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ユーザーに愛される企業のファンコミュニティ:ファンサイト編

この記事シリーズでは、「ユーザーに愛される企業のファンコミュニティ」と題して、末長く・幅広く商品・サービスブランドのファンを広げている企業の取り組みを研究しています。

前回は「ファンイベント」をテーマに、①メルカリ(座談会イベント)、②マザーハウス(立食パーティー)、③フェリシモ(ポップアップストア)の取り組みを紹介しました。

今回は、「ファンサイト」をテーマに、①森永製菓(情報交換スレッド)、②オルビス(モニターレポート)、③無印良品(リクエストストック)の取り組みについてまとめます。

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▼ ①森永製菓(情報交換スレッド)


森永製菓は、マスコットのキョロちゃんでおなじみのチョコ菓子「チョコボール」、キャンディ菓子「ハイチュウ」、キャラメル菓子「ミルクキャラメル」など、いずれもそのカテゴリーを代表する大ロングセラー商品を抱える菓子メーカーです。

長く愛され続けていることを裏づけるように、2013年11月に開設されたファンサイト「エンゼルPLUS」は、会員数24万人になっており(2019年4月時点)、メーカーが運営するコミュニティとしては驚異的な会員数になっています。

エンゼルPLUSは、商品ブランドごとに点在する消費者を集め、森永製菓トータルとしてのファンを増やす目的で運営されています。コンテンツは、「各商品ブランド最新情報の紹介、商品販促キャンペーンの告知、リアルイベントの募集」、などから成り立っています。

コンテンツをもう少し詳しく見ていくと、次のような企画がメインになっています。

・会員が自由に参加できるギャラリー(投稿)、スレッド(掲示板)
・商品ブランドと会員を結ぶ参加型の企画(商品の感想投稿・おやつ川柳募集など)
・その他:クイズ、スピードくじ

いずれもファンユーザーを楽しませる切り口を持ったコンテンツですが、中でも、ベーシック、かつ、うまい見せ方をしているのが、商品への愛をシェアし合う投票企画です。

2019年3月に行われた「抹茶味の新商品、どれ食べたい?」を見てみましょう。

エンゼルPLUS_投票中

この投票企画は、森永製菓の各商品ブランドから抹茶味の新商品が発売されるタイミングに合わせて実施されており、「ベイク・小枝・キャラメル・ミニエンゼルパイ」、4つの中からどれを食べてみたいか、ウェブコミュニティ上で投票する企画になっています。

結果発表のページでは、商品ごとの得票数とユーザーのひとことコメントを掲載しており、「このシリーズが好き、お花見に良さそう、抹茶を味わえそう」(※私の要約)など、商品ブランドの魅力、時期的なタイミング、新しさを感じる味への期待を見ることができ、新商品の門出をファンとともに心待ちにするコミュニケーションが図られています。

講演で運営担当者の方の話を聞いたところによると、コミュニティに参加しているファンユーザーの傾向は、①推奨意向度を表すNPSがプラスの数値でとても良い、②自社商品の購買金額が一般消費者の数倍ある、というポジティブな効果を得ているそうです。

投票機能自体についていえば、各SNSにも同じ機能があります。しかし、たいていは(良くも悪くも)目的も結果も希薄なまま運用されており、ライトなコミュニケーションに留まります。

森永製菓の事例では、各商品ブランドを愛してやまないファンユーザーを集めて、情報発信・情報交流を行うプラットフォームを設けることで、ファンの熱量を見える化することに成功しています。

投票企画の軸になっているアンケート機能は、マーケティング情報収集のためのものというより、コミュニケーションツールのような役割を果たしており、目的と用途が合った使い方になっています。

人々の記憶に残るロングセラー商品でも、「懐かしい商品」ではなく「今も身近な商品」として認知され続けるためには、ファンの声をこのように活かしていけばいいのかと学びになる好例です。

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▼ ②オルビス(モニターレポート)


オルビスは、肌に優しい成分にこだわった商品開発はもちろん、いち早く全国化に取り組んだ発送体制、環境負荷を考慮した商品梱包、丁寧なコールセンター対応など、お客様である女性にとってのベストを考え抜き、支持されている化粧品最大手のメーカーです。

同社では開業以来、ユーザーからコールセンターに届く質問・相談を「知恵の泉」と呼び、一件一件丁寧に蓄積し、改善につなげる文化があります。現在のオルビスは業界の巨人ですが、化粧品通販・ECの歴史を初期から切り開いてきたメーカーならではの姿勢です。

オルビスにはお客様参加型のコミュニティサイト「キクラボ」があります。上記の企業姿勢を具現化したかのように、ユーザーとコラボレーションして開発する商品はプロジェクト化され、「みんなでつくり隊!」という名前の委員会方式で運営されています。

プロジェクトのひとつ、「大きめバストさん集まれ!グラマラススリム制作委員会」では、胸が大きいために「下着のサイズがない、フィットしない、可愛いものが見つからない」という女性の悩みに着目して、アンケート・座談会・試着会などの企画を通じて新商品を開発するプロジェクトです。(約9,000人のユーザーが参加)

1-2-3オルビス①

プロジェクトの主だった工程を抜粋すると、次のような流れになっています。
・試着座談会レポート:試着会を通じて商品面・販売面に対するお客様の悩みを直に把握。
・アンケートレポート:ユーザーが希望する理想の下着デザイン・商品名アイデアを公開。
・プロモーション会議:開発者のねらい・意気込みを伝える。
・新商品カタログ撮影:着け心地や見え方がしっかりとわかる写真へのこだわりを伝える。
・ホームユースモニターアンケート:完成品の発売前モニタリングレポートを公開。

最大の特徴は、非常にオープンなプロジェクトの動きです。いつ頃どんな活動が行われるのか、スケジュールのアウトラインはスタート時に公開されおり、各種アンケートの結果も更新時にウェブ上に公表してユーザーにフィードバックされています。

企業にとって商品開発は、試作でうまくいかないことがつきものですし、アンケートや座談会を開催してもポジティブな意見ばかりとは限りません。こうしたリスクと向き合って、新商品をつくるゴールにコミットして活動する姿勢には感銘を受けます。

グラマラススリム委員会が出しているアンケートレポートの結びには、プロジェクト全体を通じて感じられる誠実をモットーにする運営者の人柄がよく表れています。

皆さまからいただいた商品名アイディアを拝見して、毎日着ける下着は、ただの衣類ということではなく、身に着けることで生き方や姿勢まで前向きな自分になれるアイテムでもあるのだと感じました。私たちオルビスも、お客様にとって、そうした商品になれるように思いを込めて、これからも作り続けていくことを目指してまいります。

オルビスの事例からは、単にファンユーザーを商品モニターとして起用するのではなく、理想の商品を共創するというプロジェクトの中で、企業の「人格・文化」が引き出され、ユーザーファーストの姿勢が濃厚に感じられる施策になっていることがよくわかります。

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▼ ③無印良品(リクエストストック)


無印良品は、日本有数規模の小売店舗であるとともに、たくさんのMUJI商品ブランドを持つ総合メーカーです。先行研究があふれかえるほどビジネスの成功事例を多く持つ企業ですが、ここで注目したいのは、自社メディア「くらしの良品研究所」です。

「くらしの良品研究所」は良品をテーマとする研究活動を目的に運営されており、その中心コンテンツ「IDEA PARK」は、現行商品の改善希望、廃盤商品の再販希望など、商品開発関連のリクエストを受け付けるオンラインコミュニティになっています。

この活動がユニークなのは、商品開発といっても、靴下・スニーカー・バスタオルなど、無印良品でも定番のアイテムを多く扱っている点です。一例を見てみましょう。

リュックの見直しプロジェクト」では、企画~発売までの工程を8つのステップに分け、メーカーの心臓とも言うべき開発(改良)過程を堂々と公開しています。

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プロジェクトの内容をざっと要約すると次のような形になります。
・アンケートとグループインタビューで「リュック」アイテム自体のメリットを確認。
・リュックは使い勝手がいい代わりに、どんどん荷物が増えて肩への負担が増す、という使用上の課題をキャッチ。
・肩にかかる圧力を機会でで測定し、特に肩紐の内側に負荷が集中することを確認。
・試作を繰り返して、特に重い荷物を背負った時に違いが出るつくりへと改良。
・改良した商品を発売。

「商品の改良」というと通常、「不満」部分が改善対象になるのですが、このプロジェクトでは、「メリット部分をさらに改善する」という着想になっているところがユニーク。「売れ筋は放っておいても売れる」という認識ではないところに、メーカーの威厳を感じます。

無印良品の事例では、ユーザーから寄せられる様々な希望・要望をサイト上にストックして、同趣旨の商品を案内したり商品を改良したりすることで、定番アイテムのMD(商品構成)を盤石にする=無印ブランドへの信頼を盤石にすることに成功しています。

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▼ まとめ


①森永製菓(商品ブランドの情報コミュニティ→ロングセールスを支えるロジック)
②オルビス(消費者かつ商品モニターの組織化→理想の商品を共につくるプロット)
③無印良品(自社メディアでのリクエスト受付→定番アイテムのベネフィット強化)

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この3社の取り組みをまとめると、(新)商品開発・ブランド普及のためのメディアという運営スタイルは共通しつつも、目的に合わせてコミュニケーションスタイルを変え、ユーザーの声を様々なプロダクト・コンテンツに活用する取り組みを行っています。

各サイトは、単なる自社の情報発信メディアではなく、永続的なブランドを育てるマーケティング&プロモーションの場として運営されています。ユーザーを企画・広報の中心に据えることで、ブランドカラーがいっそう理解されることを教えてくれる好例です。

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ファンコミュニティについて、もう少し勉強してみようかな、と思っていただいた方は、私が10月に出版した『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)内に書いたコンテンツもぜひご覧ください。

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書籍では、「ファンミーティング開催法」という一節で、マーケティング活用・PR活用の観点からファン活用の手法について論じています。本記事の事例を体系的に理解するのに役立つ内容なので、お近くの書店で見てみてくださいね。

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