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マーケティングに強いイベントアンケートのつくり方 ~リサーチャー式イベント体験デザイン~

はじめに~なぜイベントが注目されているのか


ビジネスにおけるセミナーイベントの重要性が増しています。

大型のイベントとしては、カンファレンス形式のものを主流として、「LINE CONFERENCE、SoftBank World、Rakuten Optimism」など、各社が事業戦略を発表する場を設けたり、マーケティングツールのベンダー企業が取引(潜在)顧客を招く場づくりを強化しています。

小型のイベントとしては、「ファンミーティング・meetup・オフ会・勉強会」のような形で、テーマ・参加者を絞り込んだイベントが開催されています。採用市場でもこうした「オフラインのマーケティング施策」を担当する人材募集をよく見かけるようになりました。

私たちを取り巻くイベントが、ただの(単発施策としての)"イベント"ではなく、企業の"重要施策"として急速に認識されるようになった背景は、『カスタマーサクセス―サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』を読むとよくわかります。

この本は、セールスフォースをはじめとする成長企業の要因を分析して、「カスタマーサクセス」の手法を紹介しています。(「カスタマーサクセス」とは、平たくいうと、契約の維持とそこから得る売上最大化のための顧客コミュニケーション活動を指します)

本の中でメールマーケティングやウェブセミナーといった代表的なコミュニケーション手法と並び、有力な施策として挙がっているのが「カスタマーサミット」です。イベントはただの"イベントごと"ではなく、収益に貢献する活動として位置づけられています。

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さて、このように企業の期待を背負うイベント業務ですが、大変なのは運営だけではなく、実施成果を検証するのも容易ではありません。というのも、成果を「集客数」にすると人を集めることが目的化したり、かといって「契約数」にすると刈り取りの営業力に左右されるからです。

イベントの成果を検証する方法として、皆さんもきっと実施しているのが「参加者アンケート」です。参加者アンケートはひと通りやってきた内容があると思いますが、イベントの成果を可視化する視点からみると、見直すべきポイントがたくさんあります。

このエントリーでは、イベントディレクター・イベントオーガナイザー向けに、私のリサーチャーとしての知見+最新の事例を交えて、「マーケティングに強いイベントアンケートのつくり方」(アンケート質問項目や実施方法の見直し方)を解説します。

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私は国内最大手のマーケティングリサーチファーム「マクロミル」で月次500問のアンケートを運用する調査業務に従事したのち、現職の総合ECサイト企業では年間2000万円の調査内製体制を確立し、ビジネスで使えるアンケート技法を日々追究しています。

これだけだとイベントとの関りが薄いように見えますが、前職の「ぐるなび」では営業企画業務の中で、毎月東名阪3地域で各50社を集客するBtoBセミナーの企画運営を行っていました。(ぐるなびは「ぐるなび大学」というセミナー組織が知られています)

つまり、市場調査としてのアンケート業務を行うのと同時に、最適なイベントアンケートのあり方も模索してきました。季節は秋。各社のイベント開催が最高潮に達する時期を迎えます。イベント成果を最大化するために、アンケートを使いこなしていきましょう!

※この投稿はBtoBのイベントアンケートを軸に話を進めますが、BtoCのイベントアンケートも設計の本質は変わりません。逆に、BtoCのイベントアンケートで良いと思った事例をBtoBのイベントアンケートにアレンジする方法も紹介していきますのでお楽しみに。

▼ 1.アンケート内容をグロース視点で見直す


まずはご自身で担当しているイベント・自社で主催しているイベントのアンケートをお手元にご用意ください。いますぐに見れない方は、頭の中でいったん内容を思い返してみてください。

準備はOKでしょうか?では、話を進めましょう。

皆さんがつくっているイベントアンケートは、おそらく次のような構成になっているはずです。

認知経路(このイベントのことをどこで知りましたか?)

満足度(各セッションの満足度をチェックしてください)

今後の要望(今後当社にどのような企画を望みますか?)

サービスの利用意向(サービスへの関心度をチェックしてください)

※↑BtoBのプリセールス型セミナーの場合

まず、この質問形式が悪いわけではないのでご安心ください。

私は自分が仕事でセミナー業務を担当し始めた2008年頃からずっと、他社主催セミナーの参加者アンケートをチェックし続けています。
上記のモデル質問は、10年ほど見続けてきた中で、セミナーアンケートの典型的な内容で構成しており、多くの企業が取り入れている質問項目になります。

逆に言えば、だからこそどの会社も似たり寄ったりの企画・運営になり、セミナー/イベントの機会をセールスに結びつけることに苦労する元凶になっています。

イベントの成果を営業・マーケティングに結びつけたいなら、イベントアンケートの改良は必須です。もちろん営業・マーケティングと結びつかないイベントは企業的に実施する価値は無いので、イベントアンケートの改良は必須だということです。

では、どのようにアンケートを見直していけばよいか?

答えは、「イベントの成果をグロース(サービスの成長)につなげられるか?という視点を持って見直す」ことです。

このパートでは、グロース視点でのアンケートの見直し方を、①ブランディング評価、②チャレンジ評価の2つの観点から解説していきます。

①ブランディング評価→好意度・理解度


イベントを開催する大きな目的のひとつに、「ブランディング」があります。おそらく皆さんがつくるイベント企画書の中にも、「ブランディングの一環として」「ブランディングを強化するため」という文言が入っていると思います。

この場合の「ブランディング」は「何かしらのイメージ付け」を差していますが、実際には満足度のように検証する手立てがありません。ブランディングは印象・信用の積み重ねによる中長期施策のため、短期では成果を上げられないからです。

しかし、イベントは開催費用がかかるので、ブランディングとの関係性を可視化できないと、「収益への貢献が低い(だからイベントは不要)」と社内でみなされ、それまで好評だったイベント施策を中止する企業もありますが、これは急です。

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そこで、ブランディングの成果を測定する際の指標である「好意度」「理解度」を、ブランド調査の時だけでなく、イベントアンケートにも採り入れてみます。ブランドを評価する時の観点を分けて成果を測定可能な状態にしていきます。

「好意度」「理解度」は、イベントの文脈でとらえ直すと、次のようなイメージになります。
・好意度→アクセス・ファシリティ・スタッフ~標準価値サービスへの評価
・理解度→テーマ・スピーカー・コンテンツ~付加価値サービスへの評価

実際のイベントアンケートは、マーケティングリサーチのアンケートとは位置づけが異なるため、イベント参加者向けに適した堅苦しくない表現が必要です。ここをうまくアレンジしている事例を見てみましょう。

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Design Scramble(渋谷デザインフェスティバル)」は、DeNA、mixi、ビズリーチ、GMOペパポなど、(主に)渋谷に本社を持つ大手IT企業が中心になり、デザインの本質について考えるイベントです。

イベント期間中は周辺一帯で、講演セッション・ワークショップなどが行われます。UXに代表される細かいテーマ単位で現場をリードするクリエイターが登場するのがイベントの見どころです。

このイベントの参加者アンケート(2018年のもの)は、イベント実施後、ウェブアンケート形式で配信されており、その中でも特に印象的なのが次のパートです。

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あらためて質問文をトレースしておくと、以下のようになっています。

Q.今回のイベントに参加しようと思ったポイント・期待したことをお聞かせください(自由回答)
Q.上記質問で、期待したことは得られましたか?(5段階スケール回答)
Q.上記のように回答した理由を教えてください。(自由回答)

ポイントは、「参加者が各企画に期待したことに対する評価」にフォーカスしていることです。デザインに対する理解を深めるために開催された各企画が、本来の役目を果たすことができたかどうか、検証できるようになっています。

イベントでは実施後の営業に力を入れるあまり、集客だけを目的にしたイベントをやってしまうことがあります。とにかく知名度の高い講師を招いて参加者数を上げたり、参加特典を厚くして来場メリットをアピールしたりするケースです。

この要素が強すぎてしまうと、次のような弊害が出てきます。
・著名な講演者の話を聴けて満足→でも開催テーマへの理解は深まっていない
・先着特典をもらえて嬉しい→でもイベント本編には積極参加していない
これでは本当に来場のためだけに開催コストをかけているようなものです。

アンケートを使うと、テーマに対する「理解度」を検証することで、イベントが本来の目的に沿った役割を果たしているかチェックしていくことができます。

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取り上げた「Design Scramble」は一般参加者向けのイベントですが、同様の考え方は企業が取引顧客を集めて開催するBtoBセミナーでも応用可能です。

BtoBセミナーで配布されるアンケートの質問といえば、通常は次のように、参加者(参加企業)の課題/関心を探るものが核となっています。

Q.あなたの業務上の課題としてあてはまるものをお選びください
(スキル不足/リソース不足/専門知識不足…)
Q.貴社の課題としてあてはまるものをお選びください
(認知獲得/売上アップ/人材育成…)
Q.サービスの利用意向
(ぜひ導入を検討したい/まず話を聴いてみたい/今は関心が無い…)

アンケートではこのように、「参加者(参加企業)の課題」と「サービスの利用意向」を組み合わせて、どのレベル感で営業を行うか判断します。セミナーの開催目的はプリセールスでありリテンションなので、このふたつの質問項目はめちゃくちゃ重要です。

しかし、実際のアンケート回答は主催者の期待通りには返ってきてくれません。「何かしらの課題はあるといえばあるけど、サービスへの関心はそれほど高くない」という回答パターンが多く、そこで打ち手が尽きます。

「いや、チェックがついた項目をもとに取引(潜在)顧客のニーズを掘り起こしてみせるんだ!」という営業熱心な会社もあろうかと思いますが、課題/関心の項目に対してそこまで深く考えてチェックをつける人は少ないので、暖簾に腕押しすることになります。

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BtoBセミナーでうまくアンケートを設計をできているのが「LINEリサーチ」です。

「LINEリサーチ」は、LINEが運営するリサーチサービス(LINEユーザー向けのアンケート調査サービス)で、不定期ながらたびたび自社サービスの特徴を紹介するプリセールス型のセミナーを開催しています。

参加者向けに配布される紙アンケートには、上記のような(アンケート上はテーマに関心ありでも、営業しようと思ったら実際にはそこまでは関心が高くはない)ジレンマを解消する設計の質問がありました。

Q.本日のセミナーでご紹介したメニューのなかで、関心のあるものはありますか?(いくつでも)
(標準の調査/写真調査/カスタムメッセージ配信/広告効果測定…)

選択肢を見ていただくと、サービスの核となる「リサーチのメニュー」で構成されていることがわかります。

この質問の回答結果とセミナーコンテンツ側の理解度を突き合せると、よりハッキリとした参加者の関心を可視化することができます。
すなわち、「課題/関心テーマベースの商品メニュー」×「各セッションでのテーマへの理解度」がわかれば、関係性を温めていく糸口がつかめます。

シンプルに「サービスの利用意向」を尋ねる時との違いがまだピンときていない人もいるかもしれませんね。

アンケートで尋ねる参加者の関心が、「サービスそのもの」の粒度になっていると、「導入する/しない」という二分法の判断のもとに、参加者も「関心はない」と答えるケースが多くなります。セミナーは営業される場だとある程度わかっているのでなおさらです。

また、選択肢の粒度が「関心のあるテーマ」レベルだと、提供サービスとの関連付けが弱く、ここまで説明してきたような「たしかに課題といえば課題だけど、別に差し迫って何か困っているわけではない」という中途半端な回答を引き出してしまいます。

「サービスの利用意向」はエンゲージメントを測定するには有効ですが、ブランディングの成果を測定するなら、「セッションの理解度×課題/関心テーマベースの商品メニュー」の組み合わせで、参加者の意識を検証するのがおすすめです。

②チャレンジ評価→改善項目への定性評価


継続的に行うイベント業務は、次第に「できていて当たり前」という見方になってくるので、担当者の仕事ぶりは周りから(社内から)評価されにくくなっていきます。
実際には、会場が違えば運営に影響があることはもちろん、講演者ひとり違ってもスピーカーの特性に合わせた運営を心がけるのは、チャレンジのひとつなのですが…

こうした挑戦や努力は、工夫した成果を可視化できるようになっていることが重要です。目に見える新しいチャレンジをしていて、その手ごたえを実感できる仕組みがあると、仮に同じ建て付けのイベントでも、スタッフのモチベーションは向上します。

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マーケティング支援会社のプレイドでは、企業向けカンファレンス「CX DIVE」を運営しており、開催ごとにブログでイベントの体験デザインを振り返っています。

上のエントリーは2019年春実施分のもので、以下のような新しい試みへの出来を振り返っています。
・セッションスタイルをプレゼンテーション形式→パネルディスカッション形式へ
・企業展示ブースを会場外→会場内へ
・食カテゴリの企業による軽食の提供

チャレンジの実行と振り返りがあることで、参加者のイベントを通じたエンゲージメント評価も変わってくることでしょう。イベントの進化を感じる内容です。

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もうひとつ参考記事を。
noteユーザーが集まるmeetupの先駆者であり、「非公式noteオフ会」の主催者である坂口淳一さんは、「noteユーザーイベントの教科書(数人〜数十人規模編)」で、イベント運営に必要なことを次のように書いています。

企画の際に新しいチャレンジを入れると、毎回新鮮な気持ちでイベントに挑むことができます。
またイベント自体にも少し変化が加わるので、常連の参加者の方も楽しんでくれますし、そのチャレンジを応援してくれる新規の参加者層も広げることができます。

「2回目以降の注意点は、小さなチャレンジを入れるべし」
このnoteからも、新しいチャレンジの有効性がわかります。

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さて、ここからは、その新しいチャレンジの成果をどのように検証していくか?を、イベントアンケートの見直し方を通じてお伝えします。

というのも、ごくふつうの設計でいつも通りアンケートを実施してしまうと、新企画や改善点に気づいてくれたかどうか、それぞれが良い印象を残せたかどうかは、面で測定することはできません。アンケートなら全体評価コメントの中から探すか、スタッフが個別にヒアリングした印象をかき集めるしかありません。

そこで、アンケートの中に改善施策の成果検証にフォーカスした自由回答設問をつくります。
具体的には、質問文の中に今年/今回の改善施策を並べて、それについてどのように感じたかを書いてもらうのです。

ちょうど私が仕事で150名規模の家族向けイベントのオーガナイザーをした時につくった質問があるので、見てみましょう。以下は参加者向けの事後アンケートの一部です。
(例示加工しているため質問番号はQ1となっていますが、実際には終盤に入れています)

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あらためて質問内容をトレースしておくと、「昨年実施後にいただいたアンケート要望を受けて、今年は次のような部分の改善・企画を試みました。<施策提示>→それぞれに対する感想・印象を教えてください」というつくりになっています。

この質問によって、新企画・改善点に対する感想・印象にフォーカスした回答を集めることができます。前年/前回参加者の人が回答してくれれば、進歩を評価してくれたり、あるいは、さらなる改善が見つかるかもしれません。

なお質問の回答形式を選択式にして、施策ごとの評価を問うこともできますが、スペースに限りのあるイベントアンケートに入れるには細かくなりすぎてしまうこと、定量的にネガティブ評価が確定した場合はチャレンジへの意欲が継続されずらくなること、このあたりを考慮して自由回答でまるっと1問で聞いてしまうことをおすすめします。

※ちなみにこの時は子連れ参加が基本のイベントだったため、後述する(私が推奨する)紙のアンケートではなくウェブアンケートで実施しています。

▼ 2.紙アンケートならではの価値を見直す


ビジネスシーンで実施するアンケートは、現在ほとんどがウェブアンケートで行われています。ウェブアンケートを使うメリットは言うまでもなく、データの集計・管理が楽なことに尽きます。

紙アンケートだと、回答をいったん入力したうえ、集計用のデータ形式にそろえる必要があります。この工程はとても面倒なので、大規模イベントではウェブアンケートが増えている印象です。

しかしとても不思議なことに、これだけデジタル化が進んでいても、イベントの参加者アンケートはまだまだ紙が主流です。というか、紙アンケートが無くなる気配がありません。

実は、企画・運営を成功させる観点からは、紙アンケートの方がおすすめです。集計負荷はたしかに上がりますが、イベントを成功させることの方が大事なことは言うまでもありません。

このパートでは、アンケート形式を紙かウェブかで迷っているイベントオーガナイザー向けに、これまであまり議論されてこなかった「紙アンケートのメリット」を解説します。

①紙のメリット→回収率の向上効果


紙アンケートは、なんといっても回収に強いことが魅力です。

イベントでアンケートが配布されると、私たちはその場で用紙に感想を記入して提出する習性があります。主催者が声をかけて推奨しているとはいえ、率先して書いてくれる人が多い律儀な国民性は、イベント運営者にとって大きな助けになります。

ウェブアンケートだと、なかなかこういう空気感はつくれません。アンケートフォームへの転送QRコードが読み取れない、スマホの電池残量が少ない、会場を出たら忘れてしまうなど、通信環境や外部環境による要因に簡単に負けてしまいます。

あくまでイベントの終了と同時にアンケートを書く会場の雰囲気になっているからこそ、回収しやすくなるのです。紙アンケートの大きなアドバンテージです。

当日中の回収率が上がると何が良いのか?というと、イベント実施日=アンケート回答日なので、ホットな回答内容が集まります。参加者の記憶や感情が新鮮な状態なので、会が成功さえしていればストレートな賞賛・共感の声が集まってきます。

逆に、会が失敗して不満足者が多い場合も、当日回答ならではの数々の指摘を集めることができます。結果的にねらいとずれてしまったり、運営がうまくいかないことはあるので、厳しい意見を得ることもイベントが成長するうえで欠かせません。

満足・不満足、いずれの立場の意見も、回収率を上げることで示唆に富んだ意見と出会う確率が高まります。1Day/2Dayイベントも、できるだけ日やセッションを区切って回収できるとgoodです。こういう時は紙アンケートが活躍する場面です。

②紙のメリット→運営側の学習効果


紙アンケートは、終了後すぐに振り返りしやすいという利点があります。

イベントの運営スタッフは、本編が終了して会場撤収が片付くと、回収したアンケートに目を通す習性があります。スタッフ間でアンケートを回覧しながら、個人でイベントを振り返る時間を持ったり、書かれている項目について意見交換する時間を過ごします。

紙アンケートだと自然とこういう流れが生まれます。

残念ながらウェブアンケートだとなかなかこういう雰囲気にはなりません。日が経つとどうしても熱度が下がっていきますし、誰かがまとめてくれるのを待つという姿勢になったとたん、熱心に読み込むことが無くなります。便利さは意識上悪い方向に働きます。

イベントリーダーなら、前出のような紙アンケートの利点を最大限活かしたいところ。おすすめは、紙アンケートの回覧をもとにして、その場で(もしくは打ち上げの最初に)反省会の時間を取ることです。これをしておくと運営側の学習効果が最大化します。

当日中の反省会で意見のとりまとめができていると、打ち上げで夜遅くまでかかろうが、その後の移動時間で寝てしまおうが、翌日には簡易報告ができる状態になっており、運営スタッフも翌日から挙がった課題を意識して通常業務に戻ることができます。

マーケティングリサーチでは、調査結果全体の傾向を見るのと同じくらい、回答者個別の回答結果を見ることが重要視されています。こうした「個票を見る体験」はリサーチャーでも少なくなりつつありますが、ユーザー理解が深まる貴重な機会になります。

▼ 3.当日参加者向けアンケート以外も見直す


イベントアンケートというと「事後アンケート」が主ですが、準備期間や開催中にもアンケートを駆使すると、当日一発勝負ではなくなり、企画・運営の精度が上がります。

このパートでは、イベント参加者が興味を持っていることの情報収集範囲を増やし、イベントのPDCAサイクルを高速で洗練させていくためのティップスを2つ紹介します。

①事前アンケートで興味関心を把握する


1つめの手法は「事前アンケート」です。

事前アンケートはその名の通り、申込者から事前にテーマへの興味関心度合いや講演者への質問を聴取する方法です。準備した企画に対して、事前に参加者の温度感を知り、それに合わせて内容をチューニングできるメリットがあります。

一方で、『申込フォーム上で「関心のあるテーマ」をチェックしてもらっているが、あまり役立っていない…』という主催者もいることでしょう。参加者の傾向を把握していても、企画に反映できていない企業も多いのではないでしょうか。

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事前アンケートをうまく活用したイベントを運営しているのが「マザーハウス」です。マザーハウスは途上国で自社生産したバッグ・ジュエリーなどを販売しており、製品の成り立ちからして理念に共感してもらうことを重視しています。

マザーハウスでは、創業初期からファンユーザーを集めた「サンクスイベント」を毎年実施しています。直近では2019年9月にミッドタウン日比谷(東京会場)で開催され、既に10回以上(10年以上)続く取り組みになっています。

サンクスイベント全体では、1日の中で、ファッションショー・展示会・ワークショップ・講演会などのプログラムを開催し、一般のお客様に向けて新商品の発表や今後の方針を伝える内容になっています。
※このイベント自体はBtoCになりますが、十分BtoBに応用できるので紹介させてください。

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サンクスイベントのトリとなっている企画に「ファンミーティング」があります。この企画は、ファンユーザー60名ほどを公募で集め、マザーハウスのスタッフ(途上国の職人を含む)とファンユーザーが交流するものです。

ファンミーティング参加者向けに、開催数日前にメールで届いた「事前アンケート」の内容を見てみましょう。

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この事前アンケートを通じたコミュニケーションが優れているところは、ふたつあります。

a.企画に役立てることを明言している

アンケートの前文は、次のような挨拶ではじまっています。

この度はチケットをお買い求めいただき、誠にありがとうございます。みなさまのご意見を山口、山崎と共に拝見して、イベントプログラムづくりに活用させていただきます!

マザーハウスは、社長の山口絵理子さん、副社長の山崎大祐さん、それぞれが起業家/事業家として有名な方であるため、「読んでもらえる・自分の意見が伝わる」回答メリットはファンユーザーにとっては大きく、回答意欲が引き出されるものになっています。

自身が勤める会社に有名な社員がいないとしても、経営者(または最近ではCTOやCXOなどのスキルフルなスター社員)が自ら目を通す、あるいは、販売員やバイヤーなど現場接点を持つ社員に声が届くことの価値を前文で伝えられると、大きな訴求になります。

b.当日に回答のフィードバックがある

アンケートの回答内容は、実際のイベントプログラムでは次のような形で活かされていました。(以下はあくまで当日の運営を見て私がそのように感じたことを書きます)

まずは、講演会の中でのこと。
事前アンケートでは、開催前月に社長の山口絵理子さんが上梓された「書籍への感想」を集めています。

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Q.新著「Third Way(サードウェイ)第3の道のつくり方」をご覧になられた方にうかがいます。書籍の内容について、山口へのご質問やご意見、ご感想を教えてください。(自由回答)

講演会の冒頭では、MCを務めた副社長の山崎大祐さんより、アンケート内容を見たうえで、本のタイトルであり思考法でもある「サードウェイ」について、「自分の生活の中に役立てるには難しいという意見も多かったので、個人でも活かせるようにお伝えしていきます」という趣旨のフィードバックがありました。

こうしたフィードバックがあると、参加者は「来てよかった」と思えます。実際、私自身、講演会を通じて、「サードウェイ」が山口さんやマザーハウスの考え方であるとともに、個人が活かせる「思考法」であることをよく理解することができました。アンケートの声によって内容がチューニングされた好例です。

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次に、ファンミーティングのプログラムにて。
事前アンケートには、「マザーハウスと今回のイベントについて興味関心のあるテーマ」を複数回答で尋ねる質問が入っていました。

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Q.今回のイベントをお申し込みいただく際に、興味を持ったキーワードをお選びください。(複数回答)
マザーハウス/山口絵理子/山崎大祐/バングラデシュ/経営/職人の来日/ジュエリーの新商品/ファッションショー/コインケースDIY…など、30個の選択肢が並ぶ。

参加者へ事前に興味関心を尋ねるケースは今までいろいろ見てきましたが、マザーハウスのアンケートでは、多様性があって、かつ、具体的なキーワードになっているところがポイントです。(ブランド・アイテム・生産国名・経営理論・イベントの企画名などで構成)

この質問に対しては、ファンミーティングのメイン企画「マザーハウスでやって欲しい理想のイベントを考えよう!」の参考資料としてフィードバックがありました。イベント当日は事前アンケートに出てきた選択肢以上のボリュームに増えたキーワードリストが配布されました。

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このようにして事前アンケートをフル活用すると、イベントの沸点を上げることができます。事前アンケートの質問自体は近い内容になっている企業もあると思います。イベントの実行サイドで回答結果を活用できているか、この事例を参考にしてみてください。

②イベント実況ツイートの反応を見る


ある程度の規模でイベントを開催していて、参加者もコミュニケーションに積極的な場合、参加者が投稿する「Twitterの実況ツイート」から反応を見るのも効果的な検証方法です。

商品・サービスのSNS上における評価を観測する手法を「ソーシャルリスニング」と言いますが、まさにイベントについてのSNS投稿をエゴサーチでリスニングしていくのです。

開催時には「イベントハッシュタグ」をあらかじめ決めておき、会の冒頭でSNS投稿時にタグをつけてもらうよう促します。日頃から常時SNS投稿が起きる商売をしていなくても、イベントであれば自然な形で投稿を増やすことができるので、観測しがいがあります。

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SNSのマーケティング支援を行う「アライドアーキテクツ」では、企業SNSの成功事例をシェアするセミナーを開催する際に、「#UGCディスカッション」をハッシュタグに指定し、告知段階から積極的に広めていました。(当日のパンフレットにも入っています!)

また、2019年8月に開催された「noteユーザーのための、ユーザーイベントのススメ」でも、noteプロデューサーに就任した主催者の徳力基彦さんが「#notemeetup」をハッシュタグに指定し、会場内はもちろん、Twitter上でも、中継先でも盛り上がりました。

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ツイートの分析には次のような視点が有効です。

a.投稿数(発話数)が多いシーン・フレーズに着目する

イベントの盛り上がりを投稿数(発話数)が多いシーン・フレーズに着目してツイートを見ていきます。登場シーンやビデオ演出、名言が出た瞬間などに投稿数が増えるので、ひとつのセッションの中でもどんな内容がインパクトをあったのかを知ることができます。

b.投稿のいいね数、リツイート数に着目する

実況ツイートに対するいいね数・リツイート数は、イベントに参加していない人(各アカウントのフォロワー)も含めた反響が主になります。特にリツイートが多い投稿の内容を突き詰めると、紹介されたノウハウの強さや参加者属性に共通する課題が見えてきます。

ツイートはシーン・フレーズ単位で観測が可能なので、アンケートの満足度よりもダイレクトな反応を見ることができます。もちろん投稿が発生するだけの企画運営力を必要としますが、単純な「満足度」では計ることができない評価を見るのにとても役立ちます。

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今回はイベントアンケートの見直し方を解説しました。
いきなりすべてを実践できなくても、必要そうだと思った箇所から取り入れてみてください。むしろその方が改善成果を実感しやすいかもしれません。

せっかく費用と稼働をかけてイベントを実施するのですから、皆さんの仕事の成果が良い形でアピールできるよう、ぜひアンケートを使い倒していきましょう!

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