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失敗も成功も、子ども達から奪わない。特別支援教育の現状と課題について 広島大学 船橋先生にインタビュー

船橋先生の専門分野について教えてください

過去には、発達心理学を専門に、大学院時代は乳幼児のハイハイ等、自ら動くことの研究をしていました。その後、特別支援教育を専門領域として、脳性まひなどのお子さんに体の動きの学習アプローチとして”動作法”をメインに勉強をしていたのですが、健常者をモデルとした動き方を指導するというアプローチの限界(これは動作法の限界というよりも、支援者としての私の限界ですが)を感じるようになりました。
そんな時、日本赤ちゃん学会Kids Loco Projectを通して魅力的な先生方との出会いを通じて、子ども達が必ずしも自分の身体で動く必要はなく、自ら動くことを決める、そのプロセスこそが重要なのだという視点を得ることが出来たんです。最近では、Kids Locoプロジェクトのチームにも加えて頂いています。


船橋先生(イラスト)

船橋先生から見る現在の特別支援教育の課題は?

特別支援教育においては、自立活動が非常に重要とみなされています。自立活動の目的は以下のように定められています。

「個々の児童又は生徒が自立を目指し,障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識・技能・態度及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培う」

特別支援学校 小学部・中学部学習指導要領(平成29年4月公示)

この「困難さの改善」という部分が、教師にとっては、「子ども達の苦手にフォーカスしなければいけない。辛い・・・難しい・・・」と感じることにつながっているように感じます。
本来、子ども達が主体的に活動する時というのはやりたい!と自ら活動への参加を望むときなので、自立活動という授業自体も子ども達のやりたい!を保障し、その中で苦手にトライできる知識・技能・態度及び習慣を培っていくことが望ましいと考えています。そこが日本の特別支援教育における今後の挑戦といえますね。

よく教育業界では<活動あって学びなし>という言葉を聞くことがあります。子ども達は楽しんで活動していたけれど、そこから学びにつながってないよね、というような指摘です。
ですが私は、まずは子ども達の「学びって楽しい!」を担保した上で、この子にはこの能力が身につきそうだと発展させていくことこと、それが特別支援学校教員の仕事なのだと思います。活動の中からいかに個別最適化された学びを生み出すのか、これをちゃんと悩み続けることが重要ですね。

ICTやデジタルツール活用の意義は?

教育現場におけるICTやデジタルツールの活用はある意味、想定よりも早く起きてしまった変化といえます。コロナ禍やギガスクール構想を通じて、あっという間に環境が変化しました。タブレット端末等のハード面は整備されてしまった。じゃあ、これを使って何かやらなくては、という形で教員のアップデートが求められるようになったんですね。

そういった背景から、私もよく多くの特別支援学校から講義の依頼を受けています。その中で、まず強調してお話するのがそもそもあなたは子ども達への教育の中で何をしたいのか?という目的の話です。
ICTやデジタルツールはあくまで手段。教育上達成したい目的に対して「どうしてこの子にこのツールを使うのか」を考えなければいけません。ツールを使うという手段が目的化してしまい、そもそもの特別支援教育の目的が曖昧になっていることこそが本当の課題といえます。


東京都内の特別支援学校様での体験会の様子

デジリハに感じる魅力について教えてください

以前広島の小児リハビリテーションネットワークでの勉強会にてデジリハのことを知りました。そこから広島県立西条特別支援学校での試験導入を通じて、特別支援教育におけるデジリハ活用の魅力に気づいたんです。

まず冒頭にもお話しましたが私の関心は「子ども達が自ら動くこと」なのですが、子ども達が動くためには”動くための意欲”が必要です。意欲を生み出すために重要なのが、子ども達の動きに応答する環境を整備すること。これは肢体不自由教育の中では長年重要なキーワードの1つなのですが、なかなか実現が難しい状況でした。
デジリハでは小さな動きや軽いタッチ一つで、PC上や壁一面の環境が音や映像で大きく変化します。このように、子ども達に応答する環境を用意することが、子ども達の「動きたい」に非常に重要なんですね。

また、デジリハは遊び、FUNの環境を作ることを通じて、子ども達のトライ アンド エラーを保障していると感じます。普段の教育はどうしても「それ、違うんだよ」というトライ アンド ”コレクト”(修正)になりやすいのです。デジリハでは学習者自身が「うまくいかなかった!じゃあ次どうしよう?」と考えるために、デジタルのフィードバックを通じて子ども自ら気づくきっかけを生み出していますね。
トライ アンド コレクトの過程では、子ども達は愛着対象である”人間”(親や教師など)から修正をされる形になるので、子どもと周囲の大人との関係性にも関わります。

何より、子どもが何かアクションをしたときに、大人が子どもを褒めるのではなく、子どもの”できた!”が先に発生する体験が、成長には欠かせないのです。
失敗も、成功も子ども達が実感するまで大人が少し待ってあげることを意識することが、非常に重要だと考えています。

デジリハの特別支援教育現場での体験会の様子はこちら


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