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【能動的三分間#9】ふるさとを元気にする仕事

【能動的三分間】9回目は山崎亮「ふるさとを元気にする仕事」(ちくまプリマー新書)です。

私のふるさともいわゆる田舎です。農村というほどではないですが、商店街はシャッター街と化し、優秀な若者ほど都会へ出ていってしまうような街です。帰省するたびに「もっとどうにかならないものか」(いつか自分がどうにかしたい)という想いがあり本書を手に取りました。

著者の山崎亮さんは恐らく日本初の「コミュニティデザイナー」です。デザイン事務所「studio-L」の代表で、地域再生を「仕事」にしている方です。「コミュニティデザイン」とは何かということについては、
・ハードではなくソフトで街の課題を解決すること
・まちづくりコンサルのような一方的なマスタープランの提示ではなく、
 街おこしの仕組みを考えること
・その仕組みは住民達だけで自走できる仕組みであること
であると書かれています。要は行政主導ではなく住民自ら考え、持続可能な街の活性化を住民自身で主体的に行えるように手助けする活動です。

本書のタイトルは至ってシンプルなのですが、山崎さんの仕事の紹介だけでなく、日本社会の構造的問題、日本人の働き方に対する問題意識、本を読むことの重要性など、山崎さんの様々な知見に触れることができます。本書の出版の動機として、”若い世代の人たちと一緒に、ふるさとを元気にするためには何が必要なのかを考えてみたい”と書かれていますが、コミュニティや地域再生に興味がなくても「大人の教養書」として十分すぎるほどに読む価値がある本でした。

【日本社会の構造的問題に関して】
”人口の年齢的偏在”(高齢者が増え、それを支える若者が少ない状況)と”人口の地域的偏在”(生産年齢人口が大都市に集まり、地方に定住しない状況)が人口減少社会日本の問題です。これにより、日本の原風景とも言える中山間離島地域の過疎化が進み、限界集落は増える一方です。

この点に関して政府も勿論何も対策を打っていない訳ではありません。「地方創生大臣」なるポストが作られ、人口減少に歯止めをかける、地方へ企業を誘致し地方で雇用を創出する、といった施策を行うわけですが、そこへ対する山崎さんの指摘は大変鋭いものです。


”一九六〇年代は、人口比率で都市部が農村部を上回ったタイミングです。 そして、会社に就職することが日本人の働き方のスタンダードといわれるようになった。・・・そして、日本中のふるさとから若者が減り、都市部の人口増加に一層拍車がかかった ─ ─。  現在でも首都圏の通勤ラッシュは、日本ならではの光景として外国のメディアにしばしば取り上げられます。身動きもできないほどの満員電車に揺られて会社に通い、お昼休みには行列に並ばなければ食事にもありつけない都心の過密ぶりに遭遇するたびに「これが豊かな生活なのだろうか?」と僕は感じてしまいます。”
人口の急激な増加(特に都市部において)は高度経済成長期に始まった歴史の浅い出来事であり、人口が減り始めた現在、山崎さんは無理に拡大戦略を取らずに人口縮小社会に適応していくことの方が自然なのではないかと考えています。

【日本人の働き方に対する問題意識について】
前述したように、日本人がこぞって農村から都市部へ出て行き、会社に「雇用される」生き方を選択するようになったのは戦後高度成長期です。「モノ」がない時代に自動車や家電製品などの「モノ」を生産して豊かになるために若者が都市部に集められた訳です。
”産業の急速な発展と多様化に呼応して会社がどんどんつくられるようになり、時代が昭和になる頃から終身雇用や年功序列を前提としたサラリーマン という働き方が増えていきました。その仕組みのおかげで国力が高まったことはたしかです。しかし、人口も経済成長も、右肩上がりの時代ではなくなった。すでに時代に合わなくなってきたサラリーマンという働き方を、そのままスライドさせていまの若い人たちに当てはめるのは、相当リスクが高い のではないだろうか。”

自分自身、社会に出てよく分かるのですが、会社で働くということは全ての「価値尺度」がお金になるということです。会社に利益をもたらした人が評価され、利益の対価として、給与を受け取る。サラリーマンの価値尺度がお金に偏りすぎていることを山崎さんは危惧しています。
”マネーゲームには勝者と敗者がいるし、モノにあふれた社会の一方には破壊され続けてきた環境がある。だからこそ、これからは金額だけで評価されない働き方というものにも目を向けていかなければならないと思うのです・・・働きを金額(給与)だけで評価しないのであれば、他にどんな尺度 があるのか?  ここまで読んでくれた人はすでに気づいていると思います が、それは「楽しさ」 に尽きると僕は考えています。”
地方であれば、雇われずに自分で仕事を生み出すことが容易になるといいます。本書では地方で活き活きと暮らす人々が紹介されていますが、オフィスと住居の賃料が合わせて6万円/月、という方の事例も紹介されています。山崎さんは「雇われるため」に人が都市部に集中している現状を時代錯誤だと指摘しています。

【本を読むことの重要性について】
本書を読んでいると、山崎さんの膨大な知見が「経験」と「読書」に裏付けられていることがよく分かります。様々な都市計画家、哲学者、思想家の著作の引用が散りばめられています。第3章「自分の未来をどう描くか」の中で、「本との付き合い方」という項目を設けているくらいです。オーストラリアの工科大学に留学中に読書の大切さに気付かされたと言います。
”机は卒業した先輩のものを譲ってもらいましたが、本棚がなかった。拾っ てきた板を組み立てて自分で本棚はつくりましたが、持っている本が少ない から中はスカスカです。ところが、同級生たちは天井まで届きそうな大きな 本棚を用意していて、みんなものすごい量の本を持っていた。何かを調べたいと思ったときは、同級生たちに質問すれば、「それならここに書いてある よ」と言って誰かが役に立つ本を貸してくれたものでした。”

ご紹介すればキリがないですが、山崎さんの知識量に裏付けされたものすごく面白く為になる知見がいっぱい本書には詰まっています(下記一例)。
・成長戦略ではなく人口縮小時代に合わせた適応、という考えはイギリスの歴史家トマス・カーライルの著書「衣装哲学」に影響を受けている。
・地域の繋がりが弱まった原因の一端に、日本人の地域団結力を恐れた戦後GHQによる「町内会」の解散令がある。
・山崎さんの事務所「L-Studio」のStudioはスタジオのラテン語「ステュディオロ」(イタリア式庭園に造られる好きなものに囲まれて過ごす部屋の意)からきている。
・「経済」という言葉は「経世済民」(世を経め、民を済う)が語源であり、お金とは直接的に関係がない。
・労働には「楽しさ」という価値尺度が重要であるという考えはイギリスの社会思想家ジョン・ラスキンのが西洋的な工業化システムを批判したこと(断片化される働き方)に影響を受けている。

本書は日本のふるさとをこれからどのようにして活性化していくかということを主軸に、「日本のあり方」「都市のあり方」「働き方のあり方」「生き方のあり方」などを考えさせられる内容になっています。私がこれまで読んだ本の中でもかなりの良書です。大人の教養書としてぜひオススメしたい一冊です。




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