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#21 Sleep slowly.

「今日、この後予定ありますか?
無ければ帰って、ゆっくり眠ってください」


身体の限界を振り切ってしまったいつかの日、
施術台の上に座ってぼんやりしている私の腰にテーピングを施しながら、同い年の先生はそう言った。

「できたら眠る前にスマホは触らずに。
見るならホラーゲーム実況じゃなくて、お笑いとかコメディ映画とか、なるべく明るいものにしてくださいね。毎日、たくさん笑うといいですよ」

仕事中のアクシデント。激痛で歩けもしないくせに、職場の人らに私はなぜかずっとヘラヘラしていた。全然大丈夫です。口から真反対の言葉が勝手について出る。色々痛すぎてこっそり泣いた。

先生の前でも元気に振舞っていたつもりだったのに、すごく穏やかな、決して大きくない声で でもはっきりと〝毎日たくさん笑ってください〟と言われた。衝撃的だった。


思い返せば私はたまに、眠ることがすごく苦手になる時期がある。

なぜか叱られたような気持ちになって、家に帰ってすぐ毛布にくるまった。その日初めて会った人の〝ゆっくり眠ってください〟の一言で、びっくりするほど深く眠れたのをよく覚えている。

別にとりたてて悪いこともしていないのに、いつも誰かに何かに赦されたいと思って生きてきた。理由は自分でもよく分からない。朝も夜もないような生活を続けてきたある日突然、〝自分の為にゆっくり眠っていい〟と誰かに言ってもらえたのが、なんだかとても嬉しかった。

あれから数年たった今でも、眠れない日が続くと思い出す。もっと自分を大切にして、自分の為にしてあげる意識をもって。沢山笑って、って。

相手からしたら仕事の一環だけど、それまでの私の人生で出会わなかった言葉をたくさん教えてくれた人だった。

あれから性懲りもなくなんども身体を壊したし、なんども眠れない時期があったけど、あの先生から頂いた感覚がふと自分を助けてくれる瞬間がある。

すごく温かかった。柔らかかった。見たこともないような、鮮やかな季節を体感した。自分を大切にする努力をするだけで、世界は少しだけ優しく見えた。自分に優しくなれたら、誰かにも優しくなれる。

去年の8月12月にTwitterで毎日更新をしていたのは、2018年の春に人生で類を見ないほど季節の真ん中にいるのを実感できたので、その感覚を忘れたくないと思ったから。意識していないと自分の内側ばかり覗き込んで、季節がうつろっていくことすら忘れてしまうから。

涼しくなってから夏が恋しいなんて、散ってしまってから桜が愛おしいなんて、何だか少しもったいない気がして。

今年の4月、また毎日更新を始めました。春が好きだと思ったのは2018年だけだったけれど、今年の春もとても優しくて好きになりました。

毎日景色や感触や香りにふれて、言葉を一つずつ編むようにして、まるで宛先のないラブレターを書いているような気持ちで書いています。

誰かの言葉に傷つく日もある。傷つける日もきっと。言葉が好きな反面、なんの役にも立たないなと絶望に近い感覚を抱く日もある。

それでもなぜか、どこまで行っても切り離せない。文章を書くということ。

〝ゆっくり眠ってください、ほかでもない自分のために〟

今日はどんな一日でしたか?明日もいい日だといいですね。

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