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『ザ・ボーイズ』SNS時代のスーパーヒーロー演技。

米ドラマ『ザ・ボーイズ』!夢中になって2シーズン、一気に観ちゃいましたw。 ホームランダー、ストームフロント、クイーン・メイヴ、Aトレイン…どの登場人物もみんな大好き。全員のファンになっちゃうくらい人物描写が魅力的で新鮮なんですよ!

基本『アベンジャーズ』みたいなスーパーヒーロー物なんですが、俳優たちがいかにもスーパーヒーローですって感じの「見得を切る」もしくは「ナルシスティックな」演技で演じてないんですよ。
『アベンジャーズ/エンドゲーム(2019)』なんかはかなりリアルな演技でしたが、それでも登場人物たちは普通に不必要な見得を切っていたしw、ナルシスティックな演技で緊急時にのんびり心情を語ったりしていましたw。
でも『ザ・ボーイズ』の演技はもっと現実の人間的です。

彼らが「見得を切る」のは人目がある時だけです。一般人のスマホ撮影の動画がSNSに上がっちゃうので、ちゃんとヒーローっぽく振舞わないとならないんです(笑)。つまりあのヒーローっぽい動作にもちゃんと動機を与えて演じているんですね・・・まさに「SNS時代のスーパーヒーロー」。

しかも彼らの正義のチーム「セブン」内にはヒエラルキーがあって、ボスであるホームランダーに手柄を差し出すような戦い方を積極的にしないとパワハラにあったり、チーム内セクハラがあったり・・・ほかにもジェンダーの問題、分断の問題、毒親の問題など、2020年の現代人の苦悩がふんだんに盛り込まれていて・・・その中で右往左往する彼らの演技が素晴らしくリアルなんです。
このアクションとリアクションが複雑に入り乱れた芝居・・・ホームランダーを例に見てゆきましょう☆

さあこのスーパーマンとキャプテン・アメリカを混ぜたような男(笑)・・・ホームランダー!

スーパーマンにしてもキャプテン・アメリカにしてもバットマンにしても、伝統的なアメリカのヒーローっていつも胸を張ったポーズで自信満々にふるまうじゃないですか。 
彼、ホームランダーも胸を張って自信満々に行動して見せてるんですが、じつはそれは自分の頼もしさを世間にアピールしてるだけで・・・つまり自信満々なんかじゃないんですよ、彼は。

素の彼は不満いっぱいで基本イライラしています。寛大なポーズをとっていながら実は自己中心的かつ他者に対して冷酷で、それでも自分で自分のことを誰よりも優れていて良い人間だと思っている・・・そういう人よくいますよね(笑)。「トランプ大統領を参考にして演じた」とホームランダー役の俳優アントニー・スターはインタビューで公言していますw。

さて、これまではこういう複雑な人物は「二面性」の演技で演じるのが通例だったんです。「いい人に見えるけど、じつは冷酷」とか「強面に見えるけど、じつはさびしがりや」とか「乱暴者に見えるけど、じつは捨て犬に餌をあげる優しい人(笑)」とか。 
これは「人間には表の顔と裏の顔があって、表の顔はウソで裏の顔が本当のその人物だ」という構造で人物を把握する手法です。 たいていその裏表がシーンごとで分かれてるのでひじょうに演じやすい。

ところがこの「二面性」の人物描写法には致命的な欠点があるんです。
たとえば『北斗の拳』とか『ドラゴンボール』とかの強敵キャラが負ける時に急に二面性を発揮していい人になっちゃったりするじゃないですか(笑)で、仲間になるとなぜか急にキャラとしての魅力が無くなるじゃないですか・・・あれです。
いい人になった時点で「悪そうだった表の顔はポーズだった」ことになってしまうので人物全体の魅力が半減しちゃうんですよ。 本当は悪くないシンやサウザーなんてもう怖くないし、映画版でいいヤツになっちゃったジャイアンにまた追っかけられてももうぜんぜん怖くないですよね(笑)魅力半減なんです。

ところがホームランダーは彼の事情が明かされても怖さが無くならないんです。 彼の弱さやウエットな心が露呈すればするほど、彼の厄介さは増してゆくw・・・それは彼が「二面性」で演じられていないからです。ホームランダーのもつすべての面は偽りではなく彼の一部なので、いくら別の面が明かされてもキャラが単純化されず、逆に複雑化してキャラの深みが増してゆくのです。

そもそも人間って「裏と表の二面」なんて単純な構造じゃないじゃないですか。1人の人間は表裏だけじゃなくてもっともっとたくさんの顔を持っていますよね。職場や学校でのその人、親や兄弟と一緒の時のその人、趣味の仲間と一緒の時のその人、上司と飲みに行った時のその人、部下と飲みに行った時のその人、恋人と一緒の時のその人、お店とかで店員にクレームつける時のその人、インスタでのその人、Twitterでのその人・・・相手がだれか?場所がどこか?によって人の人物像がころころ変わるのはあたり前なんです。人間は社会的生物なので。

でもそんな複雑さを演じる演技法がずーっと無かったんです。

だからキャラクターってずっと「二面性」で描写されてきたんですが、2010年代にようやく「環境に対して様々に対する反応する人物を演じることでキャラを表現する」という新しい演技法が出てきて(その最たるものが『ジョーカー』のホアキン・フェニックスの演技)・・・『ザ・ボーイズ』のホームランダーたちはまさにその新しい演技法でたくみに演じられているのです。

一般大衆の前での頼もしいリーダー的雰囲気のホームランダーと、セブンの仲間と一緒の時のパワハラ的なホームランダーと、マデリンと一緒の時の少年のような瞳のホームランダーと、チンピラ犯罪者と対峙したときの腐った瞳のホームランダーと、それらはどれもほぼ別人格と言ってもいい存在なのに、でもそれら全てがシームレスに彼の中で繋がっていて、対象を切り替えることで、高速で切り替えることができるんです。
ちょっとその演技を見てみましょう。旅客機がホームランダーの過失で墜落してしまうシーンです。(↓ちょっと長いですが)

複雑、そして速い・・・高速でバンバン人物像が切り替わってゆきますよねー。

「いやいや!ヒーローは君たちだよ!よく生き残った。すばらしい」というホームランダーからハイジャックされた旅客機の乗客たちへの賛美ではじまるこのシーン。まずは例のトランプ的な頼れるリーダーとしてのコミュニケーションですね。そこからクイーン・メイブに対する彼氏みたいな妙なノリがあってw、すぐにハイジャック犯に対しての冷酷な対応・・・相手によって素早く態度を変えるだけでなく、人格までコロコロ勝手に切り替わって、しかもそれがシームレスにきれいにつながってる!

クイーン・メイブ単体に対する態度も秒刻みでどんどん変わっていきます。それは旅客機を不用意に大破させてしまったのは自分なわけで、それをメイブに見られて、彼にとってメイヴの意味がどんどん変わっていくんです。愛しい人→自分のミスを見た仲間→正論で自分に盾をつく部下→非常時なのに情に駆られて無茶を言う聞き分けのない女・・・途中で「わおわおわお」とかユーモアを発揮しますよね、恐ろしい(笑)。あれって人間が親しい人間に冷酷さを発揮するときアルアルですよね。ふと弱気になった時にイラっときて急に男らしさをアピールしたくなる、じつにドナルド・トランプ的な瞬間です。ついさっきまで優しい彼氏ヅラしてたのに。。。

そしてラスト、墜落してゆく旅客機を醒めた目で見ているホームランダー・・・この5分間の短いシーンの中でどれだけの人格のチェンジをしながら演じていたことか。そしてその優しさも頼もしさも癇癪起こすところも冷酷さも、それら全人格をひっくるめてこの人、ホームランダーなんです。

じつは原作のコミック版ではホームランダーはもっとわかりやすく「悪」として演じられているんですが、ドラマ版のホームランダーはもっと複雑で、こういう猫の目みたいに人格がコロコロ切り替わるシーンがたくさんあります。アントニー・スター、最高☆


こんな感じでものすごくスピーディーに心理描写が進行して、しかも観客にそれがちゃんと伝わってる!魅力的に!というのが『ザ・ボーイズ』の演技の素晴らしいところです。
そう、まずとにかく複雑な心情が観客に伝わる速度が圧倒的に速い!だから心情を語るシーンで物語のテンポが落ちない、ダレない。 そしてコメディとの相性が超よいんです!

スーパーヒーロー物ってリアルに映像化しようとすると『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』や『X-MEN』シリーズみたいにどうしても暗くナルシスティックになっちゃって、芝居のテンポもゆっくりで退屈になりがち・・・そこがこの『ザ・ボーイズ』は人物の心理描写のディテールがたっぷりなのに、展開が早くてエキサイティングなんですよね。

そしてキャラの魅力を観客に伝えることに長けている・・・これが80年代に大流行した「キャラクター演技法」のヴァージョンアップ版「21世紀型の新しいキャラクター演技法」とボクが名付けたい理由です。

ああ。ストームフロントに関してもいろいろ書きたかったのにもう字数が・・・ササッと書いちゃいますね。
ストームフロントってシーズン2後半ホントに怖ろしかったんですよね。今までサノスとかアメコミ映画の悪役を、魅力的と思っても怖ろしいとは思ったこと無かったんですが、彼女は怖ろしかったなあ。それは彼女が場を引っかき回しながらホームランダーを手玉に取って自分の持ち駒にしてゆく件とか・・・あーこういう人いる。こういう人は本当に制御不能で厄介で、こういう人には太刀打ちできないよねー・・・と現実的な存在みたいに感じたからです。
ストームフロントは大ボスなのに見得を全く切らずにスッと相手の心に入ってくる。「どうしてそんなつまらないことで怒ってるの?」とか言いながら。
いや~厄介、大嫌い。でもそこが大好き、ストームフロント(笑)

そう、われわれのまわりに実在する厄介な人物をついつい連想させてしまうところが、この『ザ・ボーイズ』のキャラクターたちのリアル感ですよねー。

5年位前に、秋葉原のイベント会場で『映画の演技の歴史』の講演をしていたとき、質疑応答で「現在までの演技の歴史は理解できました。では未来の演技はどのように変化・進化してゆくんですか?」と質問された時があって、「知りません(笑)」と答えたんですが、「そう言わないで。予想でいいので答えてください」と言われて、その時その場でボクが考えて答えたのは「キャラの演技とリアルな演技が20年ごとに交互に来ているので、その流れで言うとリアルなコミュニケーション演技の時代の次の20年はキャラクター演技の時代になりますねー。ただそのキャラクター演技は50年代のものとも80年代のものとも違っていて、2010年代のコミュニケーション演技の技術を踏まえたうえでのまったく新しいキャラクター演技法になるんじゃないかなあ」でした。

で今年『ザ・ボーイズ』を見た時、あ、ついに来た!と思ったんです。

この「21世紀型の新しいキャラクター演技法」がどんな発展を遂げるのか、『ザ・ボーイズ』のシーズン3も楽しみですね。『ザ・ボーイズ』シーズン1&2をまだ見たことない人はアマプラで観れますのでこの年末年始にぜひ。(↓このリンクから飛べます)

さてさて2020年最後の演技ブログも長文になってしまいました💦。最後まで読んでくださってありがとうございます。 

2021年もまたいろいろ映画ドラマの演技について書きたいのでまたヨロシク。ではではよいお年を~☆彡

小林でび <でびノート☆彡>

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