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即興性がカギとなる、クリエイティブ・クラスルーム(探究演習)

大学院で学ぶ「学習のデザイン」、今日は最初にちょっとお知らせです。

社会人の学習に関するメディアサイト、エレファント・キャリアさんからインタビューを受けて記事を掲載いただきましたー。

社会人大学院で学ぶいろいろな人が、自身のキャリアを考えながらに学んでいるお話がたくさん載っていますので、読んでみてください。(もし、自分のことも知ってもらいたい、という人がいましたらおつなぎしますよ)

さて、今回はキース・ソーヤーさんという方の本を紹介します。


即興がカギ

この人、コンピューターサイエンスや心理学の教育者でありながら、ジャズピアニストとして30年以上の活動歴がある人です。相反するような2つの異なる職業ですが、実は共通点があります。それはクリエイティブです。

今回紹介するこちらの本はタイトルが「クリエイティブ・クラスルーム」日本語にすると創造的な授業。そしてサブタイトルが、「即興」と「計画」で深い学びを引き出す授業法、となっています。

特にこの中で「即興」が本書の特徴です。

創造的な知識とは?

創造性とは教えられるものだろうか?という問いは常につきまといます。その中で、創造的な知識とはこのようなものだと述べています。

  • 深い知識

  • 大きな知識

  • つながりを持った知識

浅い知識は、暗記などでの「知ってる」にとどまります。深い知識は、「なぜそのような出来事が起きたのか?」を自身の言葉で説明できる、という違いがあります。

小さな知識は、1:1の関係にとどまります。大きな知識は、1:Nの関係です。例えば北海道=北の都道府県だけでなく、北海道の歴史や東北地方との関係などがまとまった知識を示します。

つながりのない知識は、発展がありません。つながりを持った知識は、柔軟性があり、知識から関係性を見つけ出し、新しい知識(学習転移)を生み出す、という発展があります。

深く・大きく・つながりを持った創造的な知識は、芸術だけでなくどの分野にもあてはまります。例えば数学者が新しい数式を見つけるには、単なる暗記や詰め込み学習では決してたどり着くことができません。

創造起点か記憶起点か

ブルームのタキソノミーというピラミッドの分類というものがあります。これが発表された当時は、知識は下から上に積み上げていけばよいと考えられていました。しかし実際には、上と下を同時に教える方が効果があるということが研究で明らかになりました。

創造性を教えると、学生は創造(深い知識)に付随して記憶(浅い知識)も身につき、結果として両方を学べます。一方で記憶を学習しても創造にはつながりません。

詰め込み学習から探究学習に変わっている最近のながれは、創造的な深い知識を学ぶこととつながっています。

即興の学びが創造的になる

「ガイド付即興法」というのが本書のメイントピックです。これは、教員がその場で実践と応用をしながら学生をガイドするというものです。

アイデアを出す、発明する、創造的に問題を解決するという行為は、予測がつかずジグザグな道筋をたどります。時に行き詰まることもあれば失敗することもあります。ここで求められるのが即興的な対応です。

ジャズピアニストである本人は、もちろん演奏で即興の対応が求められます。理論で埋め尽くした演奏から創造性は生まれません。

ただし、即興は本能のみでやっているわけではなく、構造と柔軟性、繰り返しと新しさ、という2面性を両立させながら成り立っています。MITのカレン・ブレナンは、学習が構造化されすぎると創造性が減少する、しかし構造化が不足しても創造性が減少することを発見しました。

なので、最小限の構造化にあたるガイドがポイントです。教員は生徒に押し付けたり先導したりはしませんが、かわりに足場かけをします。この足場かけの概念は「認知的徒弟制」の考えと共通していますが、師匠と弟子の関係よりも一緒に取り組む仲間の関係に近いかもしれません。

デザイン学習の可能性

ガイド付き即興法とデザイン教育は、高い親和性があります。どちらもプロジェクト型学習(PBL)であり、オープンエンドなテーマでありながらも足場かけの構造があり、即興的かつ創造的に解決策を見つけます。

ワシントン大学では、こんな課題が出されました。

テーマ:小説の始まりと終わりの2枚組のポスターをデザインすること
必須条件:5冊の小説を読んで選択する、ポスターやデザインの例を集める、多様性と量を追求してビジュアル素材を見つける、ビジュアルの下絵を制作する
制作基準:小説のタイトル・著者名・刊行年が含まれていること、16x20インチで片面に印刷されていること、画像・色・活字の制限はない

ヘザー・コーコラン教授によるコミュニケーションデザイン授業課題より

このように、ある程度の構造を最初に示しています。というのも、創造には制約がつきものだからです。ジャズの即興にも制約はありますし、すべてのデザインも同様です。このことから、デザイン教育には、創造のための構造化と即興性がもとから備わっているといえます。

これをデザイン以外の学校教育に活かさない手はないと思います。

学んだこと

自分がこれまで受けてきたデザイン教育は良い学びだったと思い、それを活かせないかと考えて大学院に入りました。

この本は、自分がばくぜんと思っていたことを、適切に言語化してくれていると思いました。即興性と適度なガイドがあることによって、学生は自ら進んで学ぶようになっていきます。当たり前ですが、主体的に取り組まないと創造性を学ぶことは不可能です。

即興は何が答えかもわからないし失敗もあります。なので柔軟さや寛容さが必要で、学ぶ環境にこういったマインドが浸透していなければいけません。挑戦や失敗を多く経験している人にこそ、ぜひ学校教育に関わり創造性を育ててほしいと思います。

今日はここまでです。

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探究学習がすき

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。