見出し画像

親に土地が余っているから住まないかと言われたら

先日、親族と飲みに行ったとき相談が持ち掛けられました。曰く
・ずっと賃貸に住んでいるが、近隣と騒音トラブルになって引っ越したい。
・近くに住む妻の親から土地があるから住まないかと言われた。
・土地の1/2に妻の両親の居宅があり、残り半分に妻の祖父母が使っていた家屋が空き家になっているから使ってくれないかと言われた。
とのことでした。

相手の配偶者と同居なら悩みますが、彼の妻の両親も同居はむしろ望んでおらず土地だけ使ってくれればいいからという一見好条件です。

とはいえ、躊躇することもあるそうです。
その理由は
・空き家になっていた家屋は相当の年数が経っておりリフォームが必要
・子ども2人が中学校に入学してこれから教育費が増えそう
つまり、可能な限り出費は押さえたい様子です。

とはいえ、子どもも思春期真っ盛りで自分の部屋も欲しいだろうし、マイホームを買うよりは安く済むだろうからと、メリットデメリットをぶら下げてうんうん悩んでいました。

「お前ならどうする?」と尋ねられたので、答えてみました。

1 全体の総費用を見極めよう

まずはどれくらい掛かりそうかを想定します。
土地は彼の妻の両親のものであるため、かかる費用は建物だけです。しかも旧家屋をフルリフォームするとのことなので、新築するよりも価格は抑えられます。

フルリフォームの場合、100~120㎡の規模で、一戸建てだとおよそ1500~3000万円ほどのようです。
参考:フルリフォーム(全面リフォーム)にはいくら必要?リフォーム内容や築年数別の費用目安も紹介 | 住まいのお役立ち記事 (suumo.jp)

リフォームを行っているハウスメーカーのサイトを見ても新築価格の5~7割ほどの価格としているようで、親族周辺の新築の価格を見ると3000万円前後だったこともあり、その7割としてリフォームのみの費用としては2000万円ほどかかるようです。

これに、建物の所有権を移す登記費用や不動産取得税などの税関係、住宅ローンを借りることになれば事務手数料に引っ越し代もかかります。多めに見積もって200万円ほどになると見込みました。

合計で2200万円です。これをどうやって工面するか、躊躇している原因は費用の問題であることから、工面ができればリフォームすることに大きく傾くことになるでしょう。

2 お金を工面しよう

課題だったのが、まとまった貯金がないことでした。子どもの受験費用等を確保しているために、当分家を買うことはないと踏んで、住居用の貯金はなく、頭金と呼べるものはないようです。

また、引き続き、教育費がかかるという懸念から、今住んでいる賃貸の家賃以上に住居費を支払うのはなかなか厳しいとのことでした。そうなると、住宅ローンをうまく使っていくしかありません。

(1)所有権移転登記を行って住宅ローンを組む

現在は史上空前の低金利の時代です。もうすぐ潮目は変わりそうですが、まだまだ変動金利は驚くくらい安くなっており、paypay銀行は団信もついて、0.29%です。
参考:モゲチェック | 住宅ローンがどこよりもかんたんに選べるNo.1サイト。 (mogecheck.jp)

2200万円の住宅ローンの毎月返済額をシミュレーションしてみると、25年ならば毎月7.6万円の返済で、現在の家賃とも大きく変わりません。定年は過ぎてしまいますが30年ローンとすれば6.4万円と周辺の賃貸価格よりも安い値段となります。

また、現在の家屋の所有権は親になっているため、住宅ローンを借りる前に所有権移転をしておけば、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用も受けられます。

住宅ローン控除は年末借入金残高の0.7%です。今年の年末に2000万円の残高があったとすると14万円ほど、翌年の確定申告で所得税から控除されることとなり、13年の控除期間の総額では100万円以上の税金がバックされます。

一方で住宅ローンにも懸念はあります。一つは、マイナス金利解除の動きが出てきており、今後すぐにという訳ではないでしょうが、長らく下がる一方だった住宅ローン金利が上昇する可能性があります。
日銀「解除」接近で大手銀マネーに動き、マイナス金利預金が急増 (msn.com)

住宅ローンは税控除だけでなく、住宅ローン控除の要件を満たすために行う所有権を移転する手続きに伴って、不動産取得税や登録免許税などの新たな負担もあります。

加えて、住宅ローン自体にも、事務手数料や抵当権設定登記のための司法書士への委託料など、数十万ほどの費用が必要です。

ただし、住宅ローンに伴う負担は住宅ローン控除ほどの金額にはならないため、長い目で見れば、住宅ローンは活用したほうが良い制度だと思います。

(2)住宅取得資金にかかる贈与税

ただ、住宅ローン控除がいくらお得とはいえ、借金であることには変わりなく、大金を借りることにためらいがあるのも分かります。

また、リフォームの際に手付金や、中間支払いを求められる場合もあり、ネット銀行を中心とした住宅ローンは最終支払いの時のみ利用ができるタイプも多いため、初めにまとまったお金がない場合に、支払いが困難になる場合もあります。

親族の彼も、頭金(建設資金の2割)を支払うことはできないだろうとこぼしていました。

そういった際には、直系尊属から住宅取得資金のための贈与を受けることを視野に入れると良いと思います。
No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁 (nta.go.jp)

この制度は、通常であれば1年で110万円を超えた贈与をした場合に支払う必要のある贈与税が、子や孫が住宅を建設(または大規模な修繕等)を行う場合であれば、非課税になるというものです。

一般住宅でも500万円までの贈与は非課税となるため、親さえOKであれば、頭金に充てることも可能です。贈与を受け取ったら、翌年の確定申告の際に手続きをすれば、当該贈与は非課税となります。

一方でこの制度にも懸念点はあります。
一つ目は、多額の贈与であるため、贈与者側のキャッシュフローが悪化する懸念があります。親世代の資産状況が潤沢であればよいのですが、年金に頼った生活である場合、息子・孫のためと無理をして贈与をした場合、生活資金に支障が出ることも考えられます。無理をさせるのはよくありません。

また、直系尊属からの贈与に限られることから、妻の両親から自分に贈与があっても非課税の対象にはなりません。贈与ができる状態にあるのが、妻の両親だけである場合は、贈与を受ける場合、建物を共有名義とする必要があります。

細かいことを言えば、多額の贈与であれば、相続の際に他に兄弟から不公平だとクレームが出る可能性もあります。ただ、税金がかからずにキャッシュが手に入る制度であるため、利用を視野に入れて良いのではないかと思います。

(3)その他考えられること

相続時精算課税制度も活用ができます。これは、親からの贈与を相続の際に精算することを選択するというもので、2500万円までの贈与であれば、その時点での税金はかかりません。
No.4103 相続時精算課税の選択|国税庁 (nta.go.jp)

上記の住宅資金贈与の特例とも併用ができるため、3000万円まで(長期優良住宅等なら3500万円まで)無税で贈与も可能なのですが、さすがに親世代のキャッシュフローが大幅に悪化するので、この選択肢をとることは困難でしょう。

親世代がまだ働いているのであれば、親子リレーローンといった方式もとることができます。事務手数料は倍になりますが、こちらも、毎月の支払額を抑えたいまたは教育費のために初めの数年の支払いが厳しい彼のようなケースに向いているかもしれません。
親子リレーローンとは?メリット・デメリットとよくある質問 | みずほ銀行 (mizuhobank.co.jp)

3 数時間説明した結果は?

上記の制度やら税関係やらをスマホ片手に数時間説明し、建築費に対してお金の工面も色々な制度を使えば何とかなりそうではないかとして、「俺なら買う」と伝えました。

その反応としては
「まあでも、やっぱり『自分が住みたい!』と心から思えるかというと、そうでもないんだよな。」とポツリとこぼしました。

そうなんですよね。
・インフレ時代において、住宅はリスクヘッジになる。
・子どもは可愛いし、自分の部屋が持てたら喜ぶに違いない。
・妻の両親も近くに可愛い娘が来たら嬉しいだろう。

頭で色々な買う理由は思い浮かぶのだけれども、心が振れないと、自ら借金して大金を出して、家を買おうと決心はつかないのだと思います。
「それは仕方ないね。」と返しました

制度面などで新しく知ったことも色々あったし、こうして話を交わしたことで、メリットデメリットが整理ができて本当に良かったと言ってもらえ、「良かったらnoteのネタにして」とも言われました。

今回、FPの真似事ではないですが、旧知の親族のために相談に乗った形となりました。たまに、こうしたことがありますが、公務員の傍ら、無料で誰かの力になれるのは、退職後の営みの一つの候補として、悪くないなと思います。

この記事が参加している募集

お金について考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?