英語のiはなぜアイと読む?

前回の記事では、ことばにまつわるいくつかの疑問を集めて、その解答はまた今度、としておきました。今回はその答え(になりそうなもの)をご紹介したいと思います。

皆さんご存知のように、英語ではiはアイと読むことが多いです。でもなんででしょう?本来iはイという音を表しているのではないのでしょうか?

例えば、ラテン語やイタリア語のような言語はローマ字のまま読めばいいと言われることがあります。それは、これらの言語では基本的に一つの文字が一つの音に対応しているからです。iは必ずイです(実は長いイと短いイは区別されませんが。。。)。

アルファベットの利点は一つの文字が原則一つの音に対応しているということです。そのため、漢字を学ぶ時のように一つの文字にある読み方や組み合わせをいちいち覚える必要がない、経済的なシステムなのです。


書いてあるように読む。これが原則なのになぜ英語はこんなことになってしまったのでしょうか?

実は英語もかつてはこんなに不規則なスペリングではありませんでした

英語という言語が歴史上初めて書かれるようになったのは7世紀のことです。ここから11世紀頃までの英語を古英語(Old English)と呼びます。

この時代には読み書きをできる層はかなり限られていましたから、書き言葉は聖職者などの占有物でした。そして現代で言うような正書法はまだ確立されていませんでした。そのため、比較的例外的規則も少なく、書いてある通りに読むのが原則でした。方言や時代によるスペリングの揺れはありましたが、現代英語を学ぶ時に遭遇する、ひっくり返りそうになるような程の不規則なスペリングはありませんでした。

時代は下って中英語と呼ばれる時期。この時期にはスペリングが定まるどころか多様化します。おそらく伊達に読み書きできる層が増えたことが原因だと思われますが、堀田隆一先生のブログによるとthroughにはなんと515通りものスペリングが乱立していたとのことです。

参考までに: http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2009-06-20-1.html

しかし、これはあくまで統一的な規則がなかったということであり、不規則な読み方が多いというのとは少し性質の異なる話だと言えます。

さて、このようにスペリングが乱立していた中英語ですが方言の問題もありました。しかし、首都ロンドンの政治的・経済的優位性から徐々にロンドンの方言が標準的となっていきました。

また、グーテンベルクの発明による活版技術の登場によって、スペリングも固定されていきました。それまでは各々の書き手が手書きで書いていたものに対して印刷するのですからスペリングが固定されて当然です。

しかし、こうしてスペリングが固定され始めていた時期に発音の面では大きな変化が始まっていたのです。大母音推移と呼ばれる、母音の発音が大きく変わる変化でした。

英語の歴史上最大の皮肉とも言っていいこの変化によって、例えばそれまで長いイを表していたiがアイと発音されるようになってしまったのです。これによって

find フィーンド→ファインド
name ナーメ →ネイム
keep ケープ →キープ
house フース →ハウス

のように長い母音の音が変わってしまったのです。

しかも、単語によってその程度が微妙に違ったりするため一筋縄ではいきません。

さらに、英語のスペリングにはフランス語の影響を受けたもの(ouでウと読む、auでオと読む、読まない語末のe)があり混乱の度合いを強めています。
実は他にも不規則なスペリングの原因はあるのですが、今回はiをアイと読む理由に焦点を当てて記事にしてみました。

他の問題の答えはまた今度の記事でお答えしたいと思います。

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