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「らしさ」をかたちにするロゴトレーニング

エルでは新しい取り組みとして、ロゴトレーニング(略してロゴトレ)を始めました。週に一度時間を取り、決められたお題に対してロゴをつくっていく取り組みです。

目的
・若手デザイナーのロゴ制作力向上
・ブランディング支援の地力アップ
・チームで「らしさ」をかたちにする訓練

チーム編成
ディレクター  1人(総括)
若手デザイナー 2人(実践)
先輩デザイナー 2人(アドバイザー)
ライター    2人(お題担当)

ロゴトレが始まって1ヶ月半ほど経ちましたが、一回一回がとても有意義な時間だと感じています。らしさをかたちにする技術力はもちろん、らしさを引き出す力や、聞いた話から解釈する力、細かな調整力など、実案件で必須な力を鍛える訓練になっています(非デザイナーも含めて)。

今回は、そんなロゴトレの様子をお伝えします。


ロゴトレの流れ

①お題をつくる

まずは、架空のクライアントを定義します。この作業は2人のライターが、交互に担当します。
架空だからテキトーでいいわけではなく、「どんな情報があればデザインしやすいか」を考えながら、できるだけ解像度高く設定します。たとえばこんな感じ。

依頼内容     ロゴ
クライアント名  月岡誠(35歳男性)
事業       新規開店のスパイスカレー屋さん
店名       Moon Curry
家族構成     妻(34歳) ゴールデンレトリバー1匹
現在の住まい   軽井沢
出身       東京都

要望      
軽井沢にはおしゃれな店が多いので、埋もれないようにしたい。 でも、格好つけただけのロゴは嫌。 地元の人から見て親しみやすく、それでいて洗練されているものがいい。 「わかってくれる人にわかってもらえればいい」くらいのイメージ。立て看板を出したい。

経歴
経歴両親が共働きで忙しく、弟と妹が一人ずついたため、幼いころから料理を手伝うことが多かった。それが苦痛ではなく、むしろ楽しかった。それが料理人としての原体験。
高校を出たあと、栄養学を学べる大学へ進学し、料理の道へ。東京の和食料理店で修行を積む。働く傍ら、趣味で始めたスパイスカレーづくりにはまる。休日のほとんどをスパイスの調合と実験に費やすようになる。
結婚を機に、妻の出身地である長野県軽井沢町へ移住。このタイミングで、独立して自分の店を持ってみようかと一念発起。和食よりスパイスカレーの店をやりたいと思い、店を構えることにした。

性格
温和で穏やか。こだわるところはこだわるオタク体質。妻からは「変なとここだわるくせに、肝心なところが抜けていたりする」とよく苦笑いされる。靴下の色がしょっちゅう違う。図らずとも愛されるタイプ。

趣味
仕事と趣味の境目がないタイプ。休日も料理をしたり、スパイスの配合をしたり。音楽が好きで、レコード盤を持っている。古き良きジャズ音楽が好み。店でも流す予定。一度はまるととことんはまるタイプで、軽井沢に引っ越してきてからは薪割りにはまっている。

店のイメージ
古民家をリノベーションした物件。観光客向けというよりは、地元の人に愛される店にしたい。住民にとっての「行きつけの店」にしたい。
回転率を上げることは考えておらず、長く、ゆったり滞在できるような空間にしたい。この考え方には、和食料理店での経験が影響している。
自身も犬を飼っているので、ペットフレンドリーにしたい。

ターゲット
軽井沢住民。年齢は問わないが、コアターゲットの年齢層は高めに設定している。 ペットを飼っている人には進んでアプローチしたい。

クライアント像を明確に定義することは、ペルソナをつくる練習にもなります。ペルソナの作り方については、こちらの記事でも詳しく書いています。


②お題共有〜ヒアリング

お題を考えたライターがクライアント役となり、案件概要をチームメンバーに共有。それをもとに、ディレクター、デザイナー陣、もう一人のライターでヒアリングを行います。気になることやもっと知りたいことをクライアント役に聞き、クライアント役はクライアントになりきって答えます。
実際に自分がヒアリングされる立場になってみて、聞かれることで気づくこともたくさんあるなと感じました。らしさをかたちにするためにはどんな情報が必要なのか、どういう質問だったらそれを引き出せるのか…質問する側もされる側も、とても勉強になります。
自分のことは自分が一番わかっているようで、わかっていない領域もたくさんあります。だからこそ、丁寧に深掘りしてもらえると「この人なら、自分のらしさを見つけてくれる」と信じられるような気がします。


③ラフを書く

ヒアリングの内容をもとに、デザイナーはラフを、ライターはコピーを書きます。制限時間は約15分間。大切なのは、時間を決めてぎゅっと集中すること。
黙々と手を動かしつつ、気になることがあればクライアントへの質問もOKです。


④ラフを見せ合う

15分後、できたラフを見せ合います。スケッチブックに描いたラフをチャットに共有し、一つひとつみんなで見ていきます。

「スパイスカレーを月にみたててみました」
「こんなコンセプトはどうでしょう?」
「レトロな感じでもおもしろいかもね」
「これくらいゆるいほうが月岡さんらしいかな?」

こんなふうに互いのラフを見ながら、あれいいね、これいいねと意見交換します。同じ情報を聞いていても、どこを抽出してどう表現するかは、人によって全然違います。それがおもしろいです。


⑤清書

ラフの中から清書するものを選び、提案できるかたちに仕上げていきます。期間は1週間ほど。ポイントは、あまり時間をかけすぎないことです。
長い時間をかければ、いいものができるわけではありません。時間を決めて、できるだけ頭に汗をかいて、アイデアをかたちにする。実務にもつながる大切な訓練です。


⑥初稿提案

清書したロゴを、チームに共有。クライアントのらしさをどう汲み取って、どんな方法でかたちにしたか、制作意図や技法を含めて説明します。このとき、ロゴデータだけではなく、看板にしたときのイメージや、ショップカードや名刺への展開例なども合わせて提案します。
ぱっと見の印象、説明と合わせて見たときの印象、モックにしたときの印象…それらを踏まえて、意見交換をします。

「この表現おもしろいね!」
「フォントはもうすこし検討が必要かも」
「このかたちはいいと思うけど、別のモチーフに受け取られそう」
「こっちはラフな感じで、こっちはエレガントな感じがする」
「この印象はすこしずれている気もするなあ」
「こっちの方向性の方が月岡さんらしいかな」

ロゴには正解がありませんが、それぞれの視点から見た意見が加わることで、ブラッシュアップの方向性が見えてきます。


⑦ブラッシュアップ

この期間も一週間ほど。受けたフィードバックをもとにもう一度考え、よりいいものにブラッシュアップしていきます。


⑧再提案

そして再提案。どんなことを意識してどんな試行錯誤をして、このかたちにたどり着いたのかを説明します。この時点で、「とてもよくなった!」という意見があふれます。しかし、ここで終わりではありません。より細かな部分を、納得いくまで詰めていきます。最後まで手は抜きません。大切なのは、最後までやりきること。この過程で私は、デザイナーの根気と底力を目の当たりにしました。「そこまでやるのか…!」と。

今回できあがった、スパイスカレー屋さんのロゴはこちらです。

デザイナー百瀬案

制作意図
月岡さんの温和で穏やかな人柄や、ゆったりと長居できるお店のイメージを感じ取れるよう、ゆるやかな曲線で形作ったシンボルと、手書き文字をベースにしたロゴタイプをあわせました。
シンボルは月の形をベースに。欠けた部分がカレーのルーに、ロゴの塗り部分がごはんにも見えるようになっています。さらに、ペットと一緒に来店できるお店なので、背景部分は動物の横顔にも見えるよう調整を行っています。
メニューを気まぐれに変えていきたいとのことだったので、背景色をカレーのルーに合わせて様々に変えることで、色々なカレーがあることを表現できるようにしました。ショップカードへの展開もできます。立て看板に使用することを考え、街中や遠くからでも文字を視認できるよう、文字の太さも細かく検証しました。


デザイナー栗原案

制作意図
季節に合わせてメニューを変えていくというお話だったので、スパイスを月に見立て、季節の移ろいを月の満ち欠けと重ねて表現しました。黄色はカレーの色を表現しています。
日本食で働かれていた経験と、ジャズ音楽が好きだという月岡さんのイメージから、繊細さとゆるさを両方とも表現できるように工夫しています。
当初は黄色と黒の配色を考えていたのですが、モックアップを作るうちに、黄色と白の配色の方が夜空感が出ると思い変更しました。背景色によって色を切り替えることで、幅を出すこともできます。

クライアント役として

自分の思いがかたちになったロゴを提案してもらうのは、思った以上に嬉しくて、わくわくすることでした。毎回どきどきして、静かに感動していました。「こんなふうにしたいな」という漠然とした思いを、かたちにしてくれるデザイナーってすごい…!!
さらに、提案を受けて「看板くらいしか考えてなかったけど、ショップカードやメニュー表もお願いしたいな…」「いろんなカラーパターンも見てみたいな…」と、自分の中にも新しいアイデアが生まれました。「自分の事業をこれからがんばるぞ」という意欲も湧いた気がします。


デザイナーの感想

百瀬
面白かったのは、清書するとき。手を動かしていくうちに「なんか違う…」という案と「意外といいかも」という案が出てきたのですが、最初に描いたときの印象からは、それが全然予測できなかったことでした。
最初の15分以外にもラフ案をたくさん考えましたが、「もう出ない!」と思ってからも、絞り出すと意外と面白いアイデアが出るなという実感があり、「自分の発想の手前の方(すぐ思いつく部分)」で止まらないことが大事なんだなと思いました。最初に見せあったラフ案やみなさんにいただいたフィードバックには、自分では絶対に到達できないアイデアもたくさんあり、こういう風に考えるのもいいな〜!という引き出しを増やせたのが良かったです。

栗原
スパイスを組み合わせて月の形を作る、というアイデアは最初からあったのですが、高い精度に落とし込むことが大変でした。特に文字部分。打ち文字だけだと淡白な印象を与えてしまうため、ロゴの印象と揃えるように細部を調整しましたが、手を入れれば入れるほど「これでいいいのか?」とゲシュタルト崩壊のような感覚に陥り、いいか悪いかの判断が難しかったです。
社内の他のメンバーに意見をもらって初めて気づく視点もあり、パッとしないところから一つの意見で突破口が見えていく感覚が新鮮でした。

「らしさ」をつくる力を、みんなで高めていく

クライアントの立場になり、らしさを見つけ、かたちにする。これから愛着を持って育てていけるようなロゴを提案する。どんなクライントであっても、このスタンスは変わりません。
誰か一人に任せるのではなく、チームで「らしさをつくる」力を底上げしていければいいなと思います。トレーニングは続く…。



デザインスタジオ・エルは「超えるをつくる」を合言葉に「らしさ」をデザインするWeb制作会社です。
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