の領域を横断した学びであったり、教員の知識や技能を超えた学習者自身の新しさを創り出すことであり、創造性を学ぶこと自体の難しさに加え、科目に限定した創造性の指導では限界がある。

2点目は、創造性の取り組みをどのように評価すればよいのかについてである。筆記試験のテストに比べて探究学習の成果は客観的な数値としては表れにくい。

探究成果を発表する内容についての範囲であれば、ルーブリック評価に基づいて成績をつけることは難しくない。しかし、答えのない課題に対して創作したものに正解はないので、一元的な良い悪いといった評価は主観的に偏ってしまう。

評価方法には学習ポートフォリオという手法もあるが(5)、主に知識や技能を中心に評価してきた多くの教員にとっては、創造の学びを適切に評価することへの難しさがあり、学習者の学びを見取ることができるかは明らかに教員の力量差がある。(6)

以上の状況において、どのような方法を用いて創造を指導して評価することができるのか、改善策を3点述べる。

4. 改善策a. 気づきを促す

まず問題1点目のどのように指導するかについて、筆者の考えを述べる。

はじめに、創造は果たして教えることができるものであるか?という問いから考えてみたい。創造は誰からから教わるものではなく自身が試行錯誤する過程の中から生み出されるものである。

例えば音楽家であれば日々悩んだり演奏してみながら新しい楽曲を創作する。誰かに正解を教えてもらうことはできない。もし教員が何かを教えて、学習者がその通りにやってみてつくったのだとしたら、それは生徒自身が新しいものを生み出したことにはならないので、創造的な行為とは言えず制作や作業を通じて技能を習得したという範囲に留まる。

つまり、教員が直接的に教えるという自体が創造の活動においては妨げになるとも考えられる。このような状況で教員にできることは、学習者に間接的な気づきを促すことである。

学生がアイデアの検討に悩んでいた場合、教員は「このような方法で考えてみてはどうだろう」と視点を変えることをうながしたり、「世の中にはこういった実例がある」といった社会の事象を提示することによって、学習者自身の知識では気づかなかった新たな発想を認知できるようになる。

このような間接的なアドバイスは創造を妨げる行為にはならない。教員の役割は創造を誘発するための補助であり、学習者よりも多くの知識や経験を持ち提供できることが教員が発揮すべき能力であると言える。

5.改善策b. 可能性を広げるために問いかける

2点目は、創造力を高めるための方法について考えてみる。

新しい取り組みに対して教員側が正しい答えを求めようとする立場をとった場合、「その方法では実現が難しい」「その考え方は間違っている」といった観点で否定的な判断を下してしまう傾向がある。

しかし創造とは未知の領域に取り組むことであり、創作したものの効果や価値は実証してみない限り誰にもわからない。学習者からの発案に対して教員は「他にどんな方法があるか?」という発想を促したり、「このような場合だったらどうする?」「他の領域で使ってみたらどうだろうか?」などアイデアの精度を高めるような問いかけが求められる。

このような可能性を広げるための立場をとることで、創造性をより推進することができる。

あらゆる読書は誤読であるという考え方がある。(7)これは作者の意図を読み間違えることで、これまでになかった新しい発想を生み出すことができるというものであり、読書に限らず創造にはこの誤読が伴うことが多い。

https://cast.takram.com/podcast/rmh6mxjlb8px

例えばある絵画を鑑賞した時に、すべての読者が作者の意図を完全に理解できることはなく、読者によって解釈が異なったり、作者の思惑とは違った内容として認知されることがある。あるいはある国から取り入れた文化が独自の進化をとげる事象もこれに当てはまるといえる。

このような誤読から議論が生まれたり、新しい着眼点を得て創作をするきっかけにつながることがある。つまり、学習者によって認知や解釈が異なることは自然な状態であるので、教員側はそれを修正しようとせずに学習者の認知をより展開させるために、創発を促す目的を持って問いかける態度がふさわしい。

6.改善策c. 批判的思考で評価する

3点目は評価に関する提言である。

OECDはこれからの重要な学びとして創造性と合わせて批判的思考をあげている。イノベーターは非イノベーターよりも、自分の仕事における非常に重要なスキルとして創造性を挙げることが約4倍多く、批判的思考は3倍多い結果となっている。(8)

創造を評価するうえで、創造と想像の違いについて整理しておきたい。想像であれば斬新なアイデアやユニークな発想が評価につながるが、そのアイデアや発想をどのように実現するかは想像の評価範囲には含まれない。しかし創造とはつくることであり、つくられていることは論理や構造などが成立している必要がある。

例えば椅子をテーマに取り組んだ場合、想像として「100人が座れる1つの椅子」といったようなアイデアを考えたとする。この段階ではそれを実現する方法にまでは言及していない。

しかし、想像から創造に昇華させていくためには「100人が座れるために必要な大きさや素材はどうすべきか」といった検討が必要になる。ここから、大きな椅子をつくる方法を取ったり、あるいは1つの丘を椅子に見立てて土地をデザインするといったような、具体的であり独創的な案につなげていくことが創造性に求められることである。

創造に対する評価は独創的な発想だけではなく、成立するための検討が十分に行われていたり、実際に使えるものを制作できているかということまでが含まれる。

テーマにより評価観点は多岐にわたるため統一的な指標を定めることは難しいが、提案や制作の内容に対して学習者はどのように考えているか?という意見が述べられることが評価の指針になりうる。

ここで用いられるのが批判的思考である。批判的思考は物事を多角的に捉えて検討の甘さを指摘するような場合に用いられるが、学校教育においては創作した内容に対して批判的な意見への回答が有効な方法になると考えられる。したがって教員はそのために、批判的思考を説教的に身につける必要がある。

7. 解決策実行のための提言

本論では、創造性における教員の課題と学習方法についての施策について述べてみた。

教員が正しい答えを教えるのではなく、生徒が新しいことを生み出すための気づきや示唆を得るために、一歩引いた立場からガイドする立場として関わることが、教員における創造性の学習に必要なことであると考える。

しかしながら、これまで教員が受けてきた授業や経験のあり方を変えることは容易ではない。探究学習が求められていても、これまでどおりの知識を学ぶ授業は継続して行われるので、両方の視点を1人の教員が使い分けることを求めるのは酷であるといえる。

このような環境において2つの研究が求められる。

1点目は現職の教員のアンラーニングを取り入れる教育プログラムである。教員は学校現場で多忙な日々を送っているが、教員自身の学び直しの機会をつくることが求められる。

2点目はこれから教員になる人材に向けて、教育大学などの授業で創造性を高める指導方法のトレーニングを行うことである。そのためには教育大学側にも創造性を教えられる専門的な経験を持った実務家教員を取り入れていくことが期待される。

このような取り組みの中でどのような成果を挙げられるか、5-10年の期間を経過観察することで効果の実証を確かめる研究が求められる。

上記2点を達成するためには、現場教員の努力や学校内の活動だけで達成できることではない。そのため、教育委員会や文部科学省などの組織的なはたらきかけによって、教員の働き方の仕組みを変えることが必要である。

特に創造性に精通した人材を実務家教員として採用することや、教育現場に関与してもらうための施策は、不確実性の高い社会において創造的に切り開いていく教育を行ううえで急務であり、今後の行政や教育機関の取り組みに期待したい。

学んだこと

今回も長くて(かつ固い文章で)すみません。あらためて文部科学省の取り組みや年末に出会った本を読むことで、ばくぜんとした印象ではなく、創造性を社会がどのように認識しているかを知ることができました。

創造性の課題は認識している、でも創造性を学ぶための方法論やスキルが教育現場に十分浸透しているとはいえないということもわかりました。

もう少ししたら研究テーマの論文の中間発表があります。今回学んだ内容は論文の中にも反映して、内容を深めていきたいと思います。

今回はここまでです。





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探究学習がすき

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。