中澤一棋

フランツ・カフカ偏愛アカウント。『カフカと私』主宰。カフカと日常について書きます。

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フランツ・カフカ『息子たち』の生成過程

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    • 真正セコハン娘たちの顕揚(1) 

      She fell... /she smiled... /i smiled... /i don't know why...  Ned Joe  森高千里 「17才」 非実力派宣言 (English Subtitles)より  感動している。もしかしたら千代田線の満員電車の混雑に揉まれて立っていたかもしれないし、喫茶店の窓際でラップトップに向かっていたかもしれないし、いつものように眠れないままベッドに寝転がっていたのかもしれない。あるいは小林秀雄のように神田を歩いていたとき

      • 【翻訳】フランツ・カフカ「ジャッカルとアラビア人」

         わたしたちはオアシスに宿営していた。同行人たちは眠っている。背の高い色白のアラビア人が、わたしの傍を通りすぎて行った。彼は駱駝の世話をして、寝床へ帰るところだったのだ。  仰向けになってわたしは草地へ倒れた。眠りたかったが、できない。ジャッカルの嘆くような遠吠えが聞こえた。わたしはふたたび上体を起こす。そして、あんなに遠くにいたのに突然、近くにきていた。ジャッカルの群れがわたしの周りを囲んでいたのだ。くすみながらも金色に煌き、光の消えた瞳をしている。細い身体は、笞の支配下に

        • 【小説】赤りぼん

           昨夜はうまく眠れなかった。轟々という風が窓硝子に吹きつけて、家全体ががたがたと音を立てて揺らいでいた。私はベッドの上で丸まって暴風の脅威に怯えながら期待に胸を膨らませている。三月も終わったのに、まだ肌寒く、先ほどまでキッチンでお皿を洗っていたから足だけ氷のように冷えている。膝を曲げてお腹の位置にまで足首を引き上げると、暖かくなった布団の下でようやく熱を取り戻してきた。風が止む気配はない。嫌だなあ、と独り言を漏らす。明日は大切な一日になるはずなのに。できれば朝には風が凪いで雲

        フランツ・カフカ『息子たち』の生成過程

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        記事

          神の声が響いてすべてが赦される

           さて五月十四日は「母の日」だったらしい。私はなにもしなかった。カーネーションがインターネットのどこかで咲いていた。その赤い花に若干の罪悪感を覚えたにもかかわらず、なにかをしようという気力が湧かない。  ひたすら自動車事故となにかのテストを受けては落ちるという失敗を繰り返す悪夢から覚めてリビングに降りたが、寒くて布団にくるまり眠った。十一時ごろに起きると、母が洗濯物を干しているのが見えた。これから祖母、つまり母の母に会いにいくという。気をつけてと言葉を残すだけだった。  ここ

          神の声が響いてすべてが赦される

          【小説】静かな宴

           チャンネル登録者数が十五万を超えたあたりから頭打ちになり、いわゆる一軍たちが五十万で伸び悩んでいると匿名掲示板で嘲られるのを傍目に、むしろこのくらいの規模のほうが熱心なファンの名前を全員覚えていられるし、専用のアンチスレを立てられて執拗に誹謗中傷されることもないし、ボイスを録ったり、運営から送られてくる案件をこなしさえすれば、ひとまず暮らしていける収益を上げることはできている。いつまでこうしていけるのかは分からないが、いまはただこうやって生きていくしかない。そのようにして二

          【小説】静かな宴

          Amazonで購入したゼンハイザー製品が故障したとき

          私の環境私はほとんどApple製品を使用している。 しかしオーディオ機器はApple製品にしていない。利便性よりも音のこだわりが強いからだ。ヘッドホンにMOMENTUM 4 Wirelessを愛用していた。 https://amzn.asia/d/5rYQOk1 ほとんど一日中、音楽を流している。ゼンハイザーのヘッドホンはこれで2本目だが、かなり満足感があった。低音がかなり効いているし、中音域から高音域まで繊細な音まで拾ってくれる。ここ数ヶ月は外でも家でもずっとつけていて

          Amazonで購入したゼンハイザー製品が故障したとき

          カフカをめぐるプラハ旅行記

          2017年の秋にプラハへ旅行に行ってきました。まだ日本は暑く薄着のままでオランダ経由でチェコに行きました。航空会社はKLMです。 前の座席についているタッチパネル式のディスプレイがあまりにも高性能で驚きました。昔は壊れてる座席があって点かなかったり、音が出なかったりして、使えても映画を見たり、落ちゲーみたいな簡単なゲームしかなかったのに、今では世界各国の音楽やラジオが聴けて、スマホの充電ができるようにUSBポートがあって技術の進歩を感じましたねー。特にいつもは安い飛行機で移

          カフカをめぐるプラハ旅行記

          俺のシマ、と奴は言う。

           私は数日前から落語をやっている。もちろん暗記などしてはいないので本やネットに台本があるものにそれらしい抑揚をつけるわけだが、これがなかなか自分でも様になっている。江戸っ子の気質というものだろうか。とはいえ私は生まれも育ちも東京だが、江戸として呼ばれている地域に住んでいるわけではない。  職人の多く暮らす街に生まれた。子供のころ大工の親方が自転車を飛ばしながら威勢のいい挨拶をしてくれたものだ。この親方は暴走族に「人様に迷惑はかけちゃいけねえよ」と単身で啖呵を切るような任侠人だ

          俺のシマ、と奴は言う。

          ヨハネス・ヴィルヘルム・イェンセン「虫」翻訳【未邦訳作品】

          著者紹介虫私はセビリアに住んでいた。床が中央に向かって次第に窪んでいく地下の部屋だ。ここには下水溝に通じている蓋がある。開ければ灰色の蚊の大群が上ってくるため、私はたった一度しか開けなかった。小さな虎斑の本物の蚊だ。セビリアの地下に巣食うその神秘の口は湿っている。処女のように空腹で荒々しかった。まだ血を味わったことがなかったのである。不良のおてんば娘のように痩せこけて熱風に歌を響かせていた。まるで飛行する極小のオルゴールといったところだ。そのかぼそい音があまりに近くで聞こえ

          ヨハネス・ヴィルヘルム・イェンセン「虫」翻訳【未邦訳作品】

          フランツ・カフカにおける馬の形象【全編無料】

          序章 「火夫」の成立過程 この日記は「判決」を一晩で書き上げた一九一二年九月二十三日の二日後に書かれた。バウムというのはオスカー・バウムというカフカと同い年の友達である。目の見えない作家としてドイツ語圏文学のなかに作品が残っている。一九〇四年にプラハサークル(Prager Kreis)という文学・思想集団をのちにカフカの遺稿編纂者になる小説家・翻訳家・シオニストのマックス・ブロートが創設した。その一員である。他に哲学者フェリックス・ヴェルチェなどがいる。詳細は以下の本を参照。

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          『未来のイヴ』読書会の記録【感想・ネタバレ】

          底本 ※この記事は『未来のイヴ』のネタバレを含みます。 読書会までの道のり  きっかけは去年の12月17日(土)に遡る。私は友人とジュール・ヴェルヌ『月世界へ行く』で読書会を行った。その一月ほどまえから私はイーロン・マスクを通して宇宙開発に関心を持っていたのだ。自分の小説のために読んだのである。そのとき『未来のイヴ』も一緒にやりたいと提案されたのだが、テーマが違いすぎる。決定的な点で言えば両作品とも長かった。  私は現在のところ無職だが、いろいろな用事を入れて忙しくして

          『未来のイヴ』読書会の記録【感想・ネタバレ】

          イヤホンを充電しているあいだに

          ※この記事はnote運営から規約違反に抵触してるという理由で削除されたため改稿を施したものである。精神障害や自殺念慮のある方などには下記の点に留意してご一読いただくか、もしくは閲覧をお控えすることを推奨する。 この文章は決して自殺を促すものではない。  今日は上野で友達と会った。本来ならば先週の同じ曜日に会う予定だったのだが、その前日に「飲みに行って明日はきっと二日酔いになるから今度でもいいか」とLineが入った。私はそれに「了解」とだけ返した。この淡白な返事でもって私が

          イヤホンを充電しているあいだに

          母親の自転車が盗まれた日

          朝、階下から慣れ親しんだ声がした。私は五時に起きてから、昨日飲んだ酒が頭をずきずきと痛ませていて再び眠りについたようだ。いつも寝るときにイヤホンをしている。そのとき流していたのはナイツが公式チャンネルに上げている新作だった。 漫才コントというタイトルにあるようにメタ的な作品だった。若手がやりたがり、そしてよく滑る。漫才ファンのなかにはこのような手法を嫌う派閥(といっていいのか)もあるという。私は体系的に漫才を見ているわけでもないので、大してこだわりなく見てしまうのだが、ナイ

          母親の自転車が盗まれた日