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ルパン三世の演技はどうあるべきか。

昨夜テレビで3DCGのルパン『ルパン三世 THE FIRST』を見ました。

ストーリーはまあ置いといてw、CG全体の出来は意外と悪くなかったのですが、演技が・・・ルパンに関して言うと『カリオストロの城』やら過去のルパンのコラージュみたいなツギハギ演技になってしまっていて、1人の人物として全く成立してなかった。残念。
広瀬すずが声を当ててるヒロインは『リメンバー・ミー』を参考にしました!っていう演技でw・・・いや~キャラごとに別の作品の演技を参考にしたりしたら、これ人物同士の芝居の間がかみ合うわけがないんですよねー。順番に台詞を言ってるだけの芝居になってしまって。

日本の3DCG映画は低予算なりに頑張ってるとも思うのですが、演技(モーション&表情)に関してはまだまだ難しいですねー。クオリティを上げようと頑張る時に「過去のなにか」を真似てしまう・・・だから当然演技が古臭くなってしまう。

山崎貴監督はインタビューで「いろいろな点で『カリオストロの城』から逃げようとしていたんですが、どうしても“カリオストロ愛”が漏れでてしまいました(笑)」と語っていたらしいですが、どうなんでしょう。
新しく3DCGのルパンを立ち上げて「THE FIRST」=第1作目なんてタイトルを付けたんだから、過去のルパンの演技のもの真似なんかしないで、もっと今の時代にあった新しい『ルパン三世』を作って欲しかったですねー。

というわけで、今回はルパン三世の演技はどうあるべきか?について考えてみたいと思います。

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ルパンの演技というと、目黒のジンギスカン屋で飲みながら某映画監督と「ルパンの演技はどうあるべきか!」について喧嘩寸前の大激論になったことを思い出すんですが(笑)、ルパンの基本的な演技のラインって3種類あるんですよね。
それは①第1シーズンの緑ジャケットのルパンと、②第2シーズンの赤ジャケットのルパンと、③映画『カリオストロの城』のルパンです。

第1シーズン(1971-1972)の緑ジャケットのルパン三世は、60~70年代の映画スターっぽい「ワイルドでギラギラした、熱い」演技をしています。

この時代のルパンは愛車メルセデス・ベンツSSKを乗り回し、愛用拳銃ワルサーP-38や爆弾でバンバン人も殺すしw。熱い戦いを挑んでくる銭形警部の挑戦にのって、ルパンも銭形以上にワイルドに、熱くなってバトルします。

第2シーズン(1977-1980)の赤ジャケットのルパン三世は、「ユーモラスで軽い、熱くならない」演技をしています。

この時代のルパンは銃は撃っても人は殺さないし、熱く戦いを挑んでくる銭形警部をユーモアたっぷりにかわしまくりますね。トムとジェリーみたいに逃げまわって、緑ジャケットのルパンと真逆でけっしてワイルドになったり、熱くバトルしたりしないんですよ。
むしろ銭形警部の熱さを、ちょっと恥ずかしがってすらいたりする。

ルパン三世のキャラ設定は同じなんですが、演じる俳優が違うというか、演技が全く違っているんですね。これはなぜそうなってしまったのでしょうか。

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「ワイルドでギラギラした、熱い」から「ユーモラスで軽い、熱くならない」への大きな演技の変化。スケベで飄々とした大泥棒という基本ラインは一緒なんですが、演技が全然変わってしまって・・・で大ヒットしたんですね。これはなぜこうなったのか。

第2シーズンは「ルパンを犯罪者として描かないで欲しい」というスポンサーの意向があったとか色々事情もあったらしいんですが、まあそれはストーリーの話。
演技の話でいうと、これは時代が求める「かっこいい男の演技」が、60年代から70年代前半までの「ワイルドでギラギラした強い男」から、70年代末から80年代には「ユーモラスで軽い強い男」に変化していったのが原因だと思います。

分かりやすく説明すると、これってカンフー映画のスターが、非情なブルース・リー(『燃えよドラゴン(1973)』)から、ユーモラスなジャッキー・チェン(『酔拳(1978)』)に変わっていったのと時期がほぼ一緒なんですね。

そして松田優作の演じるキャラクターが熱いジーパン刑事(『太陽にほえろ!(1973-1974)』)からユーモラスな工藤俊作(『探偵物語(1979-1980)』)に変わっていったのとも時期がほぼ一緒です。

70年代にあんなにみんなが夢中になった「熱血」が80年代にはいるとダサい!と言われて、『巨人の星』などのスポーツ根性漫画が笑いのネタにされたり。同時に漫才ブームが始まって、ツービートやB&B、ザ・ぼんちなどのお笑いタレントがアイドルになった時代。

そう、カッコいい男のイメージは「ワイルドでギラギラ、熱い」から、「ユーモラスで軽い、熱くならない」へ・・・そんな時代の空気を反映して、ルパン三世は巧みに緑ジャケから赤ジャケへのリニューアルをしてゆき、その軽さで新たな人気を獲得していったんです。

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これは「007シリーズ」も同じです。
やはり同じような感じでジェームズ・ボンド役も、「ワイルドでギラギラとした、熱い演技」のショーン・コネリー(1962-1972)から、「ユーモラスで軽くて、熱くならない演技」のロジャー・ムーア(1973-1985)へキャストがチェンジされていて、どちらもそれぞれの時代を反映して大好評を博しています。

これもまた「ジェームズ・ボンドは絶対ショーン・コネリーしかありえない!派」と、「ロジャー・ムーアのボンド大好き派」が激論を重ねるヤツですよね(笑)。ちなみにボクはロジャー・ムーア派ですがw。
でも激論しても仕方ないんです。だってそれぞれの時代にはそれぞれのボンドがピッタリきてたんだから。優劣なんかないんです。

その後ジェームズボンド役はしばらく迷走するんですが、2006年の『007カジノロワイヤル』からはダニエル・クレイグが「細マッチョで繊細な演技」の007を演じています。…しかし今気づいたんですが、ダニエル・クレイグの007ってもう15年目に突入しようとしてるんですね。ショーン・コネリーやロジャー・ムーアよりも長いんだー。ほえー。

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現在の「細マッチョで繊細な」ダニエル・クレイグの007の演技が、それまでの007と大きく違っているのは、ショーン・コネリーやロジャー・ムーアの007は本音を全く明かさずにポーカーフェイスで飄々と活躍するスーパーマンだったのに対して、ダニエル・クレイグの007は本音をチラチラ覗かせながら飄々と活躍するひとりのエージェントに過ぎないところです。 等身大の007・・・とにかく傷つきやすい!

007の「強さと弱さ」…それが表の顔と裏の顔みたいな二面性として演じられるのではなく、この2つの顔が「行動と反応」としてほぼ同時に演じられる。

・・・このあたりが非常に21世紀的というか、現代的な演技なんです。これはショーン・コネリーやロジャー・ムーアの演技とは全く違う。
たとえば『アイアンマン』でロバート・ダウニー・Jr.もそんな感じに、スーパーヒーローであると同時にひとりの傷つきやすい人間であるトニー・スタークを演じていましたよね。

大傑作『007 スカイフォール』では、007の悲劇的な幼少時代や、上司であるMを母親代わりとしてじつは愛憎入り混じる感情を持っていることなど、超複雑な芝居をダニエル・クレイグがガンガン演じていて・・・映画館でいま自分が見ているこの映画は本当に007なのか?と(笑)思いながら惹き込まれていました。

60年代にはショーン・コネリーが愛され、80年代にはロジャー・ムーアが愛され、そしていま21世紀にはダニエル・クレイグが愛される・・・というように、時代によって観客が求め・惹き込まれる要素が変わるために、脚本のあり方が変わり、結果演技表現が変わる。
007は時代の流れと共に俳優と演技を変えることによってリニューアルを重ね、人気シリーズとして生き残ってきたんですね。

さて、ここで『ルパン三世』に話は戻ります。

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さて、ここで『ルパン三世』に話は戻ります。

70年代ルパンから80年代ルパンにリニューアルに成功した『ルパン三世』シリーズは、その後いったいどうなったのでしょうか?

・・・これがじつは70年代ルパンに戻ろうとしたり80年代ルパンに戻ろうとしたり、行ったり来たりを繰り返しているんですね。まったく時代を先に進めていない。

たぶんルパン三世役の声優・山田康夫さんが1995年に亡くなった時がリニューアルすべき一番のタイミングだったはずだと思うんですが、ここで新しいルパンの声優に起用されたのは・・・ものまねタレントの栗田貫一さんという、過去のルパンをコピーする能力に長けた方だったんですよねー。
21世紀の新しいルパン三世は、生まれるチャンスを失ったんです。

でもホント、声優さんだけじゃなくて『ルパン三世』という作品自体をそろそろ今風にリニューアルさせてみてはどうなんですかねー。それこそ3DCGとかで、全く新しい表現で「2020年代のカッコいい男のイメージ」満載の新しい『ルパン三世』像を作ってみて欲しいなあ。

いや、無理じゃないですよ。マーベルとかDCとかすごい頑張ってそれをやって凄い成果を上げてるじゃないですか。『スパイダーマン』もまったくフレッシュな今の若者の気分を反映させるキャラクターに生まれ変わったし、なにより『ジョーカー』・・・アーサーというちっぽけな人物を描写することで今のこの世界の暗部そのものが描かれてしまうような、すごいタイトルも飛び出しましたよね。

できますよ。「2020年代のカッコいい男のイメージ」ってどんなのか?っていうのをよく考えてルパン三世と融合させないとですけどねー。
誰だろ?2020年のカッコいい男性像って・・・ヒカキン?(笑) 大谷翔平? 羽生結弦? 藤井聡太? 米津玄師? 星野源? 呂布カルマ? ムロツヨシ? 有吉弘行? マツコ・デラックス? 小泉進次郎? ひろゆき? 前澤友作?(笑)・・・いやいや、トランプ大統領のイメージがスーパーマンと結びついて『ザ・ボーイズ』のホームランダーが生まれたんだから、できるできる。

2020年代の天下の大泥棒・ルパン三世はどんな人物か・・・きっとスーパー大泥棒でありながらナイーブな心を持った男なんでしょうね。

だいたいこのモノに価値が無くなった社会に於いてモノを盗むってどういうこと?それとも盗むものはモノじゃないのかな?・・・あともしかしてルパン一世やルパン二世に対するコンプレックスとかを持ってたりするのかなw?・・・そういう超人間くさいどうしようもない部分を持ってるルパンがいいですよね。『007 スカイフォール』みたいに。

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といった感じで、『ルパン三世 THE FIRST』を観て何とも言えない気持ちになった勢いでw、今回も長文になってしまいました演技ブログ「でびノート☆彡」、最後までお付き合いくださってありがとうございました。

そうそう。
『ルパン三世』には基本的な演技のラインが3種類ある!のくだりの③「映画『カリオストロの城』のルパン」の演技に関して。それってどんな構造の演技なのか。今回のテーマから少しずれる内容だし、思わぬ長文になっちゃったのでさりげなく割愛したんですけどw・・・きっとまた別の機会に書きますね。あと3Dアニメの演技に関してはまた書きたいと思ってます。

それではまた!

小林でび <でびノート☆彡>



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