マガジンのカバー画像

風景

103
身の回りにある様々な風景を撮った写真は撮影者ではなく、見る人の心を映し出す鏡。
運営しているクリエイター

記事一覧

春を待つカルスト

 2月初旬、北九州市のカルスト台地「平尾台」では、毎春恒例の野焼きが行われた。野に燃え盛る炎を以前からずっと見たいと思っていたのだが、時すでに遅し。はたと気づいたのが当日夕方だった。 一週間後に訪れてみると、いつもはススキに覆われている山の斜面が、黒々とした剥き出しの地面へと様変わりし、膨大な数の岩石群を遠くまで見渡すことができた。 道端には早くも草の新芽が顔を出していた。一面新緑に覆われる日もそう遠くはないだろう。  平尾台は、愛媛県と高知県にまたがる「四国カルスト」

「地球の歩き方」の使い方

 今月初め、(株)Gakken社から『地球の歩き方・北九州市版』が発売された。1979年創刊以来すでに百数十タイトルを超える大ヒットシリーズだが、国内の市版としては全国初となる。地元住人にとっては興味津々。早速入手した。 あとがきには次のように書かれてある。  まさにその通り。2年半前に北九州に引越してきた愚生にとっても、想像のナナメ上を行く驚きの日々がずっと続いている。 ***  『地球の歩き方』は若い頃随分と世話になった懐かしい本のタイトルである。 1979年出版

見納めの秋

 北国からは雪の便りが届いた。北九州ではあと数日紅葉が見られるというところまできた。冬はもうすぐそこだ。 秋の見納めに、普段はあまり訪れない市内の公園を歩く。ここでは広大な大企業所有地の一部を一般に無料開放している。湖のような工業用貯水池の周囲に自然の森が広がり、その中を湖岸に沿って歩くことができる。 気温が低い湖畔近くのモミジやイチョウが、秋の柔らかい光を受け静かに色づいていた。道端の小さな草木も、季節の移り変わりに身を委ねるようにひっそり紅葉している。 野鳥たちは冬に備

近所の紅葉散歩

 全国的に気温が低くなり、北九州でも朝晩の冷え込みをひしひしと感じるようになった。夏からいきなり冬になったという声も聞こえてくる。近所の街路樹や公園にあるイチョウ、モミジバフウ、メタセコイアなどの樹々が今週になって急に色づいてきた。毎朝同じ樹を見ていると、一日経過するだけで、随分と色が変わっていることに気づく。季節の移り変わりがとても早いとあらためて思う。 気温の変化は当然、人にも影響する。親族の者が、突然の寒さの襲来と同時にぎっくり腰となった。数日間連続してヒーリングして

日野江植物公園のモミジ

 訪れる度に、麓から小高い山の上まで続くこの広大な公園が、元は個人経営の植物園だったということにいつも驚く。今は北九州市が運営し、造園業者が管理するが、通常の植物園とは随分と趣きが異なり、個人宅の庭の延長のような手作り感が今でも色濃く残っている。 傾斜地に造られた迷路のような小道は、階段や坂が多く、広葉樹林の中をいくつも枝分かれしながら先の見えない森の奥へと続く。晴れていれば、どこを歩いても木漏れ日がきらきらと美しい。子供の遊具施設がないこともあって、訪れるのはほとんど植物

英彦山大権現もみじ庵の紅葉

 福岡県では、山間部で紅葉が始まった。 九州に転居してから3度目の秋。まだまだ知らない紅葉の名所と呼ばれる場所がたくさんある。英彦山(福岡県田川郡添田町)の麓にある「英彦山大権現もみじ庵」は昨年夏に一度前を通りかかったことがあるが、紅葉の季節としては今回が初めてのこと。 北九州から車で田舎道をひた走ること1時間半。英彦山の手前、渓谷が深くなってきた辺りにある駐車場に車を停め、徒歩で谷間の河原へと下ってゆく。ものの数分で入り口に到着。ところが、まだ6~7分の色づきでしかない。し

ススキ心と秋の空

 透明な青空。湧き上がる白雲。風になびくススキ。 日本の秋の空にはススキがよく似合う。 青色と黄金色とのコントラストが、よりいっそうそれぞれの美しさを際立たせている。どちらか一方が欠けても、どこか物足りない。背景に月があるのもいいが、それだとススキがシルエットだけになってしまうので、明るい日差しの下で見る方が好きだ。 北九州市北東部に広がるカルスト台地「平尾台」は、秋になると見渡す限り一面ススキに覆われる。先日訪れた時は、まだ始まったばかり。明るい日差しを吸い込んで、銀色に

門司港黄昏散歩

 北九州市北端にある関門海峡の街「門司港レトロ」では、今月から来年3月まで「イルミネーション2023門司港レトロ浪漫灯彩」が開催されている。 日暮れと共に始まる歴史的建造物のライトアップと、港を囲む街路樹のイルミネーション。それらが港の海面に映り込んで揺れる無数の光模様が加わり、街の風景をよりいっそうドラマティックに彩る。 壇ノ浦の闘い、武蔵と小次郎の巌流島の決闘、下関戦争(1863∼4年、長州藩とイギリス・フランス・オランダ・アメリカの列強四国との間に起きた武力衝突事件)

夏の日々は走馬燈

(文700字 写真36枚)  朝の冷気を感じふと振り向けば 過ぎ去りし夏の日々は走馬燈のよう ついこの前まであったはずの強烈な光と熱は もはや何処へともなく退散してしまったのか そう思うと何故か急に名残り惜しくなる 花々から一斉に解き放たれた極彩色 甘い蜜の芳香に群がる虫たちの乱舞 嵐の翌朝の清々しい光と静寂のコントラスト 夕空に悠然と湧き立つ紅色積乱雲 刻々と薄れてゆく記憶の中から 鮮明に焼き付いているのは 降り注ぐ光と雨が 大地に眠る命の炎を呼び覚まし 生きとし生け

神の依り代

(文2000字 写真30枚)  先日佐賀県唐津市の唐津湾沿いを車で走っていると、突然目の前にどこまでも続く松林が現れた。 「虹の松原」と名付けられたこの広大な森には、幅約500 m、長さ約4.5 km、面積約216 haに、100万本ものクロマツが植栽されている。 17世紀初頭、唐津藩藩主寺沢広高が、新田開発の一環として自然林から松に植え替えて、防風林防砂林としたのが始まりとのこと。 静岡県「三保松原(約3万本)」や、福井県「気比の松原(約1万7千本)」と並ぶ日本三大松原

夏色輝く

(文1500字 写真60枚)  夏が来れば思い出すこの言葉。しかしこうも暑い毎日が続くと、心中の雑念を打ち払うことは叶わず、眩い夏色輝く風景の何処かに、この境地へ誘うような涼し気な静寂がないものかと、ついつい山水の地を彷徨ってしまう。  この有名な故事成語の語源は、詩人杜荀鶴の漢詩「安禅は必ずしも山水を須いず、心頭を滅却すれば火も自ら涼し」(安らかに座禅を組むために、必ずしも山水の地へ出かける必要ない。心中の雑念を打ち払えば火の中であっても涼しく感じる)。 この言葉を有

水面

 風のない響灘は 遥か遠く見渡すかぎり湖のよう 誰の足跡もない砂浜には おびただしい数の 黄や黒や赤や白の貝がらが きれいに形を留めていたり 原形が分からないほどに砕けていたり 繰り返し打ち寄せては 引いていく波にもまれながら やがては波に乗って大海原へと旅立ち 生まれ故郷に舞戻るその時を待つ 囁くような波の音 打ち寄せる柔らかな泡粒 岩場にしがみつく生き物たち 打ち上げられた海藻 太古から移動しつつある岩礁 大陸から渡ってくる涼し気な海風 数十万年もの時の流れを経て 今

陽は沈み月輝く

夕暮れ散歩に御一緒いただきありがとうございます

明日は晴れ

 昨晩は嵐のような強い雨風の北九州。 午前中にやっと雨は止み、午後は曇り空が続く。 気温は上がらず、長袖シャツがちょうどいい。 今日は夕陽を見ることはないだろうと思いながらも夕方から響灘を目指す。 ただ夕暮れ時の鉛色の海が見れたらそれでいい。 響灘は依然として荒れ模様。 風は強く波は高い。 日没時刻の10分前、突然空の色が変わり始めた。 灰色の雲に覆われていた西の空から光芒が差した。 1分だけの光の乱舞。 輝く水平線。 しかしそれはあっという間に消えてゆき、再び元の